第36話 新たな土地

 快調に蒸気機関車を走らせている悠宇たち。

 蒸気機関車の方もガタゴトガタゴトとリズミカルに音を奏でながら順調に走り続けている。

 周りの光景はほとんどが草原のど真ん中ばかりで同じ光景ばかりだったが。先ほど初めて短かかったが小さな川を渡るために鉄橋を渡った。もちろんそれはそれは3人は大はしゃぎ。また初めてこの地で水。川を見たこともありテンションは高めとなっていた。

 そんな鉄橋を渡って少しした時だった。


「――うん?」


 まず運転席に座っていた悠宇が気が付いた。


「あれは――なんだ?小さいが――もしかして建物か?」

「あっ、建物ですよ先輩。建物です」


 少しだけ遅れてちかも気が付いた。


「うん?どれどれ?」


 2人の様子で気が付いた海楓は悠宇の横から顔を覗かせた。

 3人の前方。まだ距離はそこそこあるが。ぽつぽつと平屋の建物らしきものが見てきていた。

 こちらの世界に来ての初めての人の気配を3人は感じたのだった。


「あれは――かやぶき屋根?って感じだな」

「あれですね。岐阜にある集落みたいな感じですね。少し岐阜の集落の建物よりかは小さいと思いますが」

「ああ、そんな感じだな。とりあえず。スピードは落とした方がいいな」


 悠宇は蒸気機関車のブレーキをかけら。それと同時にちゃんと蒸気機関車の車体からもキキキィィーー。というブレーキ音が響く。


 ヴォォォォーー。


 そして海楓は向こうに知らせようと思ったのか。または自分たちの存在を伝えたかったのか汽笛を鳴らす。さすがに誰か人が居れば聞こえるだろう。


「ところで――私たちいきなり突入していって大丈夫ですかね?」


 すると、ちかが前方を見つつそんなことをつぶやいていた。

 ちかのつぶやきで悠宇も考えた。


「確かに――俺たちってよそ者?だよな」


 悠宇の呟いた通り。はっきり言って完全によそ者の悠宇たち3人。下手をすると悠宇たちは侵略者にも見るかもしれない。


「もしここが魔法とかバンバン撃てるところだと――私たち守る術がないですよ?」

「……やべぇ。そういうの完全に考えてなかった。ってか、線路はどこまで続くんだよ。って、俺は人の居るところというか。そういうところに向かって延びろって言った気がするから――」

「それって、悠宇の能力?魔法がすでに多分あの町まで続いていて、もうバレているんじゃないの?なんかよそ者がいる。こっちに侵略しようと線路敷いてきた!って」

「「――確かに」」


 海楓が顎に手を当てつつつぶやくと。悠宇とちかが同じ反応をした。

 今まではなんとなく楽しい気分。散策という感じで動いていた悠宇たちだったが。町が見えたら見えたでちょっと雰囲気が変わったのだった。

 ちなみに海楓の言ったことはほぼほぼ当たりだったりする。

 悠宇の能力で線路は着実に延びており。今は杜若から一番近かった町。この先悠宇たちも知ることになるが『実りの町』というところへと延びていた。

 そして突然ゆっくりとだが自分たちの町へと延びてきた謎な線路に対してその町に住んでいた人が取った行動と言えば――。


 キィィィーーガッタン。


 悠宇たちの乗った蒸気機関車は町の少し手前で止まった。

 というか。止まらざるおえなかった。

 何故なら町の周りには城壁。壁などというものはない。しかし人の壁が出来ていた。


「――まあこうなるか」

「ですよね。悠宇先輩。どうします?バックします?」


 悠宇のそばへと移動してきたちかが悠宇の腕をそっと掴みつつ話しかけてくる。少しちかの手が震えているのが悠宇にも伝わる。


「とりあえず――向こうは敵意丸出し?かな。でも魔法とかはないのかな?槍とか斧――いや、あれは――農機具を構えているよね。これ――話し合ったら何とかなるかな?」


 一方。海楓に関しては意外と普通。冷静に周りの状況を見ていた。どうやら少し学校モードに海楓はなっている様子だ。


「さあ?どうだかな。っか、言葉通じるのか?」

「「さあ?(どうかな?)」」


 悠宇の問いに同時に答えるちかと海楓。

 バックして逃走という選択肢が今のところ安全かもしれない。

 しかし、この場所にて初めての人との遭遇。できればいろいろ話を聞きたいという気持ちもある悠宇たち。

 それに今悠宇たちの前に人の壁を作っている人たちはほとんどが高齢の男性たち。見た目で判断するというのは怖いが。今の悠宇たちならもしかしたら素手でも何とかなるのでは?という雰囲気もなくはなかった。

 そのため悠宇たちはすぐに逃走という選択肢は選ばず。様子見をしていた。

 ということで、町の人とにらみ合っているような状況の悠宇たち。


「嫌な予感しかしないが――話せるかな?」


 一応相手を見つつ海楓やちかに確認をする悠宇。向こうからなら3人が話しているようには――多分見えないだろう。いや視力のいい人が居ると口の動きでわかるかもしれない。


「試さないと何ともだね」

「とりあえず――バックにレバーを入れておいて……かな。やばかったら逃げるだな」

「了解。悠宇が危なくなったら私たち2人で逃げると任せて」

「おかしいだろ!」


 悠宇が突っ込むと同時にガチャっと海楓が蒸気機関車の進行方向を後ろ。バックに切り替える。シンプルなので海楓ももう操作は覚えたらしい。そして腰を浮かせていた悠宇に変わりちゃっかり運転席に陣取る海楓。


「マジで俺が行くのかよ」

「まあ悠宇先輩が代表みたいな――?」

「ちかも俺に行かせる気満々かよ」

「なら――私も行きましょうか?」


 一瞬は悠宇だけが向かう――という雰囲気だったが。ここでちかがそんなことをつぶやいた。


「よし。よく言った。死ぬときは一緒だ」


 それを聞いた悠宇はがっちりとちかの腕を持つ。


「なんかこんなところで死ぬ雰囲気は嫌なんですけど!?」

「じゃ、私はいつでも逃げれるように――悠宇の操作は見ていたからね」

「海楓は絶対降りる気ないと」

「姫は後ろから見ております」


 にこっとしてから。ぺこりと頭を下げる海楓。仕草は確かにお姫様だったが――行動は何ともであるが。これが海楓と言えば海楓。学校モードと自宅モードのハイブリット?みたいな状態だった。


「いつから姫になったんだよ」


 なお、今の海楓の服装は――だが。海楓を姫と紹介すれば通じてしまいそうな雰囲気はある。などと悠宇は思いつつもこのままではどちらも疲れてしまうのでゆっくりと運転席を降りる。

 すると、悠宇たちの前方で人の壁を作っている人たちが武器(主に農機具と思われる)を構える。

 いつでも悠宇を串刺しにできると言わんばかりに――。


 もしかすると悠宇たち絶体絶命?のピンチだったりする……かもしれない。

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