第二十四話 猫人族
まさか先行している三人組の一人がモーガンだとは思わなかった。
「と、いうことは……先へ行ったもう一人は、ギルバードの奴か。負傷した運び屋とお前を放置して、
「…………」
モーガンが口を閉じ、目を背ける。
俺と会ったのがバツが悪いのだろう。
俺はちらりと、ローブの少年へと目をやる。
脅えた様に、おどおどとしている。年齢はまだ十ニ歳前後だろう。
身体は服の上から皮膚を裂かれた痕があり、足に赤い穴が並んでいた。
恐らく赤い穴は、
「……《
マニが少年の被ったローブの頭の部分を眺めながら、そう口にした。
確かに、ローブには不自然な二つの盛り上がりがある。
《
もっとも、《
ローブを被っていたのもそのためだろう。
《聴絶》は、闘気での身体強化を聴覚の強化に当てたものだ。
闘術は魔核を必要とせず、魔導剣を介さない。
その分、先天的な素養が大きくなり、修行を積んで修得するのは魔法以上に困難であるとされている。
基本的に《
前例がないわけではないが、習得は困難であるとされている。
長く山に篭り、秘薬を呑み、魔獣の生き血を啜ることでようやくその力を得ることができるという。
《
もっとも、その代わり魔法に対する適性が薄く、習得が遅いとされている。
「……は、はい、ボクは、キャロルと申します。ギルバードさんに、
「余計なことを口にするな」
モーガンがキャロルを睨む。
「それでこんなに小さい子を地下三階層まで連れて来て、戦えなくなったら置いて先へと向かったわけだ。ギルバードにはロクな話は聞いたことがなかったけれど、相当らしいね。元々その子、冒険者でさえなかったのだろう?」
マニの話を聞いて合点がいった。
元々冒険者でさえなかったのならば、《聴絶》持ちの運び屋がいると噂になっていなかったことにも納得が行く。
「ガキがずけずけと言ってくれる! あいつを先に進ませたのは、俺の意思でもある。ここで
モーガンが声を荒げて口にする。
……特別な運び屋まで雇い、準備を積んでここまで来たのだ。
退くに退けない、ということか。
魔獣が来ればキャロルの《聴絶》で感知して回避し、帰還したギルバードと合流する、という手筈になっているのだろう。
「はっ! 俺達のことをとやかく言える立場なのか? お前達にしたって、感知持ちもなしに、
俺はモーガンを無視して、キャロルへと目を向ける。
このままだと、キャロルも俺と同じ目に遭うだろう。
ギルバードは追い詰められたからああいった行動に出た、それは事実だ。
だが、状況を招いたのは、撤退せずに強行を選んだギルバードだった。
……そして今回も、無理してレベルのほとんどないであろう子供を魔迷宮に連れ出し、挙句の果てに地下三階層で戦力を分散させている。
私怨もあるため悪く見てしまうということもあるが、とんでもない屑野郎だ。
「……いいか、よく聞けキャロル。こいつらは運び屋を雇うだけ雇って、いざとなったら囮にして逃げる様な連中だ。金に困っても、こんな奴らの依頼を受けちゃあいけない。とっととこんなところは出よう」
長居よりも、キャロルを無事に連れての脱出を選ぶべきだ。
俺はそう判断した。
モーガンは顔を青褪めさせる。
「きっ、貴様、俺達の邪魔をするつもりか! あのときの場は仕方がなかっただろうが!」
キャロルは戸惑った様に俺とモーガンを見た後、俺へと視線を戻し、首を振った。
「……忠告、ありがとうございます。でも、引き受けたのはボクです。それに、ボクがいないと、ギルバードさんもモーガンさんも、無事にここを出ることが難しくなります」
「……そう、か」
キャロルも、金に困っているのかもしれない。
あの時の俺も、忠告を誰かから受けたとしても、きっとギルバードからの依頼を蹴ることなんてできなかっただろう。
モーガンが心底安堵した表情を浮かべていた。
「だが、悪いが、
俺はそう言い、彼らへと背を向けた。
「はっ! やれるものならやってみやがれ。お前達如きが、ギルバードより先に奴を狩れるわけがない!」
モーガンが俺の背へと言う。
俺はそれから振り返らず、通路の先へと向かった。
マニが少し遅れて俺の後をついて来る。
キャロルのことは不安だが……《聴絶》があるのなら、この先、魔獣から逃げ回ることはできるはずだ。
それに、ああまで言っているキャロルを説得することは難しいだろう。
俺にはわかる。
キャロルは、自分が冒険者としてやっていけることを証明したいのだ。
俺も、運び屋の雇い主の冒険者にあまりよくない奴らがいることもわかっていた。
それでも、やらなければならないと思っていた。
俺が相手をするのは、むしろ質の悪い連中のことの方が多かったからだ。
キャロルは、善意の第三者の手を借りず、この討伐を無事に終わらせることで、冒険者とやっていける素質が自身にあると、そう思いたいのだ。
ギルバードさえ生還できれば、無事に上階へとキャロルも帰還できるはずだ。
《オド感知・底》で探りながら進む。
通路を進み、ギルバードのものらしいオドが、
ついに
ギルバードが端まで追い詰めたのか、それとも
「……いや、これは、違う……?」
追撃者へと他の魔獣の群れをぶつけに掛かってきた。
そして恐らく、
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