第27話 異世界へようこそ?

 ガチャン。


 悠宇たち3人がレバーを下ろす(主に海楓の力だけで――)と、特にこれと言った変化はなかった。


「ちょっと悠宇何も起こらないけど?」

 

 しばしの沈黙の後。周りを見ながら海楓が悠宇に文句を言う。


「いや、俺に言われても――ね」

「これ――この駅員室?のドアが何か変わったとかじゃないんですか?」


 悠宇と海楓が話していると。悠宇の肩をつんつんと、ちかが突っつきながらドアを指さしつつつぶやいた。


「なるほど」

「じゃ、開けてみようか。まあ隣の窓から見える中は特に変わってないけどねー」


 ちかの発言のあとすぐに海楓がドアノブに手をかけ――ドアを開ける。するとそこは先ほど外から見せていた駅員室――と、思っていたが。


「「「へっ!?」」」


 ドアの先には――まず3人の目に飛び込んできたのは、大きく崩れた。そしてだった。

 古めの壁、天井。そして隅へと押しのけられている家具――。


「「「……」」」


 今日はよく固まる3人ドアを開けたまま目をぱちぱちとしている。


 今3人が見ている光景は、悠宇の家の裏口から室内へと入った状況だった。

 しかし悠宇の家の裏口は基本使われていなかった。

 何故なら昔から建て付けが悪く。開けると閉まらなくなってしまうからと、悠宇の爺ちゃんが昔に封印した場所だったからだ。


『開けたら最後。家が崩壊するかもしれないからな。触れるでないぞ』


 とか言うことを悠宇の爺ちゃんが過去によく言っていたりする。

 また裏口がある場所の近くにももちろん鉄道模型のレイアウトが広がっているため。もしドアを開けて閉まらなくなると、模型が雨風にさらされる可能性があり。悠宇も爺ちゃんから家を譲り受けた後も一度も開けたことがない場所だった。


「――ここ悠宇先輩の家?」


 少し戸惑いながら。そして室内を見つつ海楓が悠宇に確認する。


「見た感じは――裏口のところだな。爺ちゃんが作った模型の――なんか龍とかが模型の中に居る空想世界みたいな場所のところ――だな。多分」

「私たち戻って来た?」


 3人は顔だけ室内。悠宇の家へと突っ込みながらあたりを見渡す。


「悠宇先輩の家の香りですね」


 すると、悠宇の背中からスンスンという音が聞こえて来た。


「ちかの判断基準がおかしい気がするが――でもいい。とりあえず――入れそうだな」

「――はい。今のところ壁とかはないです」

「あっ。そういえばこのいつの間にか履いていた靴――は。そのまま履いたまま入れるね」


 悠宇の室内へと入りながらそれぞれが確認をする。

 そして完全に悠宇の家へと3人が入る。なお、振り向けばまだ後ろ。本来なら外に出るはずのドアの向こうは駅舎の中が見えている。不思議なことが起きている。


「どうなってるんだよ。ここ本当に俺の家か?」

「一応――さっきまで居たところにも行け――あれ?」


 すると、くるりと向きを変えた海楓が驚きの声を上げたため悠宇が振り向く。悠宇の背中に乗ったままのちかも自然と海楓の方を見ると――。


「「えっ?」」

「これ何?一方通行なの?」


 悠宇とちかが見た光景は海楓が先ほどまで居た場所へと手を延ばすと何もないはずのところ。境界線のところで見えない壁があるみたいで、海楓の手が弾かれていた。

 

「おいおい、俺の家でも不思議な現象か?今通れたじゃん」

「ダメ。何か壁がある」


 コンコンと、海楓が見えない壁を叩きながら言う。すると――見えていたはずの駅舎の光景が歪んだ。


「「「なっ」」」


 もちろんその光景を目の当たりにした3人はまたまた固まる。

 そして3人が固まっている間に駅舎の光景は見えなくなり――普通に悠宇の家の裏。あまり手入れが出来ていない庭に変わったのだった。

 先ほどは室内だったので見えなかったが。空。夕焼け空も見えるようになった。

 再度恐る恐る悠宇が手を伸ばすと――普通に手は外へと出た。


「――なんかもういろいろ起こりすぎだ」

「一応――ドア閉めとく?」

「まあ閉まるかの確認だな」


 海楓が驚きつつもドアを閉めると――特に問題なくドアは閉まった。引っかかることもなく。ガチャと。素直にしまった。

 そしてすぐに海楓がドアを開けてみると――これまた普通にドアは開き。当たり前の光景。悠宇の家の外が見えた。


「どうやら、悠宇はお爺ちゃんに騙されていたのかもね。このドア普通に開くみたいだし」

「だな――俺も普段からここは開けれないで触らなかったからな」

「――ってか、私たちって相当な時間さきほどのところに居ませんでした?」

「「あっ」」


 悠宇と海楓が話していると、ふとちかがつぶやく。

 そしてその言葉により悠宇と海楓もはっとした。

 特に悠宇は体感的には数十時間向こう。先ほどのところに居た感覚があったため。今は何日の何時だ――などと思いつつそのまま悠宇たちは日時の確認をするため細い廊下を抜け。玄関の方へと移動した。


「あっ。私たちが来た時のままだ」


 特に悠宇の家の玄関。そして玄関からすぐの部屋の様子は変わったところはなかった。玄関近くにはいつも通り悠宇の荷物があり。玄関から入った部屋には、海楓とちかの荷物があった。


「俺の荷物も――そのままって、今何日だ?時間は夕方みたいだが――」

「えっと――」


 悠宇がつぶやくと、海楓が自分の荷物を漁りスマホを確認すると――。


「あれ?」

「どうした?」

「いや、私とちかちゃんが悠宇の家に来てから――そんなに時間経ってない?」

「……へっ?」


 海楓の答えに間抜けな声を漏らす悠宇。それもそのはず。悠宇は一応自分が相当長い間先ほどの空間。場所に居たことを脳が覚えているからだ。だから時間がほとんどなっていないということを理解するのには少し時間がかかった。


「海楓先輩。まさかですが翌日だったり――するんじゃ……?」


 またちかも悠宇と同じく時間が過ぎていたと思っていたらしく。海楓にすぐ確認していた。


「それもないよ?ちゃんと今日」


 スマホの画面を悠宇とちかにも見せる海楓。

 それを確認し不思議な顔をする悠宇とちか。


「――どうなってるんだよ」

「えっと。つまり先ほどまで私たちが居た場所は――夢?」

「いや、夢にしては――だな。はっきり覚えているというか――」

「じゃあ……さっき私たちが居た場所は時間の流れが遅い――こっちの世界の1時間が向こうでは1日とか――?」

「あーなるほど、海楓の言う可能性はあるかもな。わからんが」

「でも私たちの身体はちゃんと数時間体験したというか――うん?どうなっているんですか?」

「うーん……もしかして、タイムマシン?みたいなものなのかな?実は向こうの世界に行ったけど――戻ってくると、出発した時間――って感じの。ちょっとズレていたけど」

「それだと俺たちが向こうの世界にもし数か月単位で行っていたら――見た目が変わっていた可能性があるってことか?」

「なんかそう考えると、私たちだけ年を取るというか――もし向こうにもっと長くいたら同級生より年を取ったことになった――いや、今でも少しだけ先に進んだような……?」


 それぞれが考えながら話す。 

 もちろん3人ともどれが正しいことなのかわからないが。とりあえず思いついたことを話していた。


「とにかく不思議な体験だった?あっ。そうそう。悠宇もこれに触ったの?」


 自分たちの身体に何が起こったのかははっきりとはわからなかった3人だが。ふと周りを見ていた海楓が唯一無事だった鉄道模型の場所へと向かい。その場所に止まっていた漆黒の蒸気機関車。先ほど悠宇たちが実物大。とも思えるものを見たその車両に近寄り。確認するかのように海楓が指をさして――蒸気機関車の屋根に指が触れそうになった瞬間。


 ――シュッ。


「「――えっ」」


 悠宇とちかの目の前から海楓の姿がなくなった。というか消えた。

 1秒も経過しない。ほんと一瞬でその場には誰もいなかったような状況となった。


「――悠宇先輩。マジックですか?」


 少ししてちかが小さな声で先ほどまで海楓が居た場所を見つつつぶやいた。


「いやいや、海楓が勝手に1人でマジック――って、もしかしなくてもあの蒸気機関車が何かのトリガー。引き金になっているということか?」

「触れようとすると――どこかに飛ばされる――?」

「もしかすると、海楓はまたさっきの場所に行ったか?」

「もし違う場所だったら?」

「……それだとやばいな。」


 海楓がどこに行ったのかわからない2人。この後どうすれば――と、ちょっと心配しながらそんなことを思っているとだった。


 ガチャ。


 裏口の方でドアの開く音がして、すぐに足音が悠宇たちの方へとトタトタと近寄って来たのだった。

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