第37話 睨む

 蒸気機関車に乗り。新しい土地。町らしきところへとやって来た悠宇たち3人。しかし今は一触触発状態――と、言ってもいいかもしれない状態だった。

 悠宇たちの目の前には農機具などを構えて人の壁を作っている多分そこそこ高齢の人々。

 一方悠宇たちは丸腰。特に悠宇に関しては何も持っていない。

 ちかと海楓は小さなリュックを持っているが――武器になりそうなものはなさそうだ。そもそも悠宇は2人が何を持ってきているのか知らない。


「――うわー、本当に危険な雰囲気なんですが……私本当に行くんですか?」


 悠宇と共に運転席を降りたちかは運転席に残った海楓の方に戻りたそうな雰囲気を出している。


「かわいい子がいた方が交渉しやすいかもだぞ」


 そんなちかの様子を感じ取ったのか。悠宇はいつも通りのことを言った。


「ちょ。こんな時にまた――って、いつも通り適当に言ってますよね?」

「ああ」

「即答するな!」

「とりあえず行くぞ」


 結果悠宇いつも通りの作戦は成功。ちかの緊張?が少しほぐれたらしい。

 いつものやり取りをしてから悠宇とちかは丸腰で足を動かしだす。

 悠宇が少し前を歩き。ちかが数歩後ろ。悠宇に隠れるように歩き出した。

 ちなみに、正面ではすごい剣幕の人々が並んでいる――ように見えていたが。

 少しずつ表情が悠宇たちにはっきり見えてくると向こうもかなりおっかなびっくりと言った感じだった。

 それに気が付くとちょっとだけ悠宇にも余裕が生まれたのだった。


「で、まずは……挨拶か?」

「ですね」

「無駄に緊張するな。そもそも言葉が通じるか?」

「それを試すためにも早く挨拶です」


 ちかに急かされる形で悠宇が口を開く。


「ああ――えっと!俺たち怪しいものじゃないです!俺は尾頭悠宇と言います!その――まず話をし――」


 ガサガサ。


 悠宇が声を張り上げて正面の人々へと話しかけると、一気に相手の警戒心が上がった。悠宇は後ろのちかの方をちらっと見る。


「……通じてない?」

「かもです。って、先輩誰か前に出てきます」


 ちかの声で正面を悠宇が見直すと、確かに中心からそこそこ高齢の男性が剣を携えて歩いてきた。明らかに他の人とは身分が違う雰囲気だ。

 また服装もそこまで豪華な服ではないが。周りの高齢と思われる人たちよりも良いものを着ている雰囲気だ。

 なお、剣に関しては鞘に納まっているので刃は見えないが――鞘を見るだけでもそこそこ良さそうな武器に見える。装飾があるのか太陽の光が反射している。

 というか今まで農機具しかないと勝手に思っていた悠宇だったが。まさかの剣。ちゃんとした武器登場でドキッとしていたりする。


「――切られる未来が見えた」

「私も――です」

「でも、お偉いさん?みたいな人が出てきたから。もしかしたら――話が通じた?」

「どうでしょうか――?先輩。私の命をお預けします」


 ちかがササっと、悠宇の後ろにピッタリとくっつきながらつぶやく。


「――もうどうなっても知らん」


 一息ついて悠宇が前を向きなおす。


「――わしはこの町の長じゃ。そなたら、どこの者だ」


 すると、剣を携えて一歩前に出た高齢の男性が話しかけてきた。

 幸いなことに言葉は通じていた。

 そして相手の言葉も日本語で悠宇たちも理解することができたのでまず一安心だった。


「言葉はわかる――」

「先輩。ファイトです」


 悠宇とちかが小声で話したあと。悠宇はちかに軽く背中を押されると悠宇が一歩前に出てきた高齢の男性を見て再度話し出す。


「ここから蒸気機関車でしばらく行ったところの杜若――というところから来ました」

「――杜若じゃと?」


 悠宇が杜若の名前を言うと。まず悠宇と話していた高齢の男性が驚いた表情をし。その後全体も少しざわめきだした。

 その様子から悠宇は杜若という地はこの人たちは知っていると判断して、そのまま話を続けた。


「えっと――ボロボロの――駅?いや、綺麗になったか。とにかく駅だけがある場所でして。そして――どう答えればいいのか。気が付いたらその場に俺たちはいまして。この蒸気機関車だけが動かせたので、とりあえず情報を集めるため人を求めてやってきました。こちらは3人しかいません。戦うつもりも一切ありませんその――武器を置いていただけると――助かるのですが……」

「――よそ者を町に入れることはできん」

「ですよね」

 

 あっさり入ることを断られる悠宇たちだったが――。


「うーん。あっ、そうだ――えっと――これ。お土産――というか手土産に――ダメですかね?」

「うん?」


 あっさりと断られ。さてどうしようか。と、悠宇が思った瞬間 悠宇の後ろで何か思いついたのかちかがごそごそと自分のリュックの中を探り――ドーナツを取り出した。

 いやいや何故そんなものを持ってきた――だったが。現状が現状だったのでそのことには悠宇は触れなかった。

 なお、ちかが出したドーナツはシンプルなプレーンのドーナツである。朝来るときにコンビニで買ったのだろう。ってか、3つも小さなカバンから出てきた。


「ちかの小さなリュックの中にドーナツが3つ――って、他何が入ってるんだよ。って、実はそれだけとかないよな?」

「手ぶらの先輩に言われたくないですが――あとはこの前ゲットと言いますか。出せた?出てきた?お金くらいです。ってか、お金重いからあまり他のものが持てないんですよ」

「――あー、そういやお金あったな。って、何故にドーナツを持ってきたか――」

「なんとなくお腹が空くかも――と思いまして。まあこの前は不要でしたが。でも満腹とかではなかったので、もしかすると長く居るとお腹空くかもで、ちょっと甘いものとかあるといいかなーと。」

「果たして交渉の材料的にどうなのか――」

「――――なっ?!そ、それは!」

「「へっ?」」


 悠宇とちかがドーナツを見ながらコソコソとしていると、驚いた表情の高齢の男性が意外と足取り軽やかに悠宇たちのところへと近寄って来たのだった。

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