第三話 出会い
前後のどちらからも
「……《イム》」
俺は試しに《貧者の刃ポポ》を先頭の一体へと向け、その情報を魔法で確かめる。
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種族:《グレイ・ムース》
状態:《通常》
Lv:23
VIT(頑丈):75
ATK(攻撃):47
MAG(魔力):32
AGI(俊敏):66
称号:
《低級魔獣[D]》《土の素養[F]》
特性:
《高速治癒[E]》《暗視[E]》
《聴覚強化・底[E]》
闘術:
《裂爪[D]》
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やはり無駄だ、敵うわけがない。
俺のレベルでは10は足りない。
だが、俺はこんなところでは死ねない、死にたくない。
「トッ、《トーチ》!」
俺は《貧者の刃ポポ》の先端に、眩い炎の球を灯す。
俺はそのまま
そして接触する前に《貧者の刃ポポ》を
「うらぁっ!」
これで刃の先端に浮かぶ《トーチ》の炎球に引き付けられ、視界が眩むはずだ。
この隙に俺も
横を通ったかと思った瞬間、背に一撃を受けた。
熱い線が走る。俺はそのまま弾き飛ばされ、地面の上を転がった。
血だ。夥しい量の血が流れている。
「あ、あ……あが……」
……元より、薄い望みだった。
やはり失敗したのだ。
もう駄目だ、俺は殺される。
そう覚悟したとき、目前に小さな穴……というか、地の裂け目のようなところがあった。
奥は《トーチ》やマナランプの明かりが届かず、暗くなっている。
ここ《戦鼠の巣穴》では珍しくない穴である。
普段ならばさして気にも留めないが、ここに飛び込めば
俺は身体を押し込み、その穴の中へと入った。
「うぐっ、がぁっ!」
急斜面の狭いトンネルの中を転がり落ち、地面に叩きつけられた。
「あうっ……」
身体中の骨が痛い。
喉が渇いた。吐き気が込み上げて来る。
背中が濡れている。きっと自分の血だ。
目に、青い光が見えた。
「光……?」
暗い一室を、握り拳より小さいくらいの、青い光を帯びた水晶球が照らしていた。
透明色で透き通っているが、中には黒い靄の様なものが蠢いていた。
「ま、まさか、悪魔の魔核……?」
悪魔に闘骨はない。
身体自体が魔力の塊の様なもので、半霊体となっているからである。
闘気ではなく、純粋に魔力がそのままイコールで身体能力となる。
そして闘骨の代わりに魔核と呼ばれる丸い宝石を心臓部に抱えている。
闘骨と並んで魔導器を作る際に必須となるものである。
動物はオドから闘気と魔力を生み出すことはできる。
種族によっては闘気や魔力を用いて発火したり、水を吐き出したりすることもできる。
だが、魔法の様に自由自在に生み出して操ることはできないのだ。
本来、神々を除いて魔法を操ることができるのは、魔核を持つ悪魔のみであった。
神話時代に《智神イム》が自身の眷属である
こんな状況だが、俺は期待していた。
悪魔の魔核は恐ろしく高価なのだ。
俺の《貧者の刃ポポ》はインプというF級悪魔の魔核を用いているが、これでも八万テミスは掛かっている。
八万テミスは俺がひと月命懸けで扱き使われる対価に等しい。
悪魔は《
おまけにこれだけ見事な魔核ならば、かなり高位の悪魔のものだろうと思われる。
最低でもC級以上だろう。
だとすれば、その価値は数百万テミスにまで上がる。
「《イム》!」
俺は《貧者の刃ポポ》を魔核へと向ける。
ずきりと、重い頭痛が走った。
【《?????[?]》】
【????????????。】
ランクくらいは見えるのではないかと考えていたのだが、全く何も見えなかった。
D級、C級程度の価値ならば、ランクや名称くらいは確認することができるはずなのだ。
つまり、それ以上の価値を持つもの、ということになる。
「す、すげぇ……」
思わず声に出る。
これがどれだけ価値のあるものなのか、見当も付かない。
『ニンゲン如きが、あまりべたべたと触ってくれるな、気色の悪い』
心に直接呼びかけられる様に、頭に声が響いた。
その思念に合わせ、水晶球の中の靄が形を変える。
「ま、まだ生きてるのか!?」
俺は慌てて魔核を投げ出し、距離を取って《貧者の刃ポポ》を構えた。
『低俗なニンゲン如きが、妾を雑に放り投げるでない! 丁重に扱うがいい! 妾は《
「ベ、ベルゼビュート……?」
その名は聞いたことがあった。
千年以上前から存在するという、《
古来、
その際に、悪魔が世界を自在に行き来できないように、世界と世界の間に強大な結界が張られたとされている。
そこを越えるには多くの制約が必要であり、《
結界の抑制力は、悪魔の保有する魔力に比例して機能する。
ここ千年の間にA級の悪魔がやってきたことは、片手で数えられるほどしかないとされている。
《
『ああ、そうである。今更妾の恐ろしさに気付いたらしいの。だが、妾も今ばかりは余裕のある状態ではない。地に跪き、魂を差し出して媚び諂い、赦しを乞うがよい。そうすれば妾の下僕として生かしてやっても……』
俺は身を翻し、自分が投げ出された狭いトンネルへと駆け出した。
壁に《貧者の刃ポポ》を突き立て、身体を丸めて強引に登る。
敵うわけがない、冗談じゃない。
弱り目に祟り目とはこのことだ。
まさかD級魔獣の
殺されるならまだマシだ。
悪魔は皆残忍であり、死ぬより辛い目に遭わされかねない。
『ま、待て、置いていくな阿呆が! 止まらぬか!』
「誰が、はいそうですかと止まるか!
『今の妾は魔核だけなのだぞ! 自らの意志ではこの剥き出しの弱点を動かすことも、魔法を行使することもできぬのだ! こんな妾に何ができる? さぁ、気を取り直して戻ってくるがいい!』
悪魔の言う事など誰が信じられるものか。
俺は強引に身を捩り、狭いトンネルの中を潜っていく。
無事に生きて帰れたら、まずは軍に相談し、高位の剣士や魔術師をここへ派遣してもらおう。
気に喰わない連中だが、都市の冒険者程度では歯が立たない。
普段偉ぶって税で豪勢に暮らしているあいつらにしっかりと働いてもらおう。
『ま、待つのだ! 百年であるぞ! 百年間、妾は身体を引き剥がされ、この状態で地中に埋め込まれておったのだ! 来るのは
青い光がチカチカと漂って来る。
確かに、何かできるのならばこんなところに転がっているとは思えない。
それに、仮に害意があるのならば、俺が手に持っていた時点で何かできていたはずだ。
このまま俺一人で帰ろうとしても、
もしかしたら、この魔核が何か打開策を持っているかもしれない。
……それに、地面を転がりながら必死に念を送ってくる様子が、少し憐れに見えたのだ。
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