第四十五話 黒暗鳥《ダルバード》
「いたぞ、
俺は木の陰から、森の奥にいる黒い鳥を指で示した。
隣にいたエッダが小さく頷く。
鋭い爪を持っており、瞬発力も高い。
加えて、自身の気配を薄くして隠れる《影入り》という闘術を身に着けている個体が多い。
魔獣としての危険度は最下級だが、捕まえるのにはなかなか骨がいる。
警戒心が高く、下手に近づけばすぐさま逃げられる。
かといって、距離を取れば
俺は《オド感知・底》があるため、
俺は食料を得るため、エッダと共に森を歩いて魔獣を捜していたのだ。
マニやガロック、セリアは少し離れたところで待機してもらっている。
とはいえ、闘気を込めて叫べば、声が届く範囲内にいる。
何せ、いつ軍の連中が後を追ってくるかわからないような状況だ。
何かあればすぐに集まる必要がある。
「よく見つけた。お前は感知だけは役に立つな」
「……だけは余計だろ。それ、結構傷つくからな」
『そうであるぞ、ナルクの小娘よ! 妾の力を軽んじるではないわ! 無礼であるぞ!』
ベルゼビュートが口を挟んだ。
……け、結局、俺が入っていないぞ、それは。
エッダが目を細めて《魔喰剣ベルゼラ》を睨む。
俺は息を呑んだ。
エッダはどうにもベルゼビュートにあまりいい印象を抱いていないようだった。
俺も彼女から気をつけろと忠告を受けたくらいである。
「ただの軽口だ。私は、お前をそれなりには評価してやっているつもりだ」
……評価してやってるって、そんな上から目線な……。
俺がなんとも言えない心持ちでいると、エッダが軽くせき込んだ。
「……お前は重要な場面ほど強い。決して尻込みせず、前に進んで結果を出す。戦士にとっては大事なことだ。だから私も、お前を信頼して戦うことができる」
「そうか、あ、ありがとう」
不意打ちでそこまで真剣に語ってくれるとは思わなかったので、俺の方が照れてしまった。
嬉しいが、なんだかむず痒い。
エッダは目線を
少しの間、沈黙が続いた。
なんだかフワフワした変な空気になってしまった。
「で、でも、なんというか、そこまで求めてはいなかったというか……」
俺は場の空気を和ませて戻そうと、ついそう口にしてしまった。
エッダは顔を赤くして口をへの字に曲げる。
「言い過ぎたかと思って、たまにはと気遣ってやればそれか! もう二度と口にはせん」
「わ、悪い。でも、嬉しかったよ」
エッダは俺を横目で睨み、鼻を鳴らした。
「……フン」
『のう、のうのう、ナルクの小娘! 妾は? 妾はどう思っておるのだ? 好きに世辞を述べて構わんぞ』
ベルゼビュートがエッダへと尋ねる。
「やめとけベルゼビュート。ガロックもいるんだし、あんまり気軽に喋る癖をつけないでくれ」
……エッダは、どうあってもあまりベルゼビュートと仲良くしようとは思えないだろう。
元々気難しい性分であるし、自我のある魔喰剣自体にいい印象を持っていないようだった。
『む、むぅ……妾ばっかり我慢を強いられて、世知辛いのう。パルムガルトとやらに着いて、この件が終われば、たっぷりと労ってもらうからの、ディーン』
「あ、ああ、期待しておいてくれ」
俺は言いながら、金銭のことを考えていた。
使い捨てにした
マニは逃亡資金を作るために、鍛冶屋の鉱石を安値で捌くようなこともやっていたようだった。
当然、旅が終わればそっちの補填もどうにかしたい。
たっぷり、かぁ……。
そんな金銭面の余裕があるだろうか?
マニに魔導剣を打ち直してもらうために金銭にも余裕を作って準備をしていたはずだったのに、いつの間にかまた金欠に陥ってしまいそうだ。
シルヴァスから多少なりとも謝礼がもらえるとありがたいなと、ついそんなことを考えてしまう。
「《クイック》」
エッダが唱えると魔法陣が展開され、彼女の身体を光が包んだ。
速度を引き上げる
「お、おい、ちょっと無謀じゃないか」
人間が近づいてくれば、すぐさま逃げるはずだ。
「お前の手を借りずとも、私一人で充分だ」
エッダはそう言って、一気に前へと駆け出した。
……さっきの反応をまだ少し怒っているのかもしれない。
ま、また謝っておこう。
だが、さすがのエッダといえども、ここから真っすぐ駆けて行って
「《トリックドーブ》!」
俺は剣を掲げる。
魔法陣が展開され、そこを潜る様に一体の
狙うのは
上で爆発が起これば、怯えて飛び損ねてくれるかもしれない。
エッダは
途中でエッダに気が付いた
その瞬間、エッダの速度が跳ね上がった。
《瞬絶》である。
記憶にあるエッダよりも動きが速い。
エッダはいつだって鍛錬を欠かさない。
その成果だろう。
だが、さすがに今から
エッダは地面を蹴って跳ぶと同時に前へと大きく進み、続けて木の幹を蹴って更に上へと跳んだ。
エッダは
これは本当に間に合ってしまうかもしれない。
「はぁっ!」
エッダが魔導剣を振るう。
刃は、
「ガァッ!」
黒羽が周囲に舞った。
だが、それだけだった。
エッダが着地し、歯痒そうに
そこへ丁度、俺の放った
俺も直接当たるとは思っていなかったが、運がよかった。
エッダが切り付けてくれ、丁度いい高さで留まってくれたのがありがたかった。
「惜しかったな。でもまさか、あの位置から刃を当てられるとは思わなかった」
俺が声を掛けると、エッダがむすっとした表情で俺を振り返った。
何か言われるかもしれないと思って身構えたが、エッダは息を吐いて身体の力を抜いた。
「……よくやったディーン。危うく私のミスで逃がすところだった」
「お、おう……」
最近エッダがちょくちょく素直な時が増えてきたので、俺もなんだか反応に困ってしまう。
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