第41話 巻き込まれる

 かやぶき屋根の家や、少しだが田畑が広がる小さな町。実りの町。というところにやって来た悠宇たち。

 ちょっと散策――と、言う感じで杜若を出発したのだが。実りの町に到着早々何やら巻き込まれていたりする。


「なんでこうなったのか――」


 ため息をついているのは悠宇である。

 ちなみに今悠宇の周りにはたくさんの実りの町の人々が集まっている。

 そして多くの人が目の前の光景を興味津々で見ていた。


「おお。すごいの」

「これはすごい。こんなスキル持ち始めてみたわい」

「ちょっとゆっくりだがね」

「でも何もないところに線路を作れる能力いいじゃないか。俺なんて釘の早打ちスキルだぞ」

「それで大工やってんだからいいだろ」

「わしなんかスキルなしなんだからな。文句言うな」

「にしてもすごい。スキル言うよりこれは魔法なのか――?にしても線路や枕木。砂利はどこから――」

「これは神が我々のために――使者を送ってくださったのかもしれぬ」

「そうに違いね」

「間違いね」

「これで昔のような町をまた作れるかもしれんな」


 現在の悠宇は能力を使い線路を作っているところ。

 言ってしまえばのんびりと作られる線路をみんなに見せているだけなのだが。それだけで無駄に盛り上がっている悠宇の周り。

 主に高齢の男性陣が――悠宇の周りちょっと男性率のみ上昇中である。ということは置いておき。

 悠宇たちが今いる場所は実りの町の外れ。

 悠宇が杜若から延ばしてきた線路の終点部分で、線路を敷くところを皆に見せているところ。

 ちなみに悠宇が能力の実践しつつ実りの町の駅を新しく作ることになり。今の悠宇は初めての試み。ポイント部分を作ってみたりしたのだが――これまたびっくりというべきか。すんなり悠宇が思えば先ほどまであった線路にポイント部分がゆっくりと追加されていった。

 そしてポイント部分から新しい線路が延び。悠宇の前にはホームや駅舎はまだないが。線路は2本作られており。少しずつだが何かが出来そうな雰囲気が生まれ。

 今の悠宇はこの場所に1本待避線を作る――という感じで一応真面目に考え行動していた。そしてその考えがうまい事悠宇たちの目の前に実体化していっていたのだった。


「こりゃアクに駅を作ってもらわねばな。悠宇殿が立派な線路を作ってくれたんだから」

「そうだそうだ」

「っか、釘打ちスキルのあるあんたもしろよ」

「そりゃするさー」

「でもよ――今のところは杜若?だっけか?あのあるかわからない町にしか繋がってないんだろ?」

「まあ杜若ももう何年も行ってないが。悠宇殿や海楓殿の話によれば杜若の駅はあるみたいじゃないか」

「ちか殿によれば駅の周りは草原が広がっていて気持ちよかったと言っていたぞ?」

「たまには違うところにも行きたいもんだな。もう何年と遠出も出来ておらんしな」

「遠出したら帰って来れねえだろうな」

「まあこんなところで話していてもだしよ。まずは、アクに駅作ってもらうためにみんなで木材探し久しぶりに行くかー」

「「「おぉぉ!」」」


 悠宇の作る線路を見奈がいろいろと話していた男性陣の中から声が上がる。一致団結と言った様子だ。お爺ちゃんたち元気である。

 ちなみに、悠宇たちが来てから町の人がどんどん賑やかになっている。それが線路ができたからなのか。海楓とちかという美少女がやって来たからなのかは――今のところ不明であるが――。

 なお、実りの町の人たちの会話の中に出てきたアクというのは、アクルックスというお爺ちゃんの事である。

 フサフサのアフロ?の髪を持っており。一度ガクに紹介されただけで悠宇もちかも海楓も覚えるくらいインパクトのあるお爺ちゃんだった。

 なお、お爺ちゃんだがまだまだ大変元気であり。またガクの側近らしく。主に大工。町の中の家を作ったり。道の整備をする際に自分も動き。皆をまとめている人らしい。

 余談だが町の中では体力お化けと、呼ばれているとか――。

 

「――いやー、みんな明るくなった。これも悠宇殿たちが来てくれたからじゃ」


 悠宇が周りの光景にあっけに取られていると、悠宇の隣にスキンヘッドのお爺ちゃんが悠宇に話しかけながら近寄って来た。

 また新しい人である。


「あっ――いえ……って、えっと失礼ですがどちら様?」

「おお、これはこれはうっかりしとった。わしはべクルックス。ベクと気軽に呼んでくれや。みんなからは輝く男と呼ばれておる」

「輝く――」


 多分頭の事なんだろう――と、一瞬失礼と思いつつも本人がわざわざ見せるような姿勢をしていたのでちらっとだけ見る悠宇。

 確かに太陽に照らされ輝いているが。悠宇の爺ちゃんもはあんな感じだったので、悠宇にとっては特に珍しいものではなかったためそれ以上見ることはなかった。


「ちなみに一応この町のまとめ役じゃ。町の人の声をあのガクに伝えるいう役だな」

「なるほど――あっ、尾頭悠宇です。改めてよろしくお願いします」

「うんうん。にしても悠宇殿のスキルはすごいのー。この町にはもうほぼ老いぼれしかおらんからな。あんなスキル見せられたらじゃ」

「でも皆さん元気と言いますか――」

「そりゃ、あんなかわいい子が喜ぶわな」

「……やっぱりちかや海楓の影響もあるか」


 ベクと話しつつ悠宇は少し離れたところで、おばあちゃんたちに囲まれている海楓とちかを見た。

 ちかの持ってきたドーナツがみんなに配布されてから。感謝を伝えるためなのか。とにかく2人の周りには人が集まりアイドルとその追っかけみたいな状態となっている。

 ちなみに少し前にガクに悠宇が聞いたことだが。今このあたりに居る人でこの町すべての人らしい。さすがに全員ではないらしいが。ほぼほぼ人が今この町の外れに集まってるらしい。

 なお現在の悠宇の周りは木材を本当に男性陣が探しに向かったため、今はベクのみ。そのため悠宇は再度人が集まってもなので、今はベクと話すことを選んだのだった。というか悠宇はちょっと今気になることができたのでベクに聞いてみた。


「あの――1つよろしいですか?」

「なんじゃなんじゃ?なんでも聞くがよい。これでも無駄に生きているからな。そこそこの国のことはわかっているつもりじゃ」

「えっと――国というか。この実りの町って子供は――いないんですか?先ほどから全く見なくて」


 あたりを見回しつつ悠宇が聞く。

 周りをくるっと見ても子供の姿はない。というか若い人が見当たらない。


「――まあ、ガクにも聞いたじゃろうが。こんな不便なところじゃの。もう若いのがいなくなってしばらく経つし。このあたりの婆さんらが子供を産めるわけもないからな。もうすぐこの町も自然消滅よ。一番若いのも確かもうすぐ――60じゃからな」

「そうなんですか。ちなみにその一番若い方は――」

「ああ、コールじゃな。今は――どこにいるんじゃろうな。この町では一番喧嘩に強くての。身体もたくましい。まあ剣に関してはガクじゃろうが。でも同等じゃな。多分じゃが町の周りの確認だろ。爺と婆しかおらんが。もし攻め込まれちゃ一瞬で終わっちまうからな。少しくらい抵抗せんとな」

「あれ?でも俺たちが蒸気機関車で来たとき――そんな人居ましたっけ?」


 ふと悠宇はこの町にやって来た時のことを思い出すが。今ベクの話していた人物を見た覚えがなかった。


「――あー、多分いたはずじゃが。皆も出てきていたからな。隠れちまったんだろ。この町の人はなんやかんやで前に出たがるからな」


 少しだけ考える素振りをベクはしたがそれに悠宇が気が付くことはなかった。


「そうなんですか」

「まあでもほんと悠宇殿たちが来てくれたから少し風向きが変わった気がしまそぞ」

「そんなことは――って、線路はとりあえずこの場所だけ作ったらいいんでしょうか?ここだけと言っても時間はまだかかりますが――」

「いやいやこうして作ってもらえるだけですごいことじゃからな」

「悠宇先輩ー」


 悠宇がベクと話していると、ちかの声が聞こえてきた。

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