第七話 コボルト
《ロマブルク地下遺跡》の地下三階層を、《オド感知》で辺りを探りながら進む。
道中で
不思議なものだ。
昔はあれほど警戒させられた魔獣が、今では一番の安定した収入源なのだから。
「マニ、マナランプを弱めてもらっていいか? ターゲットっぽいのがいる」
「ああ、わかったよ」
マニは俺の言葉に頷き、マナランプの光量を調整する。
「
エッダが俺に尋ねる。
「みたいだな。少なくとも、
……C級魔獣、
今まで俺が相手取った中でも最上位クラスの魔獣だ。
一般的に考えればソラスよりは厄介ではないはずだが……魔獣は悪魔と違い魔法を用いての絡め手が少ない分、《魔喰剣ベルゼラ》による能力潰しの効果が薄い。
今の俺達にはちょっと背伸びした相手だ。
だが、その分、リターンは大きい。
俺やエッダより一回りレベルが高いため、得られるオドも格段と高くなる。
二人掛かりでもレベルを上げられるはずだ。
マニには後方で控えてもらい、俺とエッダの二人で強襲することにした。
「……すぐこの先にいる。休息中みたいだ。動きがないし、オドの活動も鈍い。一気に仕留めるぞ」
俺とエッダで先行し、ゆっくりと気配へ近づく。
巨大な斧を手に、壁に凭れて目を閉じている
俺より頭二つ以上はある巨躯に、人間なんざ簡単に腹ごと鷲掴みにできてしまいそうな大きな腕が印象的だった。
凭れている背後の壁は青く輝いていた。
恐らく、あれが
「動っ……!」
俺より先にエッダが動いた。
態勢を屈め、地面を蹴り、俺より遥かに速い速度で
「ギォッ」
そのまま魔導剣を振り切るかに見えたが、刃が途中で止まる。
「……さすがに硬い」
エッダは途中から魔導剣を引き抜きながら振り切り、背後へと大きく跳んだ。
「《イム》!」
俺は走って追いつくまでの間に、
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
種族:《コボルト》
状態:《通常》
Lv:32
VIT(頑丈):101
ATK(攻撃):84
MAG(魔力):79
AGI(俊敏):78
称号:
《中級魔獣[C]》《土の素養[E]》
特性:
《鉱物探知[D]》《魔血[B]》
《暗視[E]》
闘術:
《嵐咆哮[C]》《裂爪[D]》
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
……レベルは、通常の
しかし、さすがレベルが十上なだけはある。
今の俺よりも攻撃力が三十近く上だ。
あんな攻撃、耐えられるのはせいぜい一撃までだ。
闘術も、変わったものはない……いや、違う!
通常、
《嵐咆哮[C]》は聞いたことはない。
間違いなく上位の闘術だ。
「叫び声に気をつけろ!
不意を討つのを優先して、最悪の結果になってしまった。
エッダには下がってもらい、不意打ちは諦めて《イム》から入り、《プチデモルディ》で最初からベルゼビュートを出して攻めていくべきだったか。
極力、俺は《プチデモルディ》を温存しておきたかった。
ベルゼビュートの能力が強力すぎるが故に、これは何度も使える魔法ではない。
魔迷宮の地下三階層の奥地以降では、ふらっと感知の利かない様な悪魔が現れることもある。
そうでなくても魔迷宮の中でも例外は付き物なので常に保険は掛けておきたかったのだが……こっちでその例外が来てしまった。
「ギァ、アァアァアッ!」
周囲に暴風が走った。
エッダは隙を晒すことを恐れてか、風に敢えて乗り、更に後ろへと跳んで距離を取る。
彼女の腹部を
「危な……」
「ギアッ!」
「エッダ! 大丈夫か!」
「……問題ない、脚は浮かせて受けた」
エッダが微量の血を床に吐き、ゆっくりと立ち上がる。
「ギァァァツ!」
側部から接近した俺に対し、
回避は難しい。
それに今は、一刻も早く奴から《嵐咆哮》を奪う必要がある。
あれをまともに受けたら、体勢を取り直すまで逃げに転じるしかない。
エッダだから上手く捌いて致命打を避けられたが、俺が《嵐咆哮》から同じ攻撃を受けていれば、命を繋ぐのは難しかっただろう。
大斧の一撃を、身体を液状化して透過させる。
《水浮月》はタイミングが難しく、持続するには多量の魔力を要するため瞬間的にしか発動することはできない。
しかし、今回の場合は
大斧を回避した後に、
刃の接触時に、
「もらっ、たぁ!」
《魔喰剣ベルゼラ》が、
『うむ、少々獣臭いオドであるな。だが、このクセの強さは妾は嫌いではないぞ』
ベルゼビュートが満足げに零す。
「らぁっ!」
離れ際に下から振り上げる様に
これで奴はもう《嵐咆哮》は使えないはずだ。
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