第八十一話 マニのレベル上げ
《剣士の墓場》の地下四階層の浅いところで、俺達は
エッダが相手取り、その素早さで翻弄しながら
そして隙を見せたところで、段差上で待機していたマニが《鬼闘気》で腕力を強化し、《悪鬼の戦槌ガドラス》の一撃を頭部へと振り落とした。
「ええいっ!」
だが、まだ仕留められてはいない。
その眼球は、執念深くマニを睨みつけていた。
「マニッ!」
「大丈夫っ!」
マニは声を上げ、《悪鬼の戦槌ガドラス》を構える。
だが、
マニは必死に魔導槌を抱き、辛うじて落とさずに済んだ。
だが、衝撃で地面へと叩きつけられた。
続けて
俺が駈け出そうとしたとき、エッダの刃が
そこで
「はぁ、はぁっ……」
マニは恐怖に息を荒げ、
俺も安堵し、足を止めた。
俺とエッダのレベルは充分に上げたし、目的であった
そのため、仕上げにマニのレベル上げを行っていたのだ。
マニの従来のレベルでは、魔力の出力が足りず、
「ありがとう、エッダさん……」
「フン、焦るな……と甘いことを言える状態ではないが、引き際を見誤るな。お前に死なれては、私達はそこで終わりなのだぞ。C級魔獣相手に足手纏いを負ぶってやりながら手加減など、本来できるものではないのだ。弱った相手ならどうにかなると思ったか? 闘気の恩恵の強い魔獣や人間は、お前の感覚で測れる代物ではない」
「ごめんね……。どうしても、気が急いちゃって」
「この手の見極めは、私やディーンの方が慣れている、従え。それに、本来、私はこのようなオド水準の上げ方は推奨せん。状況が状況であるため、こうせざるを得ないためやっているに過ぎない。確かにこのやり方では速いだろうが、戦闘の感覚を掴まぬままオド水準だけ上がっても、あまり意味のあることではない。そこに驕れば死ぬ。それに、この上げ方は、一つの判断ミスで簡単に命を落とす。その危険の代償だと理解しているか?」
マニが少し、落ち込んだように顔を下げる。
「考えが甘かったよ」
「次に気を付けてくれればいいさ。それに、エッダが長々皮肉を吐くのは、親愛表現みたいなものだから」
エッダは元々口が悪いのが標準なので、このくらいだとむしろ言葉を選んでいるくらいだ。
……ヒョードルに連れられていたときに口論を続けていたのでよくわかる。
少し突き放したような言い方ではあるが、それもマニの利他的な思考を見越して、単純に危ないから止めろと言っても効果が薄いと思ってのことだろう。
正直、マニとエッダはお互いに少し、堅い印象があった。
ここ数日でようやく仲良くなったように思う。
軍の連中に目をつけられている危うい状況ではあるのだが、そのことについては俺は嬉しい。
「……おい、私が喋り難くなるようなことを言うな。気色悪い」
エッダがムッとしたように目を細め、責めるように俺を見る。
マニは俺の言葉に少し驚いたように目を大きく開き、それから笑顔を作ってエッダへと向けた。
「エッダさん。その……ありがとう。気を付けるよ」
「わ、わかればいいのだ。わかれば。……まぁ、次でレベルが上がるかどうかの境目だった。できれば自分の手で仕留め切りたいと思う気持ちはわからんでもない……」
エッダが気まずげに、言葉尻を濁してごにょごにょとそう口にした。
ただ、実際……俺達も、体力と精神の限界が近い。
魔迷宮内で休憩できるとはいえ、ここは魔獣の根城である。
帰路の体力も残さなければならないことを思うと本当にギリギリだ。
それに薄いが、地下一階層から三階層の間でも瘴気は漂っている。
村に残したセリアちゃんのこともあり、マニが焦るのも当然ではあった。
「マニ、レベルはどうだ?」
俺が尋ねると、マニは頷いて《悪鬼の戦槌ガドラス》を用いて《イム》を使った。
それから俺とエッダに対し、笑みを向けた。
「無事に上がっていたよ! これで【Lv:24】だ!」
「本当かっ!?」
マニはこの《剣士の墓場》に入るまでは【Lv:16】だったが、しばらく俺とエッダが手を貸してのC級魔獣狩りに専念し、短期間で一気に八つも引き上げることができた。
【Lv:25】は冒険者ギルドの上澄みで、入軍の最低基準レベルである。
鍛冶師が本職の人間はレベルを上げるのが難しいため、この成果は本当に大きい。
ただ、
時間も余裕もないが、後二つくらいは最低でもマニのレベルを上げるべきだろう。
「少し地下三階層に戻って休憩してから……」
「いや、大丈夫だよ。村へと戻ろう。これだけレベルがあれば、新しい魔導剣を打ってみせるよ」
「本当か? だが、いくらなんでも……」
「
マニは自信ありげにそう言い切った。
マニは自己犠牲で無茶をすることはあるが、鍛冶関係でいい加減なことを言ったりは絶対にしない。
やって見せる、という強い意志を感じた。
「わかった。それじゃあ……行こうか。村に戻ったら、魔導剣をお願いするよ。それができあがったら、今度こそパルムガルドを目指そう」
もう、魔導尉に狩られるだけの立場ではなくなった。
エッダは勿論、俺だって新しい魔導剣ができあがれば、闘気の面では魔導尉相手に単独で食い下がれるようになるはずだ。
マニだって戦闘を熟せるレベルになった。
ただ相手も魔導尉だけではないため、依然、戦力面で不利であることに変わりはない。
だが、少なくとも一方的ではなくなった。
ここからはもう、逃げるだけじゃない。
俺の脳裏に、カンヴィアの邪悪な笑みが浮かんだ。
今の俺達ならあいつに手が届く。
不可能としか思えなかったセリアの護衛も成し遂げられる。
そうなれば、あれだけ強大に思えたマルティ魔導佐一派も、完全にお終いだ。
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