第35話 出発進行
学校が休みのある日。
朝早くからまた杜若という場所に居る悠宇たち。
今は少し進展があったところである。
「悠宇先輩。動くか試しましょうよ」
現在は漆黒の蒸気機関車の運転席にハンドルが付いた――というところである。
もちろんどういう仕組みなのかは3人ともわかっていない。
けれど運転席にハンドルが生まれた――?海楓が持ってきたコントローラーがまさかの完全一致して。蒸気機関車本体と合体しちゃんとしたハンドルとなっている。
「それは良いんだが――これ動かしたら次止まらないとかないよな?」
「――それは――」
「その時はその時じゃない?」
「飛び降りるのか。まあでもこのハンドルが模型と同じなら――奥に押し込めば進んで、手前に引けば止まると思うが――」
ハンドルは付いた。そしてシンプルなハンドル。上下にしか動かないものなので、操作は難しいようには見えないが。慎重な悠宇は今のところまだハンドルには手を置いていなかった。
ちなみにちかと海楓も「早く動かしてよ」的なオーラは出しているが。2人も不安があるのかハンドルに触るということはしていない。海楓に関しては、ボタンなどはポンポン押したが。さすがに大きなものは少し躊躇しているらしい。
「ちなみに先輩。この隣のスイッチ?は何ですか?」
ハンドルを触ることに対して3人が躊躇していると、ちかがハンドルの隣部分の小さなボタンを指さしながら悠宇に聞いた。
「あっ、えっと――模型通りなら。進行方向を選ぶだなそのままの意味というか。同じなら今は奥に倒されているから。前進するはず。そして手前に引けばバックになるかと思うんだが――この蒸気機関車がそんなシンプルに動くのか――」
「悠宇。とりあえずこういうのは試さないと。動かなかったら動かなかった。動いたらOK。そして――止まらなかったら、悠宇と心中?」
「最後のは嫌だな」
「でも先輩。とりあえず線路がどうなってるか。進んでみるべきでは?まあ動けば――ですが」
「まあ今まで見てきた線路は古かったし前から他の車両が来るとは思わないから――とりあえずやってみますかね。やばかったら早めに飛び降りる方向で」
ここで初めて悠宇がハンドルに手を置く。
触った感じは鉄道模型の車両を動かしていたコントローラーより重厚感があるように悠宇は感じていた。
そして悠宇はとりあえず――。
ヴォォォォー。
汽笛を鳴らした。今日も静かな場所にはよく響く。
「ひっ。もう先輩。びっくりするじゃないですか」
「いや、一応合図的な?」
悠宇が突然鳴らしたため。ちかが驚きびくっとしてから悠宇に文句を言いつつも。悠宇とは反対側。この運転席座席が左右2か所にあるのだが。悠宇が左側。ちかが右側にサラッと座る。海楓は2人の間に立っているという状態になった。
「さすが悠宇。お爺ちゃんそっくり――あっ、アナウンスもする?」
海楓は特に座りたいとかそういうことはないみたいで、悠宇の肩に手を置き悠宇をいじっていた。
ちなみに悠宇の爺ちゃんは鉄道模型を動かす際に駅員などになりきり。アナウンス付きで走行をしていたので、そのことを海楓は言っている。
「それは爺ちゃんがいつも勝手にというか。1人でしていただけだって」
「悠宇もしなよ」
「なんでだよ。っかまだ動きてないし。動いたら動いたでそんな余裕ないだろうが。そもそもこんな大きなもの動かしたことないんだから」
「ファイトー」
「先輩。命預けましたー」
「海楓は軽い――って、ちかはちかで責任重大にするなー」
ハンドルを持つ悠宇は変な汗を――だったが。周りの2人は楽しそうにしている。
「まあまあ悠宇。大丈夫だよ。多分」
「はぁ――行きますよ。動かすぞ」
「はーい」
「じゃ、出発進行!」
悠宇の後ろからは楽しそうな海楓の声――どうやら海楓。自分が言いたかった様子でかなりノリノリと言った感じだった。
「――海楓が言いたかったと」
もちろんそのことに関しては悠宇もすぐに気が付いた。
「こういうのは指差しとか合図しっかりしないといけないんだよ?」
「前は大丈夫そうです」
「あー、ちかありがとう」
「いえいえー」
すると、どうやらちかはちかで、単に座りたかっただけではなく。一応悠宇の側からでは片側しか見えないと思ったのか。右側の情報を悠宇に伝えた。
ガコン。
そして、ちかの声を聞いた悠宇がハンドルを一段階前に押す。
ギィィーーガッタン。ガッタン……。
車内が少し振動子。そしてゆっくりと車輪が回りだしたらしく。悠宇たちの見る景色が動き出す。
どうやら無事に悠宇たち3人を乗せた蒸気機関車が動き出したようだ。
「おお、動いた!」
「おお、かっこいい」
「すごいです」
悠宇は動いたことに感動しつつも。2人の命を預かっているということで、ちゃんとスピードを上げる前に一度ブレーキを確認するためにハンドルを手前に引くと――ちゃんとスピードが落ちた。
ブレーキの確認をした悠宇はハンドルを再度押し込み。今度はスピードを上げるとちゃんと悠宇の思い通りに蒸気機関車が走り出す。
ヴォォォォーー。
悠宇の様子を見つつ多分テンション高め?の海楓が汽笛を鳴らす。
するとますます良い雰囲気になり3人の会話は弾むのだった。
3人を乗せた蒸気機関車はスピードを上げ。シュッシュッ――と今まで長期間止まっていたと思われるが。そんなのは嘘みたいに快調に走っている。
ちなみに速度はそこまで早くない。でも歩くのと比べればかなり早く。そして何より楽である。
「今のところ線路はあるな」
前方を見つつ悠宇が言う。
「はい。こっちもちゃんと線路は見えてます。少し曲がりつつも――でもちゃんと先まで続いてますね」
悠宇の声を聞いたちかが自分の前を見つつ答える。
さすがこの2人というべきか。特に打ち合わせせずとも息のあったプレーをしている。
「ならこのまま行ってみるか。海楓適当に警笛鳴らしてくれ」
「うん?なんで?」
「今のところ生き物は見ないが一応柵とか何もないところってか、普通に大地の真ん中を突っ走っているからな」
「あー警告。注意喚起だね」
「まあそういうこと」
「任せて」
ヴォォォォーー。
大地の中を漆黒の蒸気機関車が疾走する。
なお目立っているが――今のところその姿を誰かが目撃することはなかった。
それから悠宇たちは3人で協力しつつ蒸気機関車を走らせた。
ちなみに燃料はやはり炭水車の方に積まれていた石炭?で良かったみたいで走行中に悠宇と海楓がボイラーの様子を見るとちゃんと燃えている感じだった。
なお、石炭?の補充も必要かと思ったが。今のところその必要はなさそうだったためそのまま走っている。せっせかせっせかと補給する必要はないらしい。
「これ石炭じゃないのかな?」
海楓が石炭?を見つつつぶやく。
「わからん。でもさっき見た感じだと、今入っている量でまだまだ大丈夫な気がするんだよな。詳しくはわからんが」
「動いてるから大丈夫なんじゃないですかね?」
「まあ止まったら止まっただな」
「今ここで止まっちゃったらそれはそれで大変なことになりそうだけど――」
「「確かに」」
悠宇も操作に慣れてきたのと。そもそもまっすぐの一本道で両サイドの見通しもよく。人も居ない。
そしてカーブもほとんどないため。順調に蒸気機関車は進んでいた。
運転をしつつの車内の会話もゆとりがある感じとなっていたのだった。
「にしても、悠宇先輩の線路を作る能力どこまで行ったんですか?かれこれ数十分は走ってますよね?」
「そういやそうだな。突然終わられても――だが。今のところまっすぐでかなり先まで見えるからな」
「今のところ私からも淡い光は見えません」
「俺も見えないな」
ヴォォォォーー。
「これ楽しい!」
悠宇とちかが真面目に前方確認をしている間。海楓は海楓で警笛鳴らしを大変楽しんでいる様子だった。
「海楓は完全に警笛担当か」
「引っ張ると凄く気持ちいよ。この響き好き」
「そりゃよかったよ」
ヴォォォォーー。
それからさらにしばらく悠宇たちはのんびりとした鉄道旅を楽しむのだった。
そして、この後しばらくして前方に小さな町が見えてきたのだった。
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