第87話 俺の名は――3 ◆
あれから俺は北に向かって歩いているはずだが……。
なかなか記憶にあるラー地方やサーカ地方。ヨート地方の気配がなかった。
北に歩けばどこかの町。そこそこ大きな町に出ると記憶が言っていたのだが。今俺の視線の先に見えているのは海。
俺の予定していた目的地は内陸のはずで海はなかったと思うのだが。どうやら俺の記憶が混乱しているうちに国の形が変わったのかもしれない。
「大陸移動説とかあるかもしれないよな」
――いや、そう簡単にはない。が。この茶髪のボサボサ頭の男。自分の思うこと。考えることは正しいと思い。遠くに見てきた海が目指す場所だと思い歩き続けた。
それから少し。
茶髪のボサボサ頭の男は潮の香りがする町へとやって来ていた。
「まるでシーマ地方に来たみたいだな」
茶髪のボサボサ頭の男は田舎町といった感じの街並みを見つつつぶやく。
「まあとりあえず予想していた雰囲気とは違うが町には着いた。とりあえずここでは――腹ごしらえか」
あたりを見回しつつ。茶髪のボサボサ頭の男はちょうど目についた屋台へと入る。どうやら屋台は海産物を焼いて出しているお店らしく。年配の男性が鉢巻を頭に巻きイカの足のような商品をいくつか焼いていた。そのためいい香りがあたりに充満していた。
「おっちゃん。俺も焼き串3本。あと――酒1つ」
「はいよ」
茶髪のボサボサ頭の男は注文を終えると商品が出てくるまでまたあたりを見回した。
「――ホントシーマ地方みたいな風景だな。北にこんなところがあるとは思わなかった」
「おいおい、にいちゃん」
「――うん?」
茶髪のボサボサ頭の男が1人でつぶやいていると鉢巻を巻いている年配の男性が笑いながら話しかけてきた。
「ここがシーマ地方だぞ」
「……へっ?」
「だから、ここがシーマ地方だ。どこから来たか走らんが。まあ北の町はここからまだまだあるぞ。南のマナ域のシッカジモアの方が近いかもしれんな。まああそこはここいらとは違っておっかないと聞くが。でもまあそもそもあっちの国……今はなんだった?レオ帝国だったか?向こうに行くには山越え必須だからな。もともと線路も繋がってない別の国だったからな。って、そもそも今じゃどことも線路は繋がってないがな。ってか、シッカジモアにもし行くなら下手したら海から回っ――」
「――あれ?いやちょっと待ってくれ。俺シーノ地方から北に歩いてきたんだが――?」
語りだした年配の男性会話を遮り茶髪のボサボサ頭の男が再確認をした。
「はっはっはー、そりゃ完全に道を間違えたな。シーノ地方からここは南東だからな。北には進んでないよ。って、間違えようにも間違えるようなところ――あったか?あー、でもいろいろあったからな。もしかしたら道が変わったりなくなったのかもしれんな。ここ最近は町から出ることも来る人も少なくなったからなー」
「――」
茶髪のボサボサ頭の男。ここにきてやっと自分が進むべき道を間違ってたことを知ったのだった。
しかし何とか笑顔を維持し。その後は年配の男性と雑談をしつつ食事をまずしたのだった。
屋台で焼き串と酒を平らげた茶髪のボサボサ頭の男。
お酒により少し陽気な気分になったため。先ほどの自分のミス。予定していた北の町へと向かっていなかったということはすでに頭の隅へと追いやられていた。
「よーし。次こそ北だ北」
満腹になった茶髪のボサボサ頭の男は仕切り直したように屋台を離れるとまた歩き出した。
――南へと向いて……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます