第14話 杜若という地

 この場ならどんな頓珍漢なことを発言しても全く問題ないだろう。

 なぜならこの場には悠宇1人しかいないからである。

 しかし現在の悠宇は落ち着きを取り戻した――ような雰囲気を出してはいるが。実際には自分の身体に何が起こったのか全く分からず。変な声を出しているくらいだった。


「――はにゃっ!?」


 なお悠宇が変な言葉を発しても、それ対して反応してくれる人は今のところいない。

 強いて言うなら、今にも走りだしそう。走る準備OKの蒸気機関車が汽笛でも鳴らしてくれるかもしれないが……今のところ勝手に動き出す雰囲気はない。汽笛もならない。

 そもそも蒸気機関車の乗っているレールは先が続いてはいるがボロボロ。その上を走れるかも謎――いや、走ったら線路が真っ二つに割れる可能性があるだろう。


「――――はんにゃっ!?」


 再度あたりを見た悠宇が唐突に声を上げるが。またしても悠宇の発した声は、誰にも届かず。空しく消えていくのだった


 ◆


 とりあえず今は悠宇が自宅のレイアウト上に置いてあった漆黒の機関車を触ったら――いや、触ろうとしたら、突然違う土地に飛ばされたとでもいう状況である。

 さすがに時間が経てば、悠宇に頭の中の大パニックは少しだけ落ち着いたが。


「……」

 

 まだ今のところ悠宇は何度もあたりをキョロキョロするばかりだった。

 それからまた少しして、やっと悠宇は自分に現状を理解させようと、とりあえず思ったことを声に出し始めた。


「――――これは……俺はどこかに飛ばされた?転移の装置言うのか魔法でもあの機関車にはかけられていたのか?って、そんなファンタジーみたいなこと起こるわけない――ないと思うが……これ異世界転生とかそんなことだったりする?あれ?つまりは、ってか……もしかして俺現実では死んじゃったとかそんなこと――あるか?あっちゃう?そういやレイアウト燃えていたよな。炎。ファイヤーしていたよな。つまり――あのまま俺は煙にでも巻き込まれて――死んだ。いや、マジか。でもその可能性が高い気がする。でもなんで今俺は1人で見知らぬ土地に立っているんだ?これが実は天国?または地獄?いやいや、さすがに俺地獄に行くようなことしていないはずなんだが――していたかな……?でもなんか雰囲気はまだ現実というか。どこかにありそう。でもなさそうな場所というか――あっ、だからやっぱり異世界転生とかそんなことになるのか?そういや自分の見た目は――部屋着のままだな。ってか、異世界ならもっと異世界らしい服装にチェンジしておいてくれよ。一度でいいから騎士とか魔法使いに――ってそんな冗談言っている場合ではないか。一応意識ははっきりしている。何があったかも――まあ落ち着けば思い出せるしわかる。でも――ここはどこだ?駅?でもボロボロだし――人が居る気配はない。幽霊屋敷と言われた方がしっくりくる。ってか、人居ないよな?見える範囲は――いないな。よし。いない。でも……じゃあなんであの蒸気機関車は今にも走り出しそうな雰囲気を出しているのか。そもそもあれは本物――なのか?まあ煙が出ているし――動くのは動きそう。って、線路が走ったら砕けそうな雰囲気だから動いた瞬間脱線しそうだな――って、それもちょっとおいておくべきか?あの蒸気機関車は明らかに場違いな雰囲気を出しているし。いや、駅?の雰囲気はなくもない場所だから。蒸気機関車が止まっていても問題はないはず。ないはずだが――差が激しすぎる。駅?と思われる方はボロボロだし。でも蒸気機関車の方を見たらピカピカだし。よし。これに関しても今のところ混乱する材料にしかならないからおいておこう。でだ。現状なんで俺は1人でこんな見知らぬところに立っているのか。マジで誰もいないのか?もしかしたら振り向いたら――緑だな草原だな。これ――どこかの星に生命1人とかじゃないよな?さすがに俺1人じゃ繁殖できないぞ?もしかしてこの蒸気機関車を使えって?いやいやそれはない――って、俺は何を1人で言っているんだよ。普通ならこんなに1人で話してたら誰か突っ込んでくれるはずなのに……それがないということは誰もいない。または――隠れているということだよな。まあ……後者はないか。いやでも俺が急に現れて1人で話し出したら関わろうとは誰もしないか?でも――全く気配がないからな。居ないんだろう。にしても、こういう時はどうしたらいいんだ?誰か読んだら出てくるのか?『誰かーーーー』…………………………風が気持ちいな。空気もおいしいなーじゃなくて。って、マジで1人なのかよ。悲しくなってきたぞ。俺は1人で何をぶつぶつ言っているんだと――」


 見知らぬ地で悠宇がぶつぶつ話しているのは実際に今起こっていること。

 誰も止める人が居ないから悠宇は1人でつぶやき続けているのであった。


「――わかった。動けばいいんだな」


 見知らぬ土地に唐突に飛ばされてきた。やって来た悠宇。混乱のち。そこそこの時間を使ってから、やっと足を動かしたのだった。

 もちろん悠宇の足は地面とくっついているということはなく。ちゃんと悠宇が動かそうとすれば思うように動かすことができた。その他手なども思い通り動く。


「――歩けるな。」


 歩けることが確認できた悠宇はそのまま駆け足――そして走って目印に唯一なりそうなボロボロの駅舎――ではなく。線路沿いを走った。何故そっちに走ったか。一応悠宇はもし誰かが攻撃してきたら――ということを考えて見通しの良い方を選んだのである。建物の方からだと不意打ちの可能性を考えたからだ。

 ということで、悠宇。そこそこ頭がちゃんと回るようになってきていた。

 そして、悠宇は線路沿いを走った。走ったが……。


「あっ、終わってる」


 少し悠宇が移動したところで、ボロボロだった線路がついに形を留めておらず朽ち果てていた。一応その先も何とか線路があった――というのはわかるが。かろうじて線路を残しているところもあるが。長い年月放置されたのが見たらすぐにわかるくらいにボロボロになった線路。もう悠宇が乗っても線路が砕けてしまいそうな感じだった。なお線路はまっすぐ伸びていたので、さらに少し先を悠宇が見てみると――さらに少し行ったところで完全に線路が終わっている。枕木は何とかあるが。レールが完全になくなっていた。

 

「――ってことは、やっぱりあのボロボロの駅舎?を調べるべきか」


 線路のそばで回れ右をした悠宇は再度先ほど目の前にあった駅舎の方を見た。ちなみに駅舎近くにはどうもこのボロボロ。朽ち果てているのが当たり前のような場所で、漆黒のボディーを輝かせている機関車が嫌でも目に入る。明らかに。場違いな輝きをしているが――明らかに怪しいということで、とりあえず悠宇は見えていないことにした。


「――誰もいないけど……過ごしやすい気候だな」


 輝くボディーに目がいった悠宇は、輝くということは空には――と、思いつつ空を見上げる。

 するとたくさんの太陽があったが。数は気にしないことにした。心地よい風があり。日差しも弱くも強くもなくちょうどよいため。わざわざ何か指摘することを悠宇はやめた。

 ふともしこの場で何か変なことを言うととんでもないことが起こりそうな気がしたからである。

 まあすでに悠宇はたくさんの独り言を話しているので、何か話したくらいで起こっていれば起きているが――。


「――マジでここどこだよ――って、駅舎のところに書いてあったか。『とわか』って、ちゃんと漢字とひらがなで書いてあるな――って、ちょっと待て、俺が読める字が書かれているということは、ここ日本だよな?あれ?もしかして俺が読める字に自動変換されていたりする?いやいやそんなハイテクなことないだろ――いや待て、でももし魔法が使えるとかそんな世界だったら…………」


 どうやら今の悠宇はとにかく独り言で落ち着こうとしているのか。その後も駅舎の前に移動してから見える範囲の情報でいろいろと1人で語るのだった。

 もちろん散々言っているが。誰も悠宇の独り言に反応する者はいなかった。


 悠宇はとりあえず『杜若』という場所に居るのだろうと、理解するまで。いや、言うことがなくなるまでその後1人でつぶやき続けたのだった。

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