第十六話 再生封じ
剣の一閃ならともかく、棍棒の殴打は《水浮月》では到底凌げそうにない。
この間合いで避けるのも無理だ。
俺は腕を上に回して《硬絶》でガードしつつ、横へと必死に跳ねた。
これでどうにかなるとは思えないが、直撃よりは遥かにマシだ。
「間に合わせる!」
素早く切り返して俺の方へ駆けてきたエッダが、
体表を通した。
死角からの一撃であったため、《硬絶》が遅れたのだろう。
棍棒は俺の真横を叩いた。
地面が大きく窪み、亀裂が走っていた。
当たっていれば、まず重傷だった。
この
俺の身体も、衝撃で軽々と宙へと跳ね上げられた。
空中で
奴は棍棒を振り下ろした態勢で、じっと俺を見つめていた。
殺される。
今の無防備な体勢の俺へ、第二撃をぶちかましてくるつもりだ。
《プチデモルディ》は間に合わない。
あの魔法は悪魔の擬似体を造り出す複雑なものであり、他の単純な魔法と比べればどうしても一瞬遅れる。
その一瞬の時間が足りない。
今は、攻勢に出るよりここを凌ぐ必要がある。
「《マリオネット》!」
俺は咄嗟に棍棒へと手を掲げ、その表面を手でなぞった。
俺は手を宙で手繰り、棍棒の逆側へと抜けた。
振り上げられた棍棒は俺を掠めた。
俺の身体は
「オオオ……?」
予想外の軌道で空中を動き回る俺を、
仕掛けるなら、今しかない。
ここでしくじればチャンスはもうない。
この
ここで確実に《自己再生》を奪う。
俺は魔力を一気に《魔喰剣ベルゼラ》へと注いだ。
「頼んだベルゼビュート……《プチデモルディ》!」
剣先から魔法陣が広がる。
その中央を抜け、ベルゼビュートが姿を現した。
「一気に仕掛けるぞ、ディーンよ! 妾もあまり時間は稼げんぞ!」
ベルゼビュートが
ベルゼビュートは身体を捻って勢いを付け、棍棒へ拳を叩きつけた。
互いの動きが瞬間硬直する。
しかし、すぐに力負けしたベルゼビュートが弾き飛ばされた。
ベルゼビュートが地面へと叩き落される。
そのまま勢いでベルゼビュートの身体が地面を擦り、壁へと叩きつけられた。
まだベルゼビュートの《プチデモルディ》を保てないこともないが、これだけ離された時点で、戻している時間だけ維持に魔力が浪費させられてしまう。
俺は《プチデモルディ》を解除した。
それに、この一瞬を稼いでくれただけで充分だ。
「うおおおおおおおっ!」
俺は
既に剣身に《暴食の刃》の魔力を滾らせている。
鎖骨に突き立て、刃の先端を抉りこませた。
そのまま刃を振るう力に落下の加速度を乗せて、強引に下まで一気に斬り進む。
これで《自己再生》を
「よ、よし、やった!」
後は手数を与え、確実にダメージを重ねていけばいい。
俺は近接ではとても安定して渡り合えない上に、《プチデモルディ》はそう何度も使える魔法ではない。
間合いを取り、遠距離で二人の補佐をする戦い方に切り換える。
この
《自己再生》がなくなった今、崩すのは不可能ではないはずだ。
俺は着地し、素早く地面へ蹴って背後へ逃れようとした。
「オオオオオオオオオッ!」
素早く跳び、再び俺を正面に捉えて棍棒を大きく引いた。
横薙ぎの一撃が来る!
一撃入れるまではいいが、その後のことを考えている余裕がなかったのだ。
ベルゼビュートが突き飛ばされたのが痛い。
狙いが二人へ逸れる方に賭けていたが、どうやら《暴食の刃》を受けて
このままでは、距離を取る前に殺される。
エッダが駆けてくるが、彼女との距離は遠い。
そのとき、背後から太い腕に抱えられた。
尻目に背後を確認すれば、ガロックだった。
険しい三白眼で俺を睨んでいた。
「バカが! あのデカブツにヤワな一撃入れても意味がねぇと、わからねぇか!」
ガロックが地面を蹴飛して上へ飛ぶ。
俺達のすぐ下を棍棒が掠めていった。
それだけで空気が乱され、豪風が吹き荒れた。
ガロックが助けてくれたのだ。
危なかった。
俺だけでは、回避しきれなかった可能性が高い。
「あ、ありがとうございま……」
「オラァ!」
ガロックは空中で声を荒げながら、俺を後方へとぶん投げた。
「えっ……!」
こんな唐突に投げられるとは想定していなかったため、宙で体勢を整えきれなかった。
俺は地の上を転がり、どうにか受け身を取ることができた。
ガロックは地上を駆け回り、どうにか棍棒を避けつつ
俺を庇いながらでは、着地を狙われると判断してのぶん投げだったのだろう。
少し驚かされたが的確な判断ではあったはずだ。
ガロックは荒々しく大雑把には見えるが、その実先を見据えつつ堅実に動いている。
いや、そうでなければ、この
《自己再生》のことを、直接伝えるべきか否か、悩んでいた。
ガロックに知れれば、情報が露呈するかもしれないというリスクが残るからだ。
なるべくならば、
だが、そんな余裕があるのかは怪しいし……それに、少なくともきっと、この人は悪意的に《暴食の刃》ことを広めようとはしないはずだ。
ガロックから見て、無思慮に突っ込んだだけにしか見えなかったはずの俺を、命懸けで助けてくれたくらいなのだから。
「ガロックさん、
俺は息を吸い、声を上げた。
ガロックは驚いたように眉をぴくりと動かしたが、犬歯を覗かせて攻撃的な笑みを浮かべた。
「そうか、よくやったガキ」
魔法や闘術に制限を掛ける能力は、珍しいが存在しないわけではない。
俺は見たことはないが、上位の
ガロックもまさか俺が
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