第88話 俺の名は――4 ◆
シーノ地方から何故か目的地とは別のシーマ地方を訪れていた茶髪のボサボサ頭の男は魔物退治をしつつ山を登っていた。
「――このあたりちょっと敵が強すぎないか?なんでマナ域やエーテル域から離れているはずなのに濃くなってるんだよ。ホントなんか無茶苦茶なことがこの世界で起こってないか?」
茶髪のボサボサ頭の男は少し前に手に入れた装飾の施されている剣を使い魔物を順調に倒しつつもいろいろ考えていた。
なお、先に言ってしまうと。茶髪のボサボサ頭の男。もうわざとなのでは?と、もし周りが知れば言われるようなことを今している。
あれだけ北に向かうと言いつつ。今茶髪のボサボサ頭の男真逆の南にまた進んでいた。しかし本人は北に進んでいると思い込んでいた。
ちなみにシーマ地方から南へと行くと。国が変わる。
今までは普通域とも言われていた場所だったが。今度はマナ域と呼ばれている場所になる。少し普通域とは違う空間とまではいかないがちょっと違う。空気が変わるというのか――ちょっと違うのだ。いろいろと。同じ人が住んでいるが少し――不思議なことが起こる。簡単に言えば今までより多くの魔物が居る区域へと足を踏み入れていた。なお、特に普通域の人が別の区域に足を踏み入れたからと言って、身体に何か起こるわけではない。
しかし、別の区域に入り込むということは国が変わるということ。もしそれが不正で――秘密裏に――などだと、それはそれは問題となるのだが――今のところ茶髪のボサボサ頭の男はマナ域と呼ばれるところでもほとんど人の居ない。住んでいない土地を歩いていたため。特に問題は起こっていなかった。
そしてこの茶髪のボサボサ頭の男。通常の普通域の人の場合普段は多くの魔物と接することがほとんどない。何故なら普通域では魔物を見るのは山奥の土地だけだからだ。そのため戦い慣れている人が少ないはずだが――そもそもが強かった?のか難なく魔物を退治しつつ進んでいたため。自分が普通域の山奥にまだいると思い込んでいた。
「こんなに来たの町って遠かったか?あー、そういや俺が歩く向きを間違えて逆に行っていたから。しばらく歩く必要はあるか。って、しまったな。さっきのおっちゃんにシーマ空一番近い町がどこか聞いておけばよかったな」
ガサガサ。
茶髪のボサボサ頭の男がいろいろ考えながら歩いている途中もまた魔物が姿を現す。熊のよう魔物が目の前に現れた。
「ホント多いな」
しかし茶髪のボサボサ頭の男は単なる草木を払うかのように剣を一振りし魔物を倒して進んでいく。
「――マナ域の奥地の魔物じゃないんだし。俺の強さに気が付いて近寄る事やめてくれねーかな。さすがにちょくちょく出てこられると面倒だわ。全然町に着かないし。そりゃ魔物も生きていくために獲物を――だろうが。俺だぞ?王の器を持った俺だぞ?負けるわけなじゃん――って、今更だけどよ。俺って名前なんだ?」
……。
本当に唐突に。唐突にいろいろとつぶやいていた茶髪のボサボサ頭の男が自分の名前のことに気が付き足を止めた。
「そうだよな。俺名前なんで覚えてないんだ?なんかこのあたり――首元までは出てきている気がするんだが――」
そして自分の記憶をひねり出そうと考え出した。
ガサガサ――。
しかしそんな茶髪のボサボサ頭の男の考えを邪魔するようにまた魔物が出てくる。
「あー、もうしっし。俺は今忙しんだよ。名前を思い出したいんだから」
茶髪のボサボサ頭の男が面倒そうに片手で出てきた魔物に向こうに行けという仕草をする。
普通ならそんなことで魔物が逃げ出すということはない。
あるとすれば圧倒的力を持っている場合くらいだ。
力を持っている場合くらいなのだが――。
――――ガサッ。ガサッ。
「――うん?逃げて……いった?俺――強っ」
一応手くらいでは追い払えないだろうとは思っていたので、さくっと剣で切る予定だった茶髪のボサボサ頭の男。剣を手に――というところで、何故か魔物の方が周り右をして茶髪のボサボサ頭の男の前から姿を消した。
「いや、マジで?仲間呼んで来るとかじゃないよな?まあ少しくらいなら呼ばれても問題ないが――って、戻って来る気配はない。うん?俺やっぱりめっちゃ強い説?さすが俺!しっしだけで魔物追い払ったよ――って、しっし――シッシか。なんか俺そんな名前な気がしてきたぞ」
そして何を思ったのか。急にそんなことを口にする茶髪のボサボサ頭の男。1人で道端で頷いていたのだった。
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