第七十二話 二体の大牛鬼《ミノタウロス》
俺は二体の
魔迷宮が長年放置されていた弊害だろう。
単体だって厳しい相手だ。
後のことを考えてはいられない。
ここを死ぬ気で凌ぐしかない。
「……先に片角を狙うぞ」
エッダがそう言って、地面を蹴って
エッダが狙っている
だから片角だと、そう呼んだのだろう。
先に片方を集中攻撃するのは、当然の考えであった。
というより、強引に攻めて速攻で片方を倒せなければ、俺達に勝ちはない。
「《クイック》!」
エッダは
完全に短期決戦狙いである。
エッダは
巨体が弱点になった。
あの位置からでは、
エッダの刃を、
エッダは顔を歪めていた。
刃は、明らかに肉の壁を突破できていない。
骨を断てていない。あれくらいの怪我であれば、大柄の魔獣にとっては軽傷だ。
「どいつもこいつも、《硬絶》持ちとはやり難い」
二体の棍棒がエッダを襲う。
エッダは上手く、その合間を潜り抜けるように回避した。
速度強化の闘術と魔法を併せ持つ、エッダだからこそできた強引な回避だった。
俺には、あんな避け方はできない。
地面が容易く窪み、罅が入っていた。
俺は息を呑んだ。あんなの、どこかに受ければ、その時点でまともな戦闘継続は不可能だ。
俺はマニを振り返り、目線で警告した。
マニは力なく頷く。
マニに太刀打ちできる相手ではない。
それに今のマニは、
後方で控えていてもらうべきだ。
エッダの剣でさえ、意識の範囲であれば《硬絶》で全身のどこでも防がれる。
俺が決定打を取るには、ガロックの《雷光閃》以外にない。
しかし、今の
エッダを狙った棍棒の動き、一つ間違えていればお互いを攻撃しかねないものだったはずだ。
連携が取れている? いや、そうは考えにくい。
お互いを誤って攻撃することへの警戒が低いというのなら……そこに、隙があるのかもしれない。
エッダは二体の
俺が隙を見つけてやるしかない。
時間を掛けていれば、順当に全滅させられて終わりだ。
一か八か、一気に賭けに出る!
エッダを狙い、棍棒が振り降ろされる。
俺はその棍棒の頭に乗り、上を駆けて片角の
もう片方の
緊張で荒れる息を整える。
少しでも運が悪ければ、次の瞬間に叩き殺されていてもおかしくない。
俺の乗る棍棒が振り上げられる。
俺はそれに合わせて跳躍し、《魔喰剣ベルゼラ》を構えた。
宙より、片角の
闘気を全身に巡らせる。闘気が俺の身体より滲み出て、それは雷となって身体を走る。
俺のオドでは《雷光閃》は一発が限界だ。
最低でもここで片方を仕留めなければ、後がない。
「《雷光閃》!」
雷を纏った一撃を振るう。
これならば、部位さえ悪くなければ《硬絶》の上からでも穿ち殺すことができるはずだ。
だが、
棍棒と《雷光閃》がぶつかる。
押し切れ……ないっ!
「ブオォオオオオオオ!」
相手の体勢は防ぐのに適した状態ではなかったが、それでもそれでもただでさえレベル上、《剛絶》まで後押しすれば、力比べで俺がどうにかなるわけがない。
剣先を弾かれた直後、俺の左腕に激痛が走った。
骨が、拉げていた。振り抜いた棍棒が掠めたのだ。
左腕で庇われた形になっていた腹部にも衝撃が走る。
腹の内側がぐちゃぐちゃに搔き乱されたような感覚だった。
掠めただけなのに、意識を手放してしまいそうになる。
身体の奥から汗が噴き出してくる。
俺はただ、闘気を燃やし続けることに専念した。
この《雷光閃》を途切れさせれば、二度目は使えない。
絶対に手放してはいけない。
「ディーンッ! 後ろっ!」
マニの叫び声が聞こえる。
確認している余裕はないが、状況はわかる。
無防備に打ち上げられた俺の背を、もう一体の
今、まともに身動きは取れない。
身体を傾けて棍棒を往なすような器用な真似も、片腕の潰れた俺にはできない。
窮地だが、好機でもあった。
俺は闘気を振り絞り、《水浮月》を使った。
液状化した俺の身体を、
棍棒は勢い余り、もう片方の
「オゴオッ!」
タフさを誇る
予想できていなかったため、《硬絶》のガードも遅れたはずだ。
ぐらりと姿勢を崩し、その場に膝を突いた。
俺は自身が透かした棍棒の上に着地し、素早く蹴って膝を突いている
「くらいやがれっ!」
首に狙いをつけ、《雷光閃》の大振りを構える。
拉げた腕は《自己再生》で強引に繋ぐ。
今は雑でもいい。とにかく、この剣を支えられればそれでいい。
「ブオオオオ……!」
首の筋肉が目に見えて膨れ上がり、頑強になる。
肉が大きく抉れ、首が折れた。
体液は飛ばなかった。代わりに、炭化した肉片が飛び散った。
無事に倒せたのだ。
俺は右腕で《魔喰剣ベルゼラ》を構えながら、
残った
エッダも息を呑んで、俺の方を見ていた。
俺は刃の先に、
「悪いけど、俺はもう空っぽだから、牽制を務めさせてもらうぞ」
エッダは表情を緩め、軽く笑ってみせる。
「ああ、任せておけ」
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