第六十六話 緋緋廣金《ヒヒイロカネ》
食事の後、エッダの様子を見にいって、それからマニと今後について話し合う予定だった。
だが、食事の片づけが終わるなり、マニは目の色を変えてロービの許へと走っていった。
「ロービさん……すいません、手を見せてもらってもよろしいでしょうか?」
マニが真剣な顔で、ロービへとそう尋ねた。
ロービは不思議そうにしつつ、マニへと手を見せる。
それを見たマニが、息を呑んだ。
「この指輪の、赤みを帯びた上品な輝き……もしかして、
「よくそんな、一目でわかったの」
ロービが驚いたように口にする。
「一応、鍛冶師の端くれですから」
マニは目を見張り、指輪を見つめている。
俺はその様子に首を傾げた。
マニの鉱石オタクっぷりは知っている。
だが、マニは深刻な状況で、指輪一つに大燥ぎできるような性格ではない。
それにマニの口振りも真剣で、個人的な関心で興味を向けたとは思えなかった。
「どうしたんだ、マニ?」
「ディーン……
B級下位の魔導器……。
成功した冒険者でも、なかなか手に入れられるものではない。
B級の魔導器は稀少であるため、軍人達が独占してしまうためだ。
もしも
ベルゼビュートの真価がそれだけ発揮されるようになるのだ。
「でも、そんな少量じゃ意味がないんじゃないのか……?」
「ディーン、魔導器の数は武力の象徴だよ。どこの魔導佐も、手段を選ばずに集めるものなんだ。特にマルティはその気質が強い。
「もう何十年も昔であるが……《剣士の墓場》では、
ロービが過去を懐かしむように、指輪を撫でた。
「そ、それは、《剣士の墓場》にはまだ
俺は思わず、マニに割り行ってロービへと尋ねた。
ロービはぽかんと口を開けていたが、苦笑しながら首を振った。
「残っておれば、冒険者も軍人も、この村を捨てはせんよ……。なくなったから、この村は見放されたのだ。よかった……あの頃は、本当によかったの」
それもそうかと、俺は落胆した。
マルティの代になるよりずっと前に、
「元々、《剣士の墓場》という名も、
「地下四階層はどうですか? 四階層付近から
マニはまだ諦めていないらしく、ロービへと重ねてそう尋ねた。
「た、確かに、地下四階層の奥地であれば、未探索のところもあるであろう。軍人であっても網羅してはいないかもしれん。しかし、それは、軍人であっても網羅できんから、そうなっておるのだぞ?」
「マニ……いくらなんでも、無謀だ」
ただでさえ魔獣の飽和している魔迷宮なのだ。
おまけに地下四階層となれば、ほとんどB級のような、C級最上位格の魔獣があっさりと姿を現す。
それも魔迷宮探索で疲弊しきっているところに、である。
平常時でも、数人で潜っていいようなところではない。
「確かに、これはとんでもなく無謀なことだ。僕達が無事に
それは、きっとそうだ……。
今の俺達では、軍の刺客に敵わない。
それはマルティが、今の俺達では絶対に対抗できない戦力を送り込んできているからだ。
魔導尉はどいつもこいつもB級魔導器持ちで、おまけに高レベルだ。
魔法と闘術を操り、高い技量と戦術を有し、集団で動く。
「魔核は暴食の悪魔のものがある、金属は
いける……のか?
俺がB級格の魔導器を持てば、闘気の補正値不足という最大の弱点が補完される。
技量では及ばないだろうが、単純な闘気ではエッダに近いレベルの白兵戦を行えるようになるはずだ。
魔法の威力も桁外れになるだろう。
そして、今の俺にはガロックから受け継いだ《雷光閃》もある。
あの技は今の俺でも、C級魔獣である
《魔喰剣ベルゼラ》が強化されれば、あの技の威力も跳ね上がるはずだ。
「少しでも《剣士の墓場》の魔獣を減らしてくれるのであれば、ありがたい話であるのだが……。しかし、今のあそこに入れば、凄腕の冒険者でも無事ではすまんぞ……」
ロービが恐々と口にする。
それも間違いなくそうだ。
そもそも俺の闘気が跳ね上がったとしても、それでようやく劣化エッダといったところなのだ。
どの
エッダより強いガロックがいても、分散した戦力相手に、逃げるのがようやくだったのだ。
リスクを取って《魔喰剣ベルゼラ》を強化しても、それに見合ったプラスになるのかは怪しいところなのだ。
俺が悩んでいると、セリアが走ってきた。
「たっ、大変なんです! その、その、エッダさんが、エッダさんが!」
セリアは顔を真っ蒼にしていた。
エッダの容態が悪化したのだろうか。
俺とマニは大慌てでエッダの寝室へと向かった。
「エッダ、大丈夫か!」
俺が扉を開けて部屋に踏み込むと、額の先に刃が飛んできた。
「うおわっ!」
寸前のところで剣先は止まった。
心臓が止まったかと思った。
もう一歩踏み込んでいれば、頭を貫かれていた。
エッダが剣を引く。
「な、何やってんだお前……」
「……身体が鈍っていくのが、あまりに気色悪くてな。ナルクの剣舞を行っていた」
申し訳なさそうにセリアが部屋へ入ってきた。
「ごめんなさい、ディーンさん……。その、エッダさん、私が言っても安静にしてくれなくて……ディーンさんが言ったら、聞き入れてくれるのかなと思ったのです……」
「おい、セリア。何故私が、こいつの言うことなら素直に聞くと思ったのだ」
エッダがムッとしたように応える。
俺はそっと自身の額を指で拭い、血が出ていないことを確認して安堵の息を漏らした。
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