第七十八話 王獣魔蝦蟇《ベヒモスロッガー》
俺は
「《トリックドーブ》!」
魔法陣が展開され、そこを潜る様に一体の
真っ直ぐに飛来していき、尾へと当たって小さな爆発を起こした。
尾には、傷一つついていなかった。
羽虫でも眺めるような視線だった。
「嘘だろ、さすがに硬すぎる……」
これは、想定以上だ……。
「隙を見せたな!」
エッダが反転し、地面を蹴って
刃が
傷から体液が染み出しているが、浅い。
ゆっくり振り返り、邪魔臭そうにエッダを睨む。
《トリックドーブ》は追尾性が高いが、元々攻撃性能は若干低めである。
だからまだダメージが通らなかったことも理解できる。
ただ、速さの乗ったエッダの高火力な一撃を受けてあれだけ平然としているのは、さすがにショッキングだった。
「なあ……エッダ、本当にあいつ、俺に倒せると思うか?」
「知るか、お前が考えろ」
俺の弱音を エッダがばっさりと切り捨てる。
「ヴェエエエェエエエエッ!」
ぐぐっと、脚の筋肉が膨張したのがわかった。
エッダが顔色を変えて
「前方に立つな! 横に回り込め!」
俺は《闇足》を用いて少しでも速さを嵩増しさせ、巨獣の正面から逃げた。
避けられたが、風の衝撃で俺はその場に引っ繰り返った。
どうにか膝より着地し、素早く立ち上がる。
轟音が響く。
土の壁が大きく凹み、衝撃のあまり天井や床に罅が入っていた。
魔獣というより、最早それ単体が天災であった。
天井より落ちてくる瓦礫を、俺は必死に避けた。
「化け物め……」
「ヴェェェェェェエエエエエッ!」
再び
脚に力を入れたかと思うと、今度は宙に高く跳び上がった。
「嘘だろ!? あの巨体で跳べるのか!?」
確かに《大跳躍》という闘術は保有していた。
今、突進してきたのも恐らくあの闘術を用いている。
だが、横に跳んで突進するのが精々だと思っていた。
こんな化け物がぴょんぴょん跳び回ったら、魔迷宮なんて簡単に崩落しかねない。
階層内が大きく揺れ、地面に罅が走る。
砂煙が舞い、天井から石礫が落ちてくる。
振動に足が取られたエッダへ、
「ヴェェェェェェエエエエエッ!」
「くっ!」
エッダは背後へ跳んだが、一瞬間に合わなかった。
腹部に先端の一撃を受け、遠くへ吹き飛ばされていった。
地面に背を打ち付け、転がっていく。
「エッダ!」
土砂に覆われ、彼女の姿が見えなくなる。
離れた場所に控えていたマニが、エッダを助けに向かった。
奴の闘術で残っているものは逆算できる。
【《王酸弾[B]》】
【闘気の塊によって練られた強い酸の球体を豪速で放つ。】
【球体は厚い油膜に覆われているが、空気に触れると急速に溶けだしていく。】
あの位置に《王酸弾》を撃たせるわけにはいかない!
「《プチデモルディ》!」
俺が普通に攻撃を当てても、闘術を止められるわけがない。
ベルゼビュートに隙を作ってもらい、《暴食の刃》を叩き込んで止める!
魔法陣を潜り抜けるように、ベルゼビュートが姿を現した。
「くらうがよい!」
ベルゼビュートは素早く接近して腕を掲げ、その爪で
脚の一つが豪速で振られ、ベルゼビュートを蹴り飛ばした。
「うぶうっ!」
一瞬で
やはり
だが、これで一番近い脚の動きに隙が生じた。
俺は近くの石を蹴って跳び上がり、《魔喰剣ベルゼラ》に光を纏う。
「くらえっ! 《暴食の刃》!」
相手のオドを斬り取るため、多少は程度深く刃を叩き込む必要がある。
俺は体重を込め、《魔喰剣ベルゼラ》を振り下ろした。
何かに身体を打ちのめされ、跳ね上げられた。
それが
全身に激痛が走る。
胃液が喉の奥からせり上がる。
蠅を叩くような気軽さで放たれた一撃が、俺にとっては死に至りかねない殴打だった。
《暴食の刃》が途切れた。
意識を手放さないのがせいいっぱいだったのだ。
このままだとエッダとマニが危ないが、今更俺が何かをしたって、
「いや……《マリオネット》!」
俺は《魔喰剣ベルゼラ》を振るい、手に
それを天井へ掲げ、自身の落下と共に引っ張った。
俺は勢いよく引いた反動で再び天井に戻り、
「ヴェァッ!」
虹色の油膜に覆われた、全長一メートル以上ありそうな球体が豪速で口から放たれる。
《王酸弾》は関係のない方向へと向かった。
土壁にぶち当たって爆ぜ、周囲一帯をどろどろに溶かしていた。
虹色の液体が地面に広がり、ジュウと音を立てて土を蒸発させている。
マニが岩を退け、エッダを助け起こしているのが目に見えた。
「よかった……」
俺が安堵の息を漏らしたとき、
無表情だが、確かな憤怒を感じた。
「まだよくはないか……」
俺は天井を蹴って地面へ向かった。
空中の俺の足先を、
俺は地面に降り、転がってから受け身を取り、走って
あんな大岩を受けたのに、まだ
これはやはり《雷光閃》以外にも何か決定打が必要かもしれない。
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