第15話 運転席

「なんで俺はここに居るんだよ。全くわかんねぇー」


 しばらく独り言を話し続けた悠宇は、とりあえず旧駅舎と認定した建物の中を先ほど確認したが――これといって情報を得ることはできなかった。

 わかったことと言えば、かなり昔に使われていたのではないだろうか――ということくらいだ。

 建物の中ももちろんボロボロ。椅子や机。部屋もあったように見えたが。すべてがほぼ形を留めていないボロボロの状態。かろうじて形のある椅子も座ったら砕けそうな感じだった。

 もちろん棚やドアに関してはもう外れ床に落ち。それが長い年月をかけて風化した――と、言ってもいい状態になっており。床も悠宇がジャンプをすれば落ちそうな雰囲気。みしみしと歩くだけで音をさせていた。

 ちなみに一部すでに床が壊れているところも実際にあった。

 そのため悠宇はくるっと中を見てからすぐに外へと出て今は駅舎の前にあった石に腰かけているところである。室内は危険と判断したからだ。


 ぼーっと遠くを見る悠宇。ちなみに先ほど気が付いたことだが。遠くには山が見える。

 どうやらこの土地はかなり続いているということまでは、何とか悠宇は理解していた。というか、やっと今の状況を理解し。周りをちゃんと見れるようになっていた。でも今悠宇が居る場所は基本大草原の真ん中と言った不思議なところだった。山が見えると言ったが。相当な距離離れていると思われる。人の足でそこまで行くのは――平坦。上り下りは見える範囲ではなさそうだが。相当な時間を要しそうだった。


「――やっぱりこれが手掛かりなのかね。ってか、これを調べろオーラしかなかったか」


 しばらくぼーっと遠くを見ていた悠宇は明らかにこれを一番初めに調べろと言わんばかりに輝いているボディーを披露している蒸気機関車の方を見た。

 先ほどから動く準備万端というオーラを出しており。誰もいないはずなのに黙々と煙を出している。

 

 はっきり言って明らかに――怪しい。


 怪しすぎて悠宇は半径5メートル程度は近寄らないようにしていたが。さすがにもう手がかりという手がかりが蒸気機関車しかなくなったため。というかこのどこかわからない場所で、唯一悠宇が見覚えがあったものは蒸気機関車のみなので、とっとと調べろよ。と、獅子あたりがいたら怒られていただろう。


「確かさっきは触ろうとしたらここにやって来た気がするが――今度は触ったら爆発とかしないよな?にしても――これ爺ちゃんが一番大切にしていた蒸気機関車そっくりなんだよな――大きさは違うが。って、もしかしてこれを触ったら戻れる的な?」


 つぶやきながら悠宇は蒸気機関車に近寄る。

 大きさは模型で見ていたものの何十倍とある。というか、普通に鉄道の大きさ。悠宇の背丈より大きな蒸気機関車が目の前に止まっている。

 悠宇が近寄るとさらにピカピカのボディーの輝きがわかる。漆黒の車体には悠宇の顔が映っている。なお特に悠宇の顔は変化なくいつも通りの顔だった。この場所に来たからと言って何か悠宇自身に変化はなかったようだ。

 蒸気機関車は熱を持っているのか。周りだけなんとなく温度が違うように悠宇は感じた。


 蒸気機関車に近寄った悠宇は運転席などを見てみるが――やはり人影はない。

 蒸気機関車は駅とは少しずれたところに止まっているため。運転席をちゃんと見るには車両の側面。運転席のところにある梯子を上らなければいけない。

 車体に触っていいのか――と、いう考えが悠宇の頭の中にはずっとあったが。もうこれしかないということで、悠宇はそっと梯子の手すりを持つ。


「……」


 ――身構えたが特に何も起こらなかった。

 蒸気機関車の手すりも多分車体と同じ何か――多分鉄?でできているらしく。重厚感があり少し冷たい。悠宇は手すりを持つ手に力を込めて数段の梯子を上る。するとそこには予想していた運転席があった。

 再度となるが人は居ない。


「――蒸気機関車の運転席ってテレビとかでしか見たことないけど――多分そのまんまだよな――いや、ちょっと綺麗すぎるか?」


 キョロキョロと狭い運転席を確認する悠宇。

 もっとごちゃごちゃといろいろな設備があると思っていたが。今悠宇が見ている蒸気機関車の運転席はシンプルという言葉が当てはまりそうな空間だった。

 左右に簡易的な座席。そして中心には多分石炭?を入れる場所――にしてはちょっと小さすぎる気がしたが。とりあえずそれに関しては置いておき。あとは――天井に紐があるだけ。


 以上である。


「――」


 悠宇は勝手にたくさんのメーターなどがあったり。もっとごちゃごちゃしているイメージを勝手に持っていたのだが。あまりのシンプルさに驚いていた。

 すでに手すりを触っていたので、他も触ってもいいだろうと思った悠宇は。運転席の座席を触ってみたり。石炭を入れるであろうところを触ったりしてみる。


「椅子は――普通ちょっと硬めだろうが。でも椅子だな。っか、出来立ていうのか新品に見える。そして石炭を入れるところ――やっぱり小さいよな?」


 一応石炭を入れるところの蓋は両サイドにスライドさせると開くことを確認した悠宇だったが。すごく小さな穴だった。開いた瞬間。蓋を素手で悠宇は触っていたので、やけどする――などと思ったが。それほど熱くなく。小さな穴。石炭が1つ1つ入るくらいの穴なのだが。その奥ではじわじわと燃えている?ような青い炎?のようなものが見えていた。

 中を確認した悠宇は一度蓋を閉じた。そして今のところ運転席内の物を触っても特に何か起こることはなかったので――自然と悠宇はちょうどいいところにあった紐を手にして――引いてみた。


 ヴォォォォォォォォォォォォォォ……。


「あいっ!?」


 すると、悠宇が紐を引っ張った瞬間。悠宇の身体の中に響くような地鳴りのような警笛の音があたりに響いた。

 慌てて悠宇は紐から手を離すと――警笛は止まった。

 そして運転席の入り口のところから身体を乗り出してあたりを見る。

 あれほどの爆音。もしかしたら遠くの人が反応した――などなどと、悠宇は思った……のではなく。単に驚いてあたりを見ただけだったが。結果として、爆音を鳴らしたが。周りは何も変わらなかったことを確認した悠宇だった。


「――びっくりしたー」


 まだ少しドキドキしている悠宇は心臓付近を片手で抑えつつ。


 ヴォォォォォォ――。


 もう一度紐を引いてみると。再度警笛が鳴る。そして先ほどは気が付かなかったが運転席の丸い小さな窓からはちょうど白い煙が勢いよく上がっているところが見えた。警笛と連動している様子だ。


 ヴォォォォォォ――。


 特に意味はないが数回警笛を鳴らしてみる悠宇。

 もちろん。これだけ鳴らしても周りに変化はないので、何度しても特にこれと言った変化が起こることはなかった。


「――で、どうしろと?」


 しばらく警笛で遊んだ悠宇。

 運転席の椅子に腰かけつぶやく。

 現状蒸気機関車の警笛が鳴ることしかわからなかった。

 そもそもハンドルとかそういうものが見当たらないため。他に触れるものがない。運転席の椅子に座ったまま悠宇はあたりを見るが――やはりレバー。ハンドルのようなものはない。運転席があるのでそこから手が届く範囲に何かあってもよいはずだが――この蒸気機関車の運転席にはない。


 まるでまだ何か足らないと言われているような感じだった。


「いや、さっぱりわからないんだが――」


 誰も返事をしてくれないが。つぶやき続ける悠宇。悠宇もだんだん独り言ばかりの自分の姿が空しくなってきていた。

 

「――そういえば。炭水車?の方は……まあ多分石炭と水が入ってるんだよな?」


 特に声に出す必要はないが。悠宇は呟きつつ。運転席から立ち上がり。機関車の後ろに連結されている炭水車の方も確認する。

 まず炭水車にはたんまりと石炭が見え――る?


「石炭ってこんな感じだったか?」


 そしてそこで悠宇はとあることに気が付いた。

 石炭と言えば何でもかんでも周りを黒くしていそうなイメージがあったが。この蒸気機関車。綺麗すぎる。そして運転席も綺麗だったがよくよく見ると炭水車も綺麗で、何故か積まれている石炭も綺麗なように見えた。というか。石――いや、ちょっと濃い赤色の手のひらサイズの石に悠宇には見えた。


「――これ触っても――って、今更か」


 近くにスコップなどが見えないため。悠宇はそのまま1つの石炭――らしきものを手に取る。


「――やっぱり。これ宝石じゃないが。なんだ?」


 ぱっと見は石炭だと思っていたが。どうも違う。手に取っても手が汚れることはなく。なんだが――手のひらサイズの宝石を手にしたような。何とも言えない。重厚感を悠宇は感じていた。

 そしてよく目を凝らして石炭?を見ると。中心部で何か燃えているような――まるで生命のような――などととにかく何かがあった。

 

「――これ絶対触らない方がいいやつだな」


 悠宇はそのままそっと手にした石炭――らしきものをもとの位置へと戻した。

 ちなみに炭水車の方にはその他は――何もなかった。本当に何もなかった。


「あれ?水は?」


 水がどこかに入れてあると思った悠宇だったが。炭水車の運転席よりには石炭?と、思われるものしかなかった。


 それから悠宇は一度運転席を降りて炭水車の後ろへと行く。

 後ろへと回ると、連結部分があり。悠宇は『失礼します』と誰かに言いつつ。連結部分に足をかけて炭水車の後ろ。運転席から見えなかったところを覗いてみると――。


「――空っぽ」


 空っぽだった。

 この炭水車。運転席より7割くらいに石炭らしきもの。後ろ3割の部分はまるで荷物置きではないと思うが。それに近い何か。石炭が入らないように仕切られた空間があった。


「――やっぱり物置。荷物置きなのか?」


 何を置く場所かはわからなかった悠宇はそのまま地面へと降りる。


「――手詰まりじゃん」


 そしてまたまたつぶやくのだった。

 もちろん今回も誰の返事もない。


「俺マジでどうなるんだよ。ここで空腹で死ぬのか?」


 誰の返事もないが思ったことを口にしていく悠宇。


「確かに燃えていた空間に居たから死んだんだろうけど。死んだら死んだでなんかもう少し案内とかさ。なんかないわけ?どうなってるの?案内なしとか初めての人無理なんですけど?ってか、そもそもなんで蒸気機関車だけあるんだよ。明らかに前後に線路がないのにこれだけぽつんとって、何かありそうなのに何もないとかさ。もうお手上げだから。とでも言えばできるのかよ。って言うの」


 ドドドドド……。


「――へっ?」


 悠宇が適当に独り言をつぶやいていると。急に悠宇の足元が小刻みに揺れ出したのだった。

 そして悠宇が止まっている蒸気機関車の前方を見ると――。


「はいぃぃぃぃぃっ!?」


 目をぱちくりとさせることに悠宇はなったのだった。

 なぜなら――蒸気機関車の止まっていた場所から前へと延びる線路がゆっくりと作られていたからだ。

 誰かが作っているのではない。

 突然その場に現れて言っていると言った方がいいだろう。

 ボロボロの線路があった場所に淡い光。その光が少しまぶしくなると――枕木が見えてきて――そしてその上にピカピカの真新しい線路がゆっくりと姿を現しだしたのだった。

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