第40話 夢 ◆
これは獅子という生徒のとある日のつぶやきである。
もう一度言っておくが単なるつぶやきである。
これはまだ悠宇がどっか別世界に行っちゃった――ということが起きる前のある日の放課後の事である。
「ふー。今日も終わった終わったー」
放課後を告げる予冷が鳴ると、担当だった先生が教室から出て行き。教室内では背を伸ばす生徒が多数といういつも通りの光景。
そんな中にもちろん悠宇も含まれていた。
軽く背伸びをしたあと。悠宇も机の上に広がっているノート筆記用具を片付けていく。するとそんな悠宇の隣に人影が迫っていた。
「悠宇。今の授業ノート取ったか?」
その人影は獅子だった。
「取ったけど?」
「貸してくれ!」
「なんで?受けてなかったのか?いや、居たよな。つまり――寝てたか」
午後の授業。多くの生徒は眠気との戦いである。
そして獅子は悠宇の言う通り夢の――。
「いや、歴史の話だっただろ」
「まあ――そうだったな」
「でよ。もし俺があの時代の王ならどうしたか。って、考えていたら意外と楽しくてよ。王になるのも良いな。とか思っていたら。授業終わってた」
中ではなかったらしいが。聞いていなかったのには変わりなかった獅子だった。
「――」
悠宇は獅子のことは無視して片付けを再開した。
「ちょちょ、なんで無視するんだよ」
「いや、明らかに無駄なことしていて授業聞いてなかった奴にノート貸さなくてもいいかと」
「友達だろ?」
「さあ?」
「なんでだよ。女神様に言いつけるぞ。悠宇がケチって」
「ご自由に」
「私が何だって?」
すると、また悠宇の隣に新たな人影。海楓がやって来た。
どうやら獅子の声が大きかったので海楓にも聞こえていたらしい。というか『女神様で反応したよ』と、悠宇が思っていると。
「おお、これはこれは女神様ー」
獅子は仲間が来たとでもいう感じで海楓を即出迎えた。
「だから女神じゃないって」
海楓はいつも通り反応する。特に迷惑――という雰囲気は出していない。
「いやいや女神様ですよ」
「もう。って、それは置いておいて。私呼ばれた気がしたんだけど?」
「さすが。って、実は悠宇がノート貸してくれなくて」
「あー、まあ、授業中に自分が王様になった時のことをメモしていて授業聞いていませんでした。じゃねー」
――どうやら海楓。今の悠宇たちの話を聞いていたというより。授業中から獅子の様子を知って――おかしくないか?などと悠宇が思うと同時くらいに。
「あれー、なんで女神様は俺がメモしていた事を――」
獅子も海楓の話に不思議そうな表情をするのだった。
「獅子君の机の上にルーズリーフがそのままだったから」
海楓の答えを聞き悠宇は納得した。どうやら話を聞いたではなくつい先ほど自分で海楓は獅子の事を知ったらしい。
海楓は獅子に答えながら同時に獅子の机を指さす。
悠宇も吊られてそちらを見ると。そこには確かにルーズリーフなどがあるのが悠宇の場所からでもわかった。さすがに何が書いてあるかはわからないが――。
「なんか恥ずっ」
獅子はあちゃー。という表情をしつつ。そして恥ずかしい――と、いう割には片付けに行く素振りはなかった。
「――マジでそんなこと書いていたのか」
そんな獅子を見つつ悠宇が呆れながらつぶやく。
「いや、もし俺が王ならまず――」
「あー、もういい。無駄話している時間内から。俺とっとと帰るんで」
「なんでだよ。っか、悠宇ノート。試験がやばいー」
「それは知らん。っか、俺より海楓の方が勉強は確実に上というかトップ」
「女神様にそんな事頼めるか――っか女神様のノートとか俺なんかが触っていいのか恐れ多いわ!」
「はぁ……帰ろう」
なんやかんやと少し騒がしくなった放課後の悠宇の席近辺。片付けを終えた悠宇は荷物を持つと席を立った。
「いやいや、マジで帰るのかーい!」
「いや帰るし」
「じゃ、獅子君これ悠宇のノート」
獅子との無駄な会話を強制終了し。歩き出そうとした悠宇。しかし海楓の声で足を止めることになった。
「えっ?」
「へっ?」
そして振り返れば何故か悠宇のノートを海楓が持っている。
ちなみに獅子も驚いていた。
そんな中自分のカバンの中を確認する悠宇。だがノートはない。そして海楓の方を見ると――。
「悠宇。スリに注意ね」
そんなことを言いながら得意気な顔を見せる海楓。
この女危険。と悠宇が頭の中で思いつつ。
「――いやいやいや、どこが女神か。危険人物だろ。いつの間に」
「あっ。女神様ありがとうございます」
悠宇が驚いている間に獅子は海楓からノートを受け取り。自分の席へと向かって行った。
「ちょ、明日返せよ」
「わからん」
「いやいやおかしいだろ」
「気になるなら10分待ってくれ」
「……」
結果この日の悠宇。放課後になってからしばらく教室待機となった。
ちなみに海楓は用事を済ませたのかいつの間にか友人と帰っていったのだった。
「よーし、終わった」
悠宇が仕方なくぼーっと待っていると、獅子がノートを写し終えて再度悠宇のところへとやっていた。
「いやいや、待たせたな」
「無駄な時間を過ごしたわ」
「お詫びとして俺の夢を語ろう」
「いらん。っか、なんで獅子の夢を聞かないといけないんだよ」
「俺は王になりたい」
「……マジで意味わからん。っか勝手に話し出すな」
「俺は王になる!」
「――ダメだこりゃ」
「悠宇は何でも屋な」
「獅子は何を語ってるんだよ」
「だから。夢さ」
夕日に照らされ黄金の世界の中でつぶやく獅子。どうやら獅子自身も今の状況をわかっているらしく。今の自分の姿を悠宇に見せつける形をとっていた。
「――帰るか」
しかし悠宇も見せつけられているともちろんわかっていたので、相手にせず今度こそ席を立ったのだった。
とある日の放課後。大変無駄な時間に付き合わされた悠宇だった。
しかしこれも学生時代のある日の1ページになるのだった。
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