第六十三話 継承の技
完全に
二体は音響爆弾の確認に向かい、三体はベルゼビュートと交戦中で、最後の二体は俺が今振り切った。
後は
ここまでは上手くいったが、ここからが最大の賭けでもある。
「アアア……!」
かなり錆付いており、過去に付着したらしい血の汚れも洗い流さずにそのままにされている。
切れ味は悪いだろうが、C級魔獣の剛力で振り回すのだ。
どの道、直撃を受ければ一発で殺されることに変わりはない。
今までとは違い、C級魔獣相手に、俺が決定打を取らなければならない。
これまでの戦いでは、俺は基本的にエッダの補佐でよかった。
だから攻めなければ、という気負いが薄かったかもしれない。
俺の最大の目的は牽制であった。
だが、今回、エッダはいない。
俺が、C級魔獣である
それも
今まで、俺がどれだけエッダに頼っていたのか、身に染みてわかった。
牽制でいい場面と、自分が相手を仕留めなければならない場面では、圧迫感がまるで違う。
エッダはいつも、この状況で果敢に攻撃を仕掛けていたのか。
あまり戦いの駆け引きをしている猶予はない。
とにかく、攻めねばならない。速攻での勝利、それ以外は敗北に繋がっている。
俺は《闇足》を用いて、
あの巨体に加え、長い腕、そして巨大な刃。
挟み撃ちの状態とはいえ、不意を突いて近づくには、あまりにリーチの差が大きすぎた。
これは受けられない、《水浮月》で透過するしかない。
刃が俺の腹部を斬るが、身体が液体化し、すり抜けた。
「アァ?」
「くらいやがれっ!」
俺は
肉に刃がめり込み、血が舞った。だが、すぐに止まった。
首が、あまりに太く、硬すぎる。
やはり速攻で仕留めるには、闘気の差が大きい。
これは、回避できない。
そう思った時、マニが《悪鬼の戦鎚ガドラス》を手に、
「グゥッ……」
咄嗟に腕で身体を庇い、《硬絶》でガードしたが、それでも意識が飛びかけた。
地面を転がり、どうにか素早く体勢を持ち直して立ち上がった。
「マニッ!」
「大丈夫……だよ、ディーン。このくらい、何ともないさ」
息を荒げながら、マニが立ち上がる。
だが、大丈夫なわけがない。
俺は背後へ目をやる。
俺が振り切った二体の
「《プチデモルディ》!」
遠くのベルゼビュートが消え、俺のすぐ目前へと姿を現した。
元々ベルゼビュートの引き付けていた三体は、今は大分離れたところにいた。
こちらに戻した方がいい。
「よし、次はあの二体を止めればよいのだな!」
俺は一瞬逡巡した後、
「いや……ベルゼビュートも、
「わ、わかったが、もう一刻の猶予もないぞ!」
ベルゼビュートは
俺もベルゼビュートに続き、再び《闇足》で死角に回り込みつつ、
ここで仕留められなければ、
ベルゼビュートは一振り目を身体を逸らして回避したが、素早く二振り目が放たれた。
ベルゼビュートはそれを、交差した両手と肩で受け止める。
そのとき、倒れていたマニが、懐より鉱石を取り出して
「《プチデフォーマ》!」
宙の鉱石目掛けて、マニが
カッと眩い光が放たれ、
ここしかない。
ベルゼビュートが大剣を受け止め、マニが気を逸らしてくれた。
俺は死角に入り込めている。
俺は目を瞑り、全身に闘気を巡らせる。
闘気は雷に変わり、俺の身体を覆う。
予想以上にオドの疲弊が激しい。
だが、身体が凄く軽くなったのを俺は体感していた。
『オレの《雷光閃》はよ、オレがお前くらいのガキの頃に、必死に習得した闘術だ。絶対に勝てない相手ってムカつくだろ? 自分より強い奴らに喰らいつけるチャンスが残る、そんなこの闘術にオレは憧れてたんだ』
脳裏に、ガロックの姿が過った。
俺は剣先を
地面を蹴り、一直線に駆ける。
普段よりずっと速く身体が動く。まるで自身が、雷になったかのようだった。
ベルゼビュートの身体が、振り抜かれた大剣に突き飛ばされる。
もう、遅い。俺は、
「《雷光閃》!」
刃が、
突き刺した胸の周囲が黒く焦げ、
使って分かった。
闘気の消耗が、オドの負担が尋常ではない。
これを三度も続けて使っていたガロックは、本当に化け物だ。
だが、効果も絶大であった。
あんなに硬かった
それに雷を纏っている間、身体が恐ろしく軽いのだ。
速すぎて、自分の動きを制御できないかもしれないと、そう不安になったくらいだ。
遠くに、ガロックが見えた。
ガロックは口をニッと歪め、俺に親指を立てていた。
俺が驚いて目を見開いたとき、ガロックの姿は、風に溶けるように消えた。
「……ありがとうございます、ガロックさん」
俺はそう呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます