第30話 変化なし

「ありがとーございましたー!」


 すこしテンション高め?のコンビニ店員さんの声を背中で聞きつつ。悠宇とちかはコンビニを後にした。


「いやー、いいですね。学校帰りの食べ歩き。休みの時とはちょっと違うんですよねー」


 ちかはソフトクリームの入ったカップを笑顔で持っている。ちなみにお値段は――千円札を出して百円玉と十円玉数枚ずつしか戻ってこない。そこそこいいお値段?の物を買ってもらうことに成功したちかだった。


「一応校則的には禁止だがな」

「それ守っている人居ます?」


 悠宇とちかは学校の近くのコンビニに来たということもあり。イートインのコーナーは同じ制服を着た男女が占拠していた。


「――微妙。まあ暗黙の了解いうか。一応――ってことだろ?校則も昔からほとんど変わってないというか。誰もいじらないというか。とりあえず――っていう感じだろうし。まあ何かあったら校則には書いてある。守らなかった生徒側が悪いって言えるからとか?」

「でも、部活ある人とかだと絶対帰り遅くなるとお腹すきますよ。通学に1時間とかかかっている人いるんですから」


 実際ちかの言う通り通学に1時間かかっている生徒はいる。

 悠宇たちの通っているスポーツ推薦などがあるわけではないが。強い部活動もあり。離れたところから通学している生徒がいるらしい。


「まあな。って、今も遅いか」


 薄暗くなった空を見る悠宇。


「ですね。2時間以上も待つことになるとは――」


 少しぶつぶつつぶやくちかだが。実はちか。学校でそこそこ悠宇に待たされた。そのため悠宇がちょっとお高め?に分類されるであろうスイーツをちかに買うことになった原因の1つでもあったりする。

 歩きつつスプーンでソフトクリームを食べるちか。

 ちなみにソフトクリームと言っているが。今ちかが食べているのはソフトクリームだけではなく。カップの中には大学芋も刺さっているお芋パフェだったりする。お店で1つ1つ注文が入ってから作ってもらえるコンビニスイーツだ。


「それは悪い。まさかあんなに長引くとは――だったし」


 ちかが長々と待つことになった理由は悠宇も事前に予想はしていたことだが文化祭の準備である。

 今悠宇たちの学校は文化祭時期。放課後はいろいろと準備が始まったのだ。


「まあ文化祭前ですからね。ちなみに私も準備側ですが。今のところ平和です」

「ちかのところは――劇だっけ?」

「ですです。劇をやりたくて仕方ないメンバーが集まっていると言いますか。あっさり決まりましたね。でも幸いなのは私みたいにあまり参加したくない――っていう人のことも考えてくれていたのか。ちゃんと準備という役割を作ってくれたので」

「ちかはヒロインとかあればできるだろ」

「嫌ですよー。変に前に出ると目立ちまくりますから」

「昔ほど気にしてないくせに」

「でもです。改めて目立つとか嫌です」

「かわいいから目立ってるんだろ?」


 話の途中。少しだけニヤッと悠宇がして、ちかの方を見ると。ふいにかわいいと言われたちかは。悠宇の思惑通り少し焦った表情をしていた。


「ぬっぬっ――いきなり変な事言わないでくださいよ」

「変なことではなく。素直な感想だな。かわいいぞ?」

「遊んでいるくせに」

「かわいいかわいい」

「心がこもってないです。テキトーに言っているのわかりますから」

「事実なんだがね。って、ちか。今どこ向かってる?」

「あー、話変えた――って、まあ、ぶらぶらですコンビニ近くは人が多かったんで」

「家に何故向かわない」

「いいじゃないですかー」

「家帰れよ」

「まだパフェ食べてます」


 そう言いながら今度は大学芋を1つ食べるちか。おいしそうに食べている。


「まあ――ってか、ちかの家このまままっすぐで着かなかったか?」


 ちかがすんなり帰るとは思っていなかった悠宇は少し呆れつつ。ぼーっと少し先に見ている建物の方を見る。実はそこがちかの家だったりする。


「あっ、先輩家に入ろうとしてますね。嫌ですよ。先輩の入室は許可しません。何されるか分かったもんじゃないですから」

「そんなに1人だからって散らかしてるのか?」

「そういうわけじゃなくてですね。ってか、模型に占拠されている先輩に言われたくないような――」

「あれは俺のではなく。爺ちゃんの遺品だな」

「ってか、壊れているところ?とかどうするんですか?」


 鉄道模型の現状を知っているちかは少し心配そうに尋ねた。


「まあ地道に直すよ。っか、今ちかも話変えただろ」

「いいんです。私の家は話さなくていいんです――ってか、さすが真面目ですね。も、あれは大変じゃないですか?」

「そりゃな。金もかかるし。でも――被害届も――だし」

「あっ、調べられてあの移動が知られると、ですからね」

「そうそう」

「ってことは――地道にですね。私も手伝いに行きますね」

「どうも。っか、ちか。今更だがアイスで良かったのか?寒くないか?夜はそろそろ冷えて来たし」


 そこそこ話してから。そしてそこそこちかが1人で芋パフェを食べてから悠宇はふとちかに確認した。もちろん購入時にも悠宇は確認していたが。


「お芋のこれ食べてみたかったんで全く問題なしです」

「ならいいが――」


 悠宇と話しながら再度おいしそうに大学芋も頬張るちか。ちらっとその姿を見ればハムスターのように少しだけなっていた。誰も取らないのに、そこそこ大きな。長い大学芋を一口で食べたらしい。


「――あの、先輩見られているとなんか食べにくいのですが」


 すると。悠宇の視線に気が付いたちかが大学芋を飲み込んでから恥ずかしそうにつぶやいた。


「いや、幸せそうに食べるなーと」

「おいしいですから――って、もしかして先輩も欲しいですか?」


 少しカップを守りながら聞くちか。どうやら今のところ分ける選択肢はちかの中にはない様子だ。


「ちかが、あーんをしてくれる。する度胸はないと思うが。できるものなら食べてみたいな。食ったことないし」

「――なんか今この先輩に私めっちゃ馬鹿にされたような――ってか、なんで私が食べさせてあげると思っているんですかね。この先輩は」

「えっ?くれないの?」

「なんでぐいぐいなんですか!」


 そしてふと始まる悠宇のちかいじりタイム。これが2人の時のやり取り。周りのことなど全く気にしていない。


「ちかの場合間接キスとかとか気にして絶対無理そうだからな」

「ぬぬぬっ。めっちゃいつも通りいじられてる――」


 なお、悠宇の言う通り。ちかはそういうことをめっちゃ気にする。相手が悠宇ならなおさらである。


「はいはい。ゆっくり味わってください」

「なんだろう――敗北感。って、できます。できますよ。したらいいんですよ――――ね。うん。できます……これを先輩と――」


 すると何故かそんなことを言い出したちかは、言った後に自分の持っているスプーンとにらめっこを開始して、悠宇にそのあと笑われるのだった――「ほら」っと、言われながら。

 ちなみにこの後ちかは結局悠宇と一緒に食べる――というのは恥ずかしくて、頭がパンクしそうになったため。即1人で完食したのだった。

 ちかが食べ終えた後は、そのあと悠宇の家に行くのには時間が遅かったため。また悠宇がちかを家まで送り。今日もまた1日が終わっていくのだった。


 特に悠宇たちの日常。今のところは変化なしである。


 こちらの世界では――。

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