第42話 なんとなくは怖い

 悠宇とベクが町の外れで線路が生まれてくるのを見ながら話していると。ちかが駆け寄って来た。


「どうした?ちか」


 ちかに気が付いた悠宇がちかの方を見て返事をする。


「えっと、ガクさんが悠宇を呼んできてほしいって」

「俺を?」

「はい。なんか私たちをもてなしたい?と」

「――へっ?」

「その――町の人をやる気?元気をくれたとかで何もないところだけど。もてなしをしないと気が済まないと――」


 ちかが苦笑いをしつつの感じから察するに、すでにちかたちはかなり過剰な感謝をされたのだろうと悠宇は感じた。


「おぅ。って、どんどん引き込まれるな」


 悠宇はというと自分たちがどんどんこの町に関わっていることにちょっと危機感を覚えていた。

 果たしてどこまで関わっていいものなのか――と。


「ですね。あっ、海楓先輩はすでにガクさんたちと町の中心部の広場に向かいました」

「――あいつなんやかんやで一番ここに馴染んでるか?」

「すごい人気ですよ?アイドルが来たかのように大騒ぎでした」

「いや、ちかもだろ」


 海楓の周りがフィーバーするのはもちろん悠宇もわかっていた。

 でも海楓ならそれくらいは大丈夫だろうと思っていた。むしろちかの方が小さくてつぶされかねないと心配していたのだが――。


「いえいえ私は子供扱いされたので少しご機嫌斜めです」

「……」


 悠宇の予想通り。小さくは見られていたらしい。もしかすると孫?みたいにかわいがられたのかもしれない。でもそのおかげで?ちかに被害はなさそうだった。

 ちょっと悠宇は安心――。


「ふっふっ。悠宇殿かわいい――子供さん?ですな。うんうん」

「むっ」


 すると、先ほどまで悠宇と話していたベクがほほ笑みながら。かわいいものを見る目で、ちか。悠宇と見ていた。

 やはりベクくらいの人から見れば悠宇たちは孫にあたるだろうから反応としては普通なのだろうが――とりあえずこの後ベクが謝るまで40秒ほど。


「あー、ベクさん」


 嫌な予感がした悠宇がどう説明しようかと考えながら話し出す。しかしもう時間はそれほど多くは残っていない。


「うん?なんじゃ?あっ、移動するかの?早くいかんとガクが怒るからの」

「あー、移動の前に一応ですが。ちかと俺ほぼ同い年――です。と報告しておこうかと」


 確か悠宇たちはそれぞれがざっくり自己紹介をしているが年齢までは言っていない。そもそもベクはその自己紹介の際に居なかったが。なのでとりあえず悠宇がちゃんと伝えると――というかもう時間切れである。


「……」


 目が点になるベク。


「俺17歳でして。ちかも16歳でして」

「はい!悠宇先輩とは1つしか変わりません。誕生日の関係でかなり年が近くなることもあります」


 悠宇が苦笑いをしつつ。ベクに話すとベクの目が再度点になる。というか点継続――からのちかの方はえっへん。という態度で答えている。なるべく自分を大きく見せているみたいだ。その姿がさらにかわいく子供っぽく見えたのは――悠宇は言わなかった。

 確かにぱっと見ちかは子供――いや、高校生も子供だが。中学生。下手をすると小学生に見られることもある。

 なので、初めての人がちかのことを正しく理解するのは難しいので、ベクの反応は正しいと言えば正しいのだが……。

 

「――王女様より――年上。いや、確かに――」


 すると、驚きの表情のままベクがつぶやきだす。

 そして何やら気になる言葉が悠宇たちの耳に届く。


「――王女さん?」

「王女様――?うん?待てよ……?」


 王女という言葉にまずちかが反応。

 悠宇もちかが反応したことでとある先ほどから感じていた違和感の正体が分かった。


「あー、いやいや、なんでもありません。でも――まさかちか殿は――もしかして、悠宇殿の伴侶だったのかの?そうなのか?はははっ、気がつかんだわーはははっ」


 するとベクが何やら慌てた様子で話を変えようとしてきた。身振り手振りと必死に話を変えようと――何やら隠そうとしている雰囲気がぷんぷんしている。


「へっ?伴侶――伴侶ってなんでしたっけ?悠宇先輩」

「えっと――仲間――配偶者的な?」

「――えっ?」


 ふと聞かれたことを、多分そうじゃなかったか――などと思いつつ。悠宇が答えると。今度はちかの目が点になった。


「いや、この場所でどういう意味で使われているかは――だが。そんな意味じゃなかったか?」


 先ほどまで少しムスッとしていたちか。

 しかし今は少しずつ頬が赤くなっていき。尻尾がないはずなのに何故か全力で尻尾を左右に振っているように悠宇には見えた。


「――ま、まあそういう見られ方も仕方ないですよねー」


 そして超ご機嫌になるちか。笑みが漏れまくっている。


「えっと――ちかどうした?」

「いえいえ、困っているんですよ。先輩と――そんな感じに見られると。はい。ふふっ」


 ちか、大変大変大変ご機嫌である。悠宇は不気味すぎて若干引いているが――。


「――ちょっと怖いぞちか……ってそれより。ベクさん」

「ほっ?」


 悠宇はちかの雰囲気にちょっと引きながらも――話を変えようとし。成功した――みたいな雰囲気を出していたベクの方を見て、話を戻した。


「さっき海楓やちかのことを話したときにかわいい子がみたいなことを言っていたのでちょっと引っかかっていたんですが」

「な、なにがじゃ?」

「普通なら若い人が居なくて、久しぶりに若い子が――とかになるのかな?とふと思っていまして、まあ言い間違いかな?と、はじめは思ったんですが。増えた――確かに海楓やちかの年代はここでは珍しいのかもしれませんが。実は――普段からもあまり目にすることはなくても。この町居るんじゃないですか?海楓やちかと同じくらいの女性が。だから――同じくらいの子が増えた。からにぎやかに――みたいな話になったのでは?と、まあふと思っただけなんですが」

「――」


 そして、悠宇がなんとなく。思ったことをベクに言うと、ベクが難しい表情をした。

 ちょっと冷や汗?を流しているようにも見える。いや、流している。輝く額をさらに輝かせているように見える。

 そして、ベクのその表情は浮かれていたちかも気が付いた様子で少し不思議そうにした後。手をポンと合わせベクに話しかけた。


「あっ、さっき言っていた王女様ってもしかしているんですか?ここに」

「あー、なるほど、ちかたちと同年代くらいで――あれ?でもここは超高齢化と――あっ、もしかして、さっき話に出たコールさん。姿を見ないのって、その王女様の護衛だったりして――?」

「――」


 悠宇がこれまたなんとなくつぶやくと――ベクは大量の冷や汗をかいていた。それはそれは滝だった。

 大洪水。大げさに言えばナイアガラの滝のように輝く頭から四方八方に――である。

 まあそこまでではない――いや、かなりでも冷や汗?を書いているベクだった。

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