第13話 レイアウト炎上

 ちかが海楓の独創的な料理観を知ってから数日後。

 悠宇たちは平日は2日に1回くらいのペースで3人で食事をすることが決まり(さすがに毎日はそれぞれのこともあるので、唯一料理ができない海楓はストックを悠宇に作っておいてもらったりということになった)。また休日に関しては、今まで通り悠宇とちかの時間が作られることになった。そもそも海楓自身休日は友人と出かけることが多い。というか引っ張りだこのため。悠宇が拘束されるということになるのは殆どなかった。

 

 でもちょっとそれぞれの生活が今までとは変わったと言ってもいいだろう。

 海楓のところにちかが泊りに行くようになったり。

 海楓のところにちかはちょくちょく行くようになり。今までは自分のマンションから悠宇のところはちょっと距離があり。平日。学校帰りはなかなか行くことがなかったが。海楓のところに行くようになると。平日にも悠宇のところにちかが――ということが増えた。

 またちかが海楓と一緒に居るようになると、意外と悠宇が自分の時間が少しだが増えた。理由は『今日は女の子同士の時間――』などとちか、海楓が言うようになったからだ。

 それもあって、3人での食事の後、悠宇は爺ちゃんの鉄道模型の整備の時間がほんと少しだが増えて心の中で喜んでいたりする。

 それと、ちかが平日に来ることが増えて、ちかも悠宇がしている鉄道模型の整備。細かなことはできないが。少し掃除をしたりすることはもともと悠宇の爺ちゃんがいる時に遊びに来ていた時にもしていたため。というか、今までも休日で悠宇の家に来ているとしていたので、作業人数が実質増え。少しだが。前より作業の進みが早くなりつつあったのだった。


 そして今日の悠宇は1人で放課後自宅へと向かっていた。

 海楓とちかはどこかへと今日は行くらしく。すでに別れている。ということで、悠宇は今日自分の時間ということで、放課後はまっすぐ家へとちょっと急ぎ足で向かっていた。

 ちょっと急ぎ足というのは、学校の文化祭が近づいてきており。そのうち放課後の準備などが入って来ることが予想されるため。できるときに鉄道模型の整備をしておこうと悠宇は思っていたからである。


「昨日は――山のところをしたから――今日はその先か。町のところだったな。割りばしとかあったよな――そろそろ買い出しもいるか?あっ、それより、爺ちゃんが大事にしていたあの機関車そろそろ走らせてみた方がいいか――?」


 今日も真面目な悠宇は、歩きながらすでに今日やることをつぶやいていた。

 これが大の鉄道好きではなく。爺ちゃんから任されたから。遺言があったから。という理由でやっているのですごいことである。

 さすがに毎日鉄道模型に囲まれている悠宇なので、少しずつ興味は出てきていたが。のめりこむ。自分で新しいものを作るというようなことにはまだなっていなかった。

 それから少し悠宇がいろいろと今日の予定を考えていると悠宇は自宅へと到着した。

 自宅へと到着した悠宇は本当にそろそろ真面目に鍵を変えないとな――と、今日も思いつつ。棒状の鍵を鍵穴に突っ込んで鍵を開け家の中へと入る。

 そしていつも通りにぎやかに、ガラガラとドアを開け。荷物を玄関近くのいつものところへと置いて、着替えを終えた悠宇は居間へと足を進め――止まった。


「――――――えっ?」


 荷物を置いて、部屋着に着替え居間へと入った――というところで悠宇は時間が止まったように止まった。

 あまりの驚きに微動だにせず目の前を見た。

 悠宇の視線の先にはいつも通りの大規模な鉄道模型のレイアウト――は、ある。あるのだが……。


「な。なんだよこれ。えっ?何がどうなってるんだよ。って、泥棒か!?」


 一瞬微動だにせず固まっていた悠宇が行動を再開する。

 足の踏み場がないのはいつものことなので、コントローラーなどがあるところへと行くだけだが。悠宇はまずそこへと移動して見える範囲の確認をするが――。

 

 ほぼどこを見ても鉄道模型のレイアウトがボロボロになっていた。


 線路上に置かれていた車両は倒れたり。中には真っ二つになっている物も見える。

 さらに、町や海、山などいろいろな場面が各所に作られていた鉄道模型のレイアウト。しかし今はその面影が全くと言っていいほどない。

 鉄道模型のレイアウトは木の板の上に発泡スチロールなどいろいろなものを使って形を作り。そのあとは建物を置いたり。砂や爪楊枝などを使い作った木などが刺したりしてリアルに町など。自然が作られていたのだが。今はそれもボロボロ……。


「――土?」


 すると悠宇は近くの模型を見て再度固まった。

 確か悠宇の記憶では木の板でその下には模型用の砂などが使われていたと記憶していたのだが。今ボロボロになっている模型よく見ると穴などが開いて線路が無残な姿になっているところに土がある。本物の土に見える――いや、本物の土がある。

 そして壊れた建物もよく見ていると。プラスチックなどで作られていると悠宇は思っていたがまるで本物のコンクリート。またはレンガなどで作られていたのか。と、思わせるような壊れ方をしていた。

 全体的に見ても地震などが起きたというより(そもそも最近全く揺れていない悠宇の住んでいる地域)。何かに破壊。それこそ鉄道模型のレイアウトの中で大規模な戦いでもあり。町が壊れた。山が崩れたのではないかというような様子だった。

 実際には誰かがレイアウトを壊したのだろうが――。

 しかしところどころおかしなところもあった。海や川があった場所の近くでは海や川は残っているが。川の形が変わっていたり。海の近くにあった町が完全に水没したような状態となっていたのだ。


「なんだよ。どうなってるんだよ――」


 全く訳の分からない悠宇はその場に立ったまま左を見たり右を見たりとキョロキョロするばかりだった。


「――――あっ」


 すると、一番近く。コントローラーなどが置かれている一番近くにある待避線とでもいうのか。小さな車両基地に漆黒の蒸気機関車。炭水車付きが目についた。


「これは無事だったか」


 そもそも悠宇の爺ちゃんの作った鉄道模型のレイアウトに置かれている車両はこの広大さからしては少ない方だった。

 車両は各所に作られた車両基地に納まる車両数。と言っても広大なので、各所に置かれている車両をすべて集めると数百両はあったが――でも長い長い家中に敷かれている線路から比べると車両は少なく感じるくらい。

 そのため悠宇の爺ちゃんは車両をすべていつもレイアウト上に置いていた。というか。車両を片付けるつもりがもともとなかったのか。通常鉄道模型は購入時など車両ケースに入っているのだが。それがこの家にはなかったため。爺ちゃん亡き今管理をしている悠宇も一度は車両ケースを買った方がいいのではないかと思ったが。レイアウト上にある車両はどれも大きさがまちまちであり。そもそも車両ケースに収納したところで、そのケースを置いておく場所がない――などなどという理由でケースを購入するのは諦めて、悠宇は毎日のように鉄道模型を触り維持することにしたのだった。

 そのためレイアウトがボロボロということはそのレイアウト上。線路上にあった車両も多くが無残な姿となっていたが。

 たまたま近々整備。点検しようとしていた悠宇の爺ちゃんが一番大切にしていた漆黒の蒸気機関車だけがちゃんと線路上に残っていた。

 多くの場所で線路が割れたり。大きく壊れたりしていたが。隅っこにあった蒸気機関車だけは難を逃れたらしい。『最近動かした記憶はなかったが――』と、ちょっと悠宇は引っかかることがあったが。

 ちなみにこの車両は悠宇の爺ちゃんが絶対に悠宇には触らせることなく。いつも大切にしていた車両で、他の車両と比べても完全に特別扱いのレベルで毎日のように悠宇の爺ちゃんは手入れをしていた車両だったので、それだけでも無事を確認できたのは悠宇にとって大きかった。

 ちなみに爺ちゃん亡きあとは初めて悠宇は触るとき手袋やいろいろ完全防備で触ったという記憶がある。

 爺ちゃんが健在時。悠宇は耳に胼胝が本当にできるのではないだろうかというほどこの車両だけは触るなと言われていたからだ。『もしかしたらいつも謎なことを言っていることが多かった爺ちゃん。何か特殊な仕掛けでもしているのではないだろうか。または実はこれだけ本当に石炭とかを使って走っているとか――』などとまああり得ないだろうと思うこともいろいろ思いつつ。初めて触るときはそんな感じで何が起きても良いように完全防備で触ったが――結果は単なる漆黒の輝くボディーをもった蒸気機関車だった。細かく作り込まれていたが。それは他の車両と同じで、結果悠宇は。『単に爺ちゃんのお気に入りだったか』と、言う結論に達したのだった。

 

「とりあえず、これは傷とかもないみたいだし。とりあえずどこかに――」


 そして悠宇は漆黒の蒸気機関車を見つつ。今は壊れたレイアウト上は傷などがつく恐れがあると判断して。どこかに避難させようと思い。遠くの方。悠宇の居た場所からは一番奥の方になるところのレイアウトはどうかと思い見た時。。そちらはまるで大規模な火事であったのかというくらい全体が黒く焦げて――さらに燃えているところがあった。炎である。


「――って、火事!?いやいや、警察――じゃなくて救急。消防車!」


 鉄道模型のレイアウトが壊されていたので、お巡りさん。警察に連絡――というのは頭の中にはあった悠宇だが。あまりに鉄道模型だけが壊れすぎていて警察に連絡というのがまだだったが。さすがに現在進行形で小さながらも火の手が上がっているのを見つけてしまった悠宇は大慌て。スマホを取りに玄関のところのカバンに――の前に、とっさに『爺ちゃんの一番大切にしていた漆黒の蒸気機関車は守らないと』と、で蒸気機関車の方へと手を伸ばし――蒸気機関車に触れるか触れないかというところで意識が途絶えたのだった。


 ◆


 そしてその後の悠宇は何もわからない初めての土地『杜若』と書き『とわか』と読むらしい土地。場所に立っていたのだった。

 目の前にはボロボロの建物。駅舎?と思えるものと、朽ちた大木の影と――一応視線の隅に漆黒の蒸気機関車を捉えているという状況だった。


「……………………ふぁっ!?」


 しばらくのシンキングタイムのち。悠宇は間抜けな声を上げるのだった。

 もちろんその悠宇の声を聞いたものは――いない。

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