第七十三話 方針
「はぁっ!」
エッダの放った刃が、
エッダは
「《硬絶》持ちは、やはり長引くな。余計な消耗をさせられた」
エッダは剣を振るい、血を飛ばしながらそう口にした。
二体目の
皆もう、体力が消耗しきっていた。
鍋を用いて、
勿論食料も用意していたが、これは最低限腹を満たすことを目的とした保存食ばかりだ。
栄養は二の次となっているし、量もそれほどはないので温存しながら食べる必要がある。
その点、魔迷宮内で食べられるものがあれば、量を気にせずに食すことができる。
肉を解体している途中、つい癖で闘骨を取り出してしまった。
俺も何も考えずに作業していて、手に闘骨を取ってからようやく気が付いた。
「お前……」
エッダが呆れたように俺を見ていた。
「い、いや、その、クセっていうか……」
「まぁ、C級魔獣の闘骨だけであれば、嵩張らないか」
エッダの言葉に、俺は安堵した。
軍との騒動の決着がつくまでは、
……だが、それでもやっぱり金銭は大事だ。
捨てるにはあまりに惜しい。
「食べなければ、オドは回復せん。特にこんな環境であればな。余った分は捨てるしかないのだし、とにかく詰め込んでおけ」
「……そうだな」
疲労のあまり、正直あまり食欲もなかった。
ただ、それでも、食べなければオドは弱る。
俺は深呼吸してから、一気にパンに齧りついた。
左腕と腹の怪我は概ね《自己再生》で治癒している。
ただ、そもそもの闘気が足りないため、完全回復とはいかない。
「食えば、しっかり眠れ。お前の分の見張りは、今回だけは私とマニで替わっておいてやる」
「エッダさん……」
マニがぽかんと口を開く。
「なんだ、構わんだろう?」
マニがくすりと笑う。
「勿論、僕も賛成だ。構わないよ。ただ、エッダさんが言い出すのが少し意外だったんだ」
エッダが眉根を寄せ、少し照れたように顔を画する。
「私が言わねば、どうせマニからは言い出し辛いだろう」
その様子を見て、俺とマニは笑った。
「ありがとうな、エッダ。二人には悪いが、今回は回復に務めさせてもらう」
「別に、お前に倒れられれば、困るのは全員だからな」
エッダは少し拗ねたように、そう言った。
最初に会った頃から比べて、本当に彼女も柔らかくなったなと思う。
食べ終わった後は場所を移動した。
血の匂いが、あまりに残り過ぎているためだ。
匂いを追ってきた
マニの《エアルラ》がなるべく最低限で済むように、狭い場所を選んで休眠の場所とした。
休眠が終わってからは食事を行い、今後どう動くかについて話し合った。
「……ここまでなるべく壁には目を走らせてきたつもりだけれど、
マニが深刻そうに、そう口にした。
「地下四階層の探索なら、軍であれば別段難しくはないからね。少し、思ったんだ。もしも
「……なるべく、まともな道になっていないところを進んだ方がいいってことか?」
そうした道を選べば、進むのには苦労するだろうが、まだ軍の手が入っていない可能性は上がる。
「ううん……とりあえず、そうしてみるしかないかな……」
「その悩みなら簡単だ」
パンを呑み込み、エッダが口を開く。
「何かいい考えがあるのか?」
鉱物の専門であるマニでさえ、明確な打開策が見えないでいるのだ。
エッダは一体、何を閃いたというのだろうか。
「軍の連中も、レベルが高いのは一部の魔導尉だけだ。簡単に死人が出るような探索を続けていれば、全体の士気も落ちる。人海戦術で大規模な探索はできるが、結局は限界がある。数頼みでできることと、少数精鋭でできることは違う」
つまり、人海戦術で探れない場所を中心に探索する、ということか。
確かにエッダの意見には一理あるように思う。
「ただ、その軍の連中が潜れなかっただろう場所っていうのは、どこのことなんだ? 結局マニの言っていたように、狭い道を選ぶしかないんじゃ……」
「まだわからんのか。地下五階層だ」
さっき食べた食事が、口を出そうになった。
俺は咳き込んで喉を押さえる。
「そ、そりゃ、地下五階層なら
地下五階層は、さすがに無謀すぎる。
地下五階層には、この階層以上の本物の悪夢がある。
「ディーン、レベルは幾つになった?」
エッダが尋ねてくる。
「え? 入ったときから二つ上がって、【Lv:32】になったけど……」
「
俺は頭を押さえる。
確かに、そこはエッダの言う通りだ。
……だが、本当に今の俺達に、地下五階層から生還できるポテンシャルがあるのだろうか。
「マ、マニ、どう思う?」
マニも口許を押さえ、真剣に考えこんでいた。
「……軍は軍で、融通の利いた探索が行いにくいと思う。だから、地下四階層と決めたら、地下五階層には一歩だって踏み入らなかったかもしれない。凄く浅い場所で、
俺はマニの言葉を聞き、目を瞑って逡巡した後、立ち上がった。
「わかった……地下、五階層へ行こう。そうじゃないと、レベルも足りないし、
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