第28話 敵の襲来――ということはない
海楓が鉄道模型のレイアウト上に置かれたままになっていた漆黒の蒸気機関車を触ろうとしたら、その場から消えた。
悠宇とちかは人1人が一瞬で消えるという光景を見てしまい。動くに動けない状態となっていたが――すぐに裏口の方でドアの開く音がして足音が迫って来た。
「えっ、ちょ――何!?」
ちかが怯えつつ。ぎゅっと悠宇の首に回している手を強めた。
「ちょ、苦しい――って、そういえば鍵閉めて……って、もしかして海――」
「悠宇!ちかちゃん!」
すると悠宇がつぶやいた瞬間だった。足音の主。海楓が姿を現し。そのまま悠宇の胸の中に突っ込んだ。
大げさに言えば突進である。タックルである。
「ぐはっ」
「きゃっ」
「焦ったー!マジ焦ったー!よかったー!」
悠宇に抱き着きながら。ちゃんと自分が戻って来たことを確認するかのように何度か悠宇の身体に強く抱きつく海楓。そして悠宇を見た。
「びっくりだよー。またさっきのところに1人で行っちゃって。ガチで泣くかと思ったー」
「――えっと――とりあえず。苦しい――2人とも」
海楓の姿に安心しつつ悠宇は首とお腹周りの圧迫感を訴える。
「感動の再開くらいいいじゃん――って、悠宇。なんか太った?背中の当たりやわらかく――」
「きゃああああああ。海楓先輩!どこ触ってるんですか!」
すると、悠宇の耳を突き破りそうな悲鳴が室内に響き渡った。
なお、悠宇の首がまた少し絞まることになったが。悲鳴により悠宇の意識は途切れることはなかった。
「うるせー!」
「あっ。これちかちゃんのお尻かー」
何を触っているか分かった海楓は海楓で何故か笑みをこぼしている。
「わざと揉みましたよね!?っていつまで触るんですか!ちょ、叩かない!」
「ちか。鼓膜が破れる――」
「まあ事故事故だよ。ちかちゃん」
どうやら海楓はまだちかのお尻?を触っているのか。パンパンという音が聞こえている。
「なら早く離して!って、先輩。降ろして――」
「そういや。俺の首が苦しいのは。ちかが背中に乗ったままだからだよな。軽くて忘れてた」
「悠宇。まだ離さないで。ちかちゃんのお尻もう少し楽しむ。すごく小さくて柔らかいから」
「やめろ。海楓」
悠宇はすぐにちかの身体を背中からおろした。するとちかはささっと悠宇から一歩離れた。海楓の手から逃れるためだ。
ちかが離れると海楓の方も悠宇から離れた。
「もう!海楓先輩」
「悠宇。なんで離すのー」
「はいはい。それは後で2人で揉めてくれ」
そして悠宇を挟むようにちかと海楓が立ち、何やら言い合いを始めたが。悠宇はそれは無視して――話を進めようとしたが。無理だった。
「悠宇!」
「悠宇先輩!」
「なんで俺が責められてるんだよ!」
この場では女の子が強かった。
結局少しの間あーだこーだとちかの話を海楓の話を聞くことになった悠宇。本当はそれどころではなかったのだが――。
ちなみにまとめとしては――『海楓先輩とは学校だけで会いたいです』というちかのつぶやきに悠宇も頷くことになったのだった。
もちろんその答えに関しては海楓がまた文句を言うのだが――そこで「くぅ」というかわいらしい音が聞こえてきて、この話は終わることとなったのだった。
「――はぅ……なんで」
音の発生源はちかのお腹。ちかは悠宇と海楓を見つつ恥ずかしそうに小さくなっていく。また頬もどんどん赤くなった。
「そういえば――」
「急にお腹空いてきた?」
「ちかほどではないかもだが。もしかして戻って来れた安心した?にしてもちかは何でもかわいいな」
「うぅぅ……悠宇先輩のばかーばかー」
悠宇にいじられていることに気が付いたちかは悠宇の背中を叩く。もちろん悠宇に効果はなかったが――。
「まあ時間が本当ならもうすぐ晩飯だからな。っか、この流れだと――」
「悠宇よろしくー」
悠宇がちかに叩かれながら海楓を見ると海楓は自分の荷物を手に持った。
どうやら海楓の様子を見ると、このまま海楓の家へと行き。ご飯を作れと言っている様子だった。
「だよな。ちかもだろ?」
「あっ。はい。いつも通り――で」
「じゃ、この家だと――」
「「狭い」」
海楓が荷物を持った時点でこの場所を離れることを悠宇もわかってはいたが。一応聞いてみると――ちかにも返事をされた悠宇だった。
この家で3人でくつろぎながら食事はなかなか難しい。というか。そもそも調理もかなり大変である。悠宇1人で簡単に――なら問題ないのだが。
「わかってるよ。海楓の家でいいんだろ?」
「OK」
「お邪魔します」
それから悠宇たちは先ほど起こった事をいろいろ話したかったが。とりあえずは海楓の家へと移動した。
海楓の家へと移動すると、悠宇が晩御飯の準備をし。3人でワイワイと食べ。食後はいろいろあったということで、3人とも疲れがないことはなかったので、その日はすぐに解散ということになった。
本当は今日あった話を――だったが。明日は学校もあり。そもそもいつもよりすでに遅い時間になっていたので解散という選択肢が選ばれた。
ということで、ちかを悠宇が家まで送り。それぞれ家で休むことになったのだった。
その日3人はそれぞれぐっすり眠れたとか。いろいろ気になって寝れなかったとか?
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