第38話 ドーナツ最強説

「ちょちょ、悠宇先輩どうするんですか。なんか向かってきてます」

「知るかよ。って、お金に反応したのか?」

「耳はめっちゃいいんですかね。って、そんな事言ってる――ひひぃ」


 交渉材料がほとんどなかった悠宇とちか。

 あっさりと町へと入ることを断わられて――というところだったのだが。悠宇とちかがコソコソとしていると。悠宇と話していた高齢の男性が何故か目を輝かせながらゆうとちかの元へと近寄って来た。

 ちなみに高齢の男性の後ろでは『ちょ、ガクさん危ないよ』『どうしたんだい』『ちょっと1人じゃ危ないって!』などという他の人の声が飛び交っていたが高齢の男性は悠宇たちの目の前まであっという間に移動してきた。

 ちなみに悠宇とちかどちらもちょっとパニック状態だったりするので――高齢の男性以外パニック状態だった。

 そんなみんなをパニックにした高齢の男性はというと。長い髭。グレーの髭が風に揺れているのが悠宇とちかもわかる近さまで悠宇たちに近寄り。さらにちかの手元を見つつ――。


「それは――ドーナツなのか!」

「「……へっ?」」


 ヤバい。切られる――などと悠宇とちかが思った瞬間。

 高齢の男性が発した言葉は『ドーナツ』だった。

 そして高齢の男性がドーナツと発言すると高齢の男性の後ろに居た人々も――。


『なんだと!?』

『菓子か!』

『ドーナツ国の人なのか?』

『何十年ぶりじゃ!?』

『いやいや何十年ぶりはおかしいだろ!ボケたのかお前さん』

『それくらい驚いたってこっちゃ!いちいちうるさいなーお前さんは』

『なんだと?』

『おい。ガクや。その人たちを通すべきだろ!』 


 急に騒ぎ出した。

 めっちゃ騒ぎ出した。

 ガチで騒ぎ出した。

 子どもみたいに騒ぎ出した。

 勝手に仲間割れしそうな雰囲気も見えなくもないが。とにかく騒ぎ出した。


 単なるドーナツの登場で――。

 

 その状況に悠宇とちかはポカーンである。

 そんな予想はしていなかった――と、言わんばかりに。

 すると、悠宇とちかの後ろから足音がしてきた。


「つまりこの人たちはドーナツを知っているってことだね」


 1人落ち着いたオーラ全開。学校モードで海楓が悠宇たちのところに近寄って来た。


「――海楓?」

「海楓先輩?」


 あれ?出てきたの?という雰囲気で悠宇とちかがつぶやくと。


「安全そうだったから」


 ケロっとそんなことを言う海楓だった。


「なんちゅうやつだ」

「――それに関しては悠宇先輩に同意します」


 もちろん海楓の行動に呆れているのは悠宇とちかである。


 ということで、3人が揃った。

 そして3人の前では――目を輝かせる高齢の男性。謎である。

 すると海楓がちかからドーナツを受け取る――というか。持って行き。高齢の男性の前へと移動した。


「私たちは皆さんに害を加えるつもりは一切ありません。できれば仲良くしたくて――これは私たちの住んでいたところにあるドーナツというお菓子です。数は少ないですが――」

「いやはや――またべっぴんさんが……いや、あなたたたちはドーナツ国の関係者の方でしょうか?」

「いえ私たちは――旅人と言いますか。このあたりは本当に知らないところで、先ほどもこちらの悠宇が言っていたかと思いますが。気が付いたら杜若というところに居まして――よろしければ少しだけこの町で休ませてもらえないでしょうか?もちろんその際はお金もお支払いしますので」


 勝手に話を進めていく海楓。

 悠宇とちかはその様子を見ているだけだったが――ふいに海楓がちかに手を伸ばし。お金お金。という合図を出していたので、ちかが慌ててお金を出し渡すと。海楓は巾着袋の中から金貨を5枚ほど取り出し高齢の男性に差し出す。


「こりゃたまげた――金貨がこんなに――」


 すると、高齢の男性は目が飛び出るのではないか。というような驚き方をしていた。なので、この土地で金貨は相当な価値。値段になるのか?などと様子を見ていた悠宇が思っていると――その間も話は進んでいき。


「私たち一応お金はこれしか持っていなくて――この土地でも使えますか?」

「使える使える――が。さすがにこりゃもらいすぎじゃ――」

「いえいえいきなり押し掛けたの受け取ってください」

「いやいや――あー、とりあえずわしの家に来てくださいや」

「よろしいですか?」

「構わん構わん。汚いところで何もありませんがな」

「いえいえ、助かります。ありがとうございます」

「「……」」


 海楓によって話は丸く収まった?のだった。

 すでに海楓は高齢の男性と共に歩き出している。

 そしてその2人のところに町の人?人の壁を作っていた人も集まりだした。

 ちなみに悠宇とちかは立ちすくんだままである。置いて行かれた。


 それから立ちすくんでいた悠宇とちかにも他の町の人が声をかけ。蒸気機関車も線路の終点。この町の外れのところまで延びていたのでそこまで移動させ。それから悠宇とちかも海楓の居るところへと案内してもらうと。


「いやーありがたや――ありがたや――」


 何故か海楓拝まれていた。というか、すでに町の人と打ち解けあった様子だった。


「――悠宇先輩。海楓先輩って――もしかして人付き合い二重丸みたいなスキル持ちですかね?」


 悠宇にこそっと耳打ちするちか。


「あー、そう聞くと納得ってか。交渉は俺じゃなくて海楓がするべきだな。あっ、あとスキルで思い出したが」

「はい?」

「ちかのスキルはあまり見せない方がよさそうだな。さっきの金貨を見た時の反応からして――」


 海楓の居る輪には今のところ入れそうにもなかったので、そちらはちょっと置いておき。今度は悠宇がちかに耳打ちをした。

 それは悠宇の直感だったのだが――なんとなく注意した方がよさそうと思ったことだったのだが。


「あっ、それは私も思いました。なんか飛んでもなく価値があるというか――」


 どうやらちかも同じことを思っていたらしく2人の話はすんなりまとまった。


「もしかしたら金貨1枚で日本円1万――いや、10万とかかもだからな」

「――やっぱり私億万長者――って、向こうの世界でも金貨として扱ってもらえたら――やっぱり億万長者?」

「高校生がいきなり大量の金貨持って行ったら怪しまれるぞ」

「確かに――残念」

「とりあえず、注意な。目付けられたらだし」

「はい。まあ先輩のスキルもだと思いますが――それはもうバレてますよね」

「――だよねー。それはどうするか。って、まずはなんか宴会じゃないが。海楓が町の人を落ち着かせてくれないとな」

「ですね。たった3つのドーナツでまさか神様みたいに海楓先輩がなるとは」


 話を終えた悠宇とちかはしばらく少し離れたところでもてなされる海楓を見学するのだった。

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