第十三話 完成
マニに魔導剣の作成を依頼してから二日目の昼、俺は彼女の鍛冶屋へと向かっていた。
手に抱えている紙袋の中には、市場で購入した魚やら野菜等の食料品が入っている。
……意気揚々と有り金を材料費にとマニに渡したのだが、一テミスの余裕もなく渡してしまったために、俺の食糧がなくなってしまったのだ。
魔導器も他の一切の道具もないため、運び屋としても活動することもできず、完全に行き詰っていた。
結局情けないことに、事情を察したマニから手を差し伸べてもらい、彼女の世話係として働くことで、食事を共にさせてもらっている、という形になっている。
俺はマニの鍛冶屋へと戻り、呼びベルを鳴らし、反応を待ってから中へと入った。
「戻ったぞ」
マニは扉の後ろに立っており、装着していたゴーグルを額へと逸らす。
「ディーン、今さっき、作業を終えたところだよ。キミのお気に召すかはわからないけれど……一応は、魔導器を完成させることはできたよ。ただ、僕の魔導槌じゃあ《イム》が通らなかったから、肝心な性能がわからないんだ」
「ほ、本当に、できあがったのか!? み、見せてもらっていいか!」
「もちろんだよ。忘れているわけではないと思うけれど、キミのために作ったのだから、見てもらわないとむしろ困るのは僕なんだけれどね」
マニが表情を崩して笑った後、すぐにいつもの冷静な顔へと戻り、俺の目を見る。
「金属は、最近一般冒険者達に人気の出始めている
マニは謙遜して言うが、
それなりの活躍をしている冒険者達でも、
彼女が普段依頼を受けて作る際には、
……はっきり言って、剣一本分の
「闘骨は
「よ、よく手に入ったな……」
だが、平均レベルは
速度に特化した魔獣であり、冒険者の死亡数は
個体によってはC級と判定されることもあり、D級の中では最強の魔獣だとされている。
「ちょっとだけ無理をしたよ。ふふ、キミの門出を祝う、祝儀の様なものだと思ってくれ。でも、そう気負わなくていい。僕もこんな魔核を使って魔導剣を打てる機会は、もう二度とないだろうからね。本当にいい勉強になったよ」
マニがそう言ってから、少し表情を暗くする。
「……ただ、不安なことがあってね。
このことは、前にもマニから忠告を受けていた。
そもそも前例のない魔核であるため、色々と手探りで探りながら進めていくしかないらしい。
もしかしたら真っ当に使える様な代物にさえならないかもしれない、とも彼女は口にしていた。
「……製作者である僕にしても、とてもこの魔核に吊り合うだけの鍛冶師とは思えないからね。僕は【Lv:7】しかないから、
鍛冶師であってもレベルは重要となる。
鍛冶師は魔導槌を用いて
俺は専門家ではないためよくはわからないが、強靭な金属を扱うためには、それを加工できるだけの高レベルの鍛冶師と、実力に見合った魔導槌が必要となるのだそうだ。
マニの場合は、父親から継いだ魔導槌、《炎槌カグナ[D]》を用いている。
ただし、代わりにその分複雑な魔法操作が増えるため、高い技量を必要とするそうだが。
『妾の器に見合った武器であるとは到底思えぬが……まぁ、そんなものを造ることのできるニンゲンはないであろうから、よしとしておいてやろう。しかし、長年生きて来た妾ではあったが、まさか己が魔導剣になるとは思ってもみんかったわ』
机の方からベルゼビュートの思念が届く。
顔を上げると、一本の剣が机の上へと置かれていた。
柄には青く輝く水晶球、ベルゼビュートの魔核が埋め込まれている。
「お、おお……こ、これが、俺の魔導剣……」
今まで《貧者の刃ポポ[F]》しか手に持ったことがなかった。
しかし、今日からはこの剣が俺の新しい相棒となる。
「マ、マニ、触ってみていいか?」
『……それは、妾に訊いてもらえぬか?』
ベルゼビュートの魔核が、苛立った様に濁った光を放つ。
俺はマニとベルゼビュートの許可を無事に取り、魔導剣を手にして鞘から外した。
すらっと細長く、綺麗な刃であった。
しかし、それでいて手にずっしりと来る重量感がある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます