第34話 同じということ

「やっぱり無理だな」

「何も変わってないですね」


 再度煙は黙々と出している蒸気機関車の運転席に居る悠宇とちか。

 さすがに悠宇はちかの腕を離し。それぞれが運転席の中を見回しているところ。

 しかしどうやっても動かせる雰囲気がなかった。


「動かすには何がいるんだよ。本当に」

「そりゃ――燃料とかはあるみたいですから。レバー。ハンドルとかじゃないですか?あとブレーキ?ですかね?ですね。ブレーキはまず大切な気がしますね。動いたけど止まらないとか危なすぎますから」

「まあ、ちかの言う通りだな。でもここじゃ部品とかもないし――そもそもこんなにシンプルなところにどうやってハンドル付けろ――なんだがなー」

「そんな技術ないですしね」

「そうそう」


 悠宇とちかがお手上げ。悠宇に関しては少し投げやりの状態で話していると。外から声が聞こえて来た。


「ねえねえ。これ使えない?」

「うん?って。海楓。それ――俺の家から持ってきた?」

「イエス!」


 運転席から悠宇が声の主。海楓の方を見ると。海楓はいつの間にか鉄道模型の車両を動かすのに使うコントローラーを1つ手にしつつ悠宇の問いにいい笑顔。あとピースをしつつ答えたのだった。


「まさかだと思ったんだけど、これ悠宇の家にある車両とほぼ同じでしょ?ならそれを動かすなら――同じものでいいんじゃないかな?って」

「海楓はいつの間に向こうに戻ってたんだよ」

「駅の中の部屋からちょっとね」

「あそこも一応問題なしなのか」


 悠宇はこういう時は別行動危ないような――などと思いつつも。海楓には何も言ってもか。と、少し呆れつつ駅舎の方を見る。

 駅舎の中には悠宇の家へと繋がっているドアがある。

 あちらは一方通行らしいが。海楓の行動により悠宇が確認する前に帰れることが分かった。というか。悠宇は『確認忘れていた』と、帰りのことを忘れていたのだが――顔には出していない。実は海楓重要な確認作業をさらっとしていたのだった。


「でも――それってケーブル刺さないとですよね?」


 ちょくちょく悠宇の手伝いをしていたちかはある程度コントローラーのことも知っていたので。海楓の持っているコントローラーを見つつ言った。

 そしてちかの言うことは正しい。

 鉄道模型の車両を動かすコントローラーは電気が必要なので、コンセントに刺さないと使えない。

 なおレバーの操作くらいは電気がなくてもできる。ガチャガチャと上下に動かせるだけだが。


「まあそれなんだけどねー。でももしかしたら、それはもう燃料?は入っている感じだし一応ね」


 ちかの問いは予想済み。といった感じで海楓が話ながら悠宇たちの方へと近付く。


「そりゃ海楓の言う通り。試す価値はあるな。つなげる穴は――ないが」

「その時点でもう違うと答えが出ているような気がしますが……」


 話しながら海楓も運転席へとコントローラーを持って上がって来た。

 そして悩む3人。

 先ほどちかが言ったが。コントローラーがあってもケーブルを刺す穴がないのである。というか。あったらあったでそれはそれでびっくりだが――びっくりだったのだが。


 ガチャ。


「「「……うそー!?」」」


 それから数分後。海楓がなんとなく。運転席の前にあった小さな空間。台とでもいうか。たまたまあった物置き場?のようなところにふとコントローラーを置くと。また魔法?発動である。

 一瞬にして、運転席の椅子の前にワンハンドルのハンドルが現れたのだった。サイズもぴったり。蒸気機関車がワンハンドルというのは――ありなのだろうか?だったが――。

 と、とにかく運転席に海楓が持ってきたコントローラーは、まるで移植でもされたような状態。違和感なくちゃんとくっついていて、逆にもう剝がせなくなっていた。


「――海楓先輩。何したんですか。エスパー?いや、ここでは魔法?」


 コントローラーがめり込んだ。いや、合体した?光景を見ていた悠宇たちだが。驚きの後ちかがまず海楓に聞いた。


「いやいや、私置いただけ――うん。置いただけ」


 コントローラーをなんとなく悠宇の家から持ってきて、なんとなく運転席にあったスペースへと置いた海楓は海楓で戸惑いの表情だった。

 実は海楓まあ無理だろうと思いつつの試しだったりする。

 そしたらだまさかの正解で驚くことになるのだった。


「またなんか急に見た目が変わったんだが――」


 悠宇は悠宇で魔法みたいなことが起こるのは、この場所ではちょくちょくあること――と、思うようにはしていたが。それでもさすがにまた起こった謎現象に驚くしかなかった。

 慣れるまではもう少し時間がかかりそうだ。慣れていいことなのかだが……。

 とにかくだ。初めて悠宇たちが来た時から煙は出ていて動きそうな雰囲気だけを出していた漆黒の蒸気機関車。遂にハンドルが付いた。果たして動くのかはまだわからないが……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る