第39話 問題

 悠宇たちが蒸気機関車に乗って、新たにやって来た町『実りの町』というところにやって来てからしばらく。

 海楓の活躍により。悠宇たちははるばるやってきた客人としてもてなされていた。

 ちなみに突破口となったドーナツは少し前に小さく小さく切り分けて町の人に分配され。町中の人が大切に大切に味わって食べていた。

 中には泣いている人も居たりした。


 そして今はそのドーナツの感動からしばらく。

 悠宇とちかも海楓の近くに移動し。この町の長。ガクルックス。みんなからはガクと呼ばれている高齢の男性。先ほど悠宇とちかの前へと出てきた人と話しているところである。

 はじめこそはすごい剣幕だったが。今では優しい表情のおじいちゃんとなっている。なお、まだまだ剣の腕などは衰えていないとか。実はドーナツがなければ危なかったかもしれない悠宇たちだったりする。

 ということは置いておき。今は話し中である。


「つまりここは元は豊かな農業の盛んな土地だった――」

「そうじゃ。しかししばらく前に『大炎上』呼ばれることが起きてな」

「大炎上――火事?ですか?」


 悠宇の横に座っていたちかがまだ場に慣れていないため。恐る恐ると言った感じで発言をした。


「まあまだ単なる火事の方が燃えるだけで済むが――大炎上ってのは、どこの誰が言い出したかは知らんが。突然この世界のバランスが崩れたとでもいうのか。この星が怒ったというのか。あれは突然じゃった。地面は揺れるわ。割れるわ。空は闇に包まれ――と思ったら隕石のようなものが降り注ぎ。何もかもを破壊し――そのあとは土がダメになったのか。空気が変わったのか。大炎上に見舞われた土地はなかなか前のようには何事もいかなくての」

「なんかすごいことが――」

「でも、そんな世界規模?の天変地異みたいなことが起きるなら――何か原因がありそうですけどね?」


 少し考える素振りを見せつつ海楓がつぶやくと。ガクが難しい顔をしつつ話を続けた。


「海楓殿の言う通り。原因は――あるの。じゃがな。相手が大きすぎる」

「大きすぎる?」

「この土地からはるか南の方にある町にが再び現れたという噂がなくもないんじゃ」

「「「悪夢?」」」

「そうじゃ。少し前まではこの世界は英雄様がまとめておった。しかしの英雄様がある日突然いなくなり――そのあとしばらくは英雄様の力があったが――ある日突然弱ったのじゃ」

「英雄様――」

「そうじゃ。それはそれはすごい方だったらしくてな。1人で次々と各土地をまとめていき。あっという間に世界の王となったお方じゃ」

「――なんかスケールが……」


 3人ともガクの話のスケールが大きく付いていけていないが――何とかついていっているという感じで話を聞いていた。


「まずこの地はな大きく3つの国に分かれておってな。ちなみにこの町はディーエスエー国と呼ばれておる」

「「「ディーエスエー国?」」」


 悠宇たち3人の声が重なる。


「そうじゃ、英雄様が遥か昔にお付けになったとか――そのディーエスエー国の中にこの実りの町はある。そして他に2つの国があったのじゃが――」

「今はないんですか?」


 ガクの声が寂しそうになった時。海楓が質問した。


「悪夢がどのようにしたかじゃな。そりゃ――あるはずじゃが。もう何十年とわからんくなってしまってな。昔は3つの国すべてに鉄道があり繋がっておったのじゃが。その大炎上の際にまず鉄道網がすべて破壊されてしもうての。それ以降はさっぱりじゃ。もちろん悪夢側がそのような周りの情報を流してくることはないしの」

「えっと、その――線路の復旧とかは?」

「それが難しくての。鉄道いうのはわしらが生まれた時からあり。英雄様が繋いだとされているんじゃが。ちょっとした修理などは各町々でできたんじゃが――1から作る技術がどうもなくてな。何度も何度もこの町でも昔は挑戦したが――うまくいかんでな。そしたらじゃ数週間前いきなり線路が現れたと報告があり。その線路がわしらの町までやって来て止まった。そしてじゃ。今日悠宇殿たちが汽車と共にやって来た。そしてもう味を忘れかけていたドーナツを運んできてくれた――これでいつ死んでもよい」


 いやいや死んじゃダメでは?と3人は思いつつもあまりに感動――という感じで後半はガクが話したため。ちょっと悠宇が苦笑いしつつ。


「まだまだお元気かと――って、えっと、ざっくりと現状をまとめると――どういうことだ?」


 しばらく話を一方通行で聞くだけだったので、悠宇が考えながらつぶやくと。頷きながら海楓が話し出した。


「うんうん。つまりは――昔はすべての国々と線路で繋がっていて、交流もあったけど。その大炎上?悪夢?が起こった。やって来た後からは、町という町各地で被害。そして線路もなくなったことで交流が途絶え。自分住んでいるところ以外の情報がほとんど入らなくて、そして町はどんどん活気をなくし――今ではこの町は若い人は出て行ってしまって、高齢の人ばかり残っている。そんなときに線路が現れて私たちがやって来た。みたいなことかな?」

「海楓先輩。よく覚えてました。私――頭の中混乱しているんですけどいろいろあって――」

「海楓はさすがというか。っか、その大炎上?悪夢って結局――現れた?みたいなことを言ってたと思いますが。実際は――モンスター?言いますかなんと言いますか――」

「いや、悪夢に関しては、集団。もしくは国?詳細はわからんが。とにかく謎の集団が急に現れ南の町を占拠したみたいな話を聞いたことがある――まあそれもホントかはわからんが。でもその悪夢。謎の集団が何かをして大炎上を起こしたことは間違いないじゃろう」

「謎の集団――」

「黒いマントを付けた集団で――なかなかの力を持ったボスが率いているとか――じゃな」

「えっと、そういうのって、国王?言うんですか?このディーエスエー国ならディーエスエー国の国王さんが軍とか動かして――とかにはならないんですか?」


 手を上げつつちかが発言する。まだ少し恐る恐るである。


「それが出来ればなんじゃが――今は名前が何とか残っているだけじゃ。実際はこの町のようにわしみたいな長が何とかその町を維持するだけで精いっぱいじゃな。王都だった地は大炎上で跡形もなくなったみたいじゃし。それに今この地には国王言われる人は――もうおらんことになっとる」

「えっと――それは何故?」

「標的になるから――とかですか?」


 悠宇がガクに聞くと同時に頭に浮かんでいたのか。すぐに海楓がつぶやいた。そしてそれはあたりだったらしい。


「そうじゃ。相手は強すぎる。軽く国1つの戦力を超えておる。戦ったところで手も足も出ん。そして明らかにあの悪夢は的確に国のトップを狙っていた」

「そんなにその悪夢の集団は強いと――」

「ああ。今のところは――これ以上は手は出さぬと言っているが――それもいつまでもつか。まあこちらの資金を完全に枯渇させ。頭を下げに来るのを待っていうのじゃろう」


 ガクが悔しそうに手に力を込めながら話す。


「――ねえねえ悠宇先輩。私たち――なんかやばい国に来ました?」

「このあたりでは何か起こっている雰囲気はなかったが――他では何かが起こっているって感じだな」


 ガクの様子を見るからに明らかにやばい場所と察した悠宇とちかがコソコソと話していると。海楓が話を続けた。


「えっと。ガクさんたちは――何もしないんですか?」

「もちろん。英雄様が作ってくれたこの国をこのまま崩壊。悪夢の好きなようにさせてはいけないと各地で皆が思っているだろう。だがな――今は大炎上で繋がりが完全に切られてしまったからな。道の修理などをしようにもお金も人も何もかも足りんし。そもそも以前は鉄道で繋がっていたからな。たとえ道を直しても、長距離を移動できる体力のある馬もおらんし――スキル持ちのいい人間はとうに皆こんな何もないところから出て行ってしまった。もしかすると悪夢の方へと流れた物もおるじゃろう。まあでもとりあえず周辺の町と繋がりさえ戻れば何とかできんかとな――思うことはあるんじゃが――こんな辺鄙なところじゃの。みんな今日生きるのでいっぱいいっぱいという状況じゃ」

「それは――にしても繋がりですか」

「繋がりと言えば――どこかで聞いたことあったような……?うーん」

「ねえねえ。それって――悠宇が線路を作れば何とかなるんじゃない?」


 悠宇とちかがつぶやき。そしてちかが何か思いだしそうに――というとき。海楓がそんなことをつぶやいた時だった。

 そして海楓の言葉でガクの目がまた輝いた。


「やはり!悠宇殿線路をお創りになったのはそなただったか!」

「――えっ――あれ?なんか巻き込まれそう?」


 悠宇。正解である。そして実はガクたち線路を作ってここまで来たのは悠宇たちとというのは思っていたが。誰が作ったかはわからずあまり触れていなかったが。海楓の一言でターゲットは悠宇となった。


「あのような正確な線路。汽車。どのように作ったのか町の者に伝授していただきたい。そしてまずは――食料問題を解決するため。ドーナツ国へと線路を復旧させたいのだ。ドーナツ国へ繋がれば情報も入るだろう。それに今のままじゃこの町の者は日々生活するのがやっとの状況じゃからな」


 ガクが急にしゃべるしゃべる。

 必死にしゃべるガク。 


「おうおう……」


 そのため悠宇が引いている。


「悠宇殿。ご協力を!」

「ちょっと――えっと、俺はよそ者――」

「何とか!!」


 その後さらに急に身を乗り出してきたガクに、悠宇がさらに身体を引くことになり。部屋の隅まで追いやられ――それでもさらに近づいてくるガクに悠宇が両手を挙げて降参することになるのだった。

 その様子を見ていた海楓とちかは苦笑い――いや、楽しんでいた。

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