第26話 行き来

 キュィンキュィンキュィン……。


 非常ボタンを押したら警報音がけたたましく鳴り響いた。

 ということがある場合もあるだろう。

 しかし現在悠宇たちの目の前ではほぼ騒音なく。一瞬にしてボロボロだった建物がピカピカの建物へと変わっていた。

 まるで今しがた完成したと言わんばかりの木の良い香りが3人の鼻にも届いている。そして歓声が上がってもよい状態だったが。

 

「「「――」」」


 しかし目の前で唐突に起きた――魔法とでも言えそうな現象に3人は口を半開きにして未だ固まっていた。正しい反応と言えば正しい反応である。

 ちなみに軽いノリで躊躇なくボタンを押した海楓もさすがに一瞬の出来事に目を点にして固まっている。

 3人の前に現れた建物は木造平屋建て。先ほどまではすべてが朽ちていたが。今では建物内には椅子。机。窓口。駅員室がしっかりとあり。駅の出入り口にもドア。そしてホームへと続く改札。改札のところには人1人くらいが中に立てる長方形の囲いのようなものが木で作られていた。そして入り口から改札の方へと新鮮な空気も流れている。すべてが真新しい状態となっていた。


 また先ほどまでは一部しかなかったホームもしっかりとその姿を現した。15メートルくらいの車両3両が止まれるくらいの長さがある。そして等間隔に木製の簡易的なベンチも出来上がっていた。屋根は駅舎のところだけあり。前後はない。

 ちなみにホームが何で出来ているかというと。長方形にカットされた石が綺麗に並べられて出来ている。石垣のように隙間なく積まれていて上に多くの人が乗ってもびくともしないだろう。

 駅舎に接していた線路も綺麗になったことで、蒸気機関車の止まっていた前の方は悠宇の能力により綺麗になっていっていたが。後ろは錆びた線路のままだったのが綺麗な線路となり。さらに駅を過ぎたところには真新しい車止めが出来ていた。


「――海楓。何したんだよ」


 しばらく固まっていた悠宇たちだったが。悠宇が声を発したことでなた時が動き出した


「ボタン押しただけなんだけどねー」


 あははーと、まださすがに驚きを隠せていない海楓が答える。


「一瞬で生まれかわりましたけど――」


 悠宇に捕まったままちかもつぶやく。


「俺たちまた瞬間移動させられたんじゃないよな?」

「一応――それはないと思うけど」

「私も今は飛んだ。動いた感じはしなかったです」

「なんかいろいろ起こる場所だな?って、中もめっちゃ綺麗だな」

「これなら住めそうですね」

「駅舎に住むのか。ちかよ」

「いや、だってこのまわりここしか建物ないですし」

「まあそりゃそうだが――」

「あっ、悠宇、ちかちゃん窓口の中すごいよ。ちゃんと駅の改札見たいに道具もある」


 すると改札のところから駅員室らしきところを海楓が覗き込みながら言った。


「うわー本当にここ駅だったんですね――って、ちょちょ、先輩方。ここにまたスイッチってか明らかに――怪しいものがあるんですけど」

「うん?」

「怪しいもの?」


 海楓が中を覗き込んでいる間に、ちかが建物内へと入って悠宇たちを呼んだ。

 そして悠宇と海楓も建物内へと入ると駅員室へと入るドアも出来ていたのだがそのドアの壁に新しいものが出来ていた。

 ちょうど悠宇たちの視線の高さに上下に動かせるレバーのようなものが出来ており。そのレバーの上にこのような文字が書かれていた。


『異世界へはレバーを下げろ』


「「「……」」」


 何をどう見ても明らかに怪しいため。また3人は固まったのだった。


「異世界ね」


 唸りながらまず悠宇がつぶやくとその流れでちかと海楓も口を開いた。もちろん3人とも首を傾げつつだ。


「何気に下げろって命令されているような……」

「今は上にレバーがあるから――下にすれば何か変わるってことだよね――多分」

「ああ。でも異世界か。ここが異世界じゃないのか?」


 今自分たちが居る場所がどこかわからなかった悠宇たちは。多分ここは異世界なのだろう――と、口には出していなかったが。そんなことを思っていた。そしたらだ。異世界へは。という文字。つまりここは――異世界ではないのか?と、さらに考えることになってしまっていた。


「もしかすると――ここが現実世界。私たちが普通に生活していた場所――でもさっき魔法みたいな光景見たからね」

「ですよねー。一瞬で駅ができましたし」

「でも、異世界へ――って、書いてあるっていうことは、もしかしたら私たちが居た場所。それこそが異世界――?」

「えっ?どういうことですか?海楓先輩。私たちが住んでいたところが異世界?」

「えっと――なんて言えばいいかな?あっそうそう、今私たちが居るこの場所。世界としようか」

「はい」

「ここに住んでいて、たとえば――魔法が使えるのが当たり前の環境に居た人が。私たちの居た世界。魔法がない世界に行ったら?」

「まあ――驚きますよね。なんで魔法が使えないの!?って」

「でしょ。だからここに住んでいる人から見れば私たちが居た場所は異世界」

「――あー、なるほど」

「でも、そのパターンもあるけど――もしかすると」

「もしかすると?」

「私たちが居た世界をAとすると」

「はい」

「この場所がB」

「はい」

「でもこのレバーを下にすると――C世界につながる。または移動する」

「――それもうごちゃごちゃ――というか。異世界旅行と言いますか」

「まあとりあえず異世界がどこを指すかがわからないね。悠宇わかる?」


 少しの間女性陣のみで話していたので、海楓がレバーを見ている悠宇に話をふった。


「海楓の話はなんとなく分かったが――この書かれている異世界がね。どこを指すかはわからん」


 一応ちゃんと話を聞いていた悠宇はすぐに反応し答えたが――行動はできなかった。


「これだと、レバーを下にすると、異世界に行くことに――って感じですよね?」


 考えながらレバーを見る悠宇の隣にちかが移動して同じようにレバーを見上げる。


「悠宇。ちかちゃんここはぽちっとしとく?」

「いやいや、海楓。さすがにさっきはたまたま俺たちこうやって会えたが。バラバラになったらどうするよ」

「そうなったら悠宇が異世界を冒険して私たちを探してくれるんでしょ?」

「なんか物語になりそうなことを勝手に言うな」

「でも確かに今3人で居るのも奇跡かもですし――変には触れないですね。ってか、レバーを下げた瞬間何か起こるのか。下げたら何か起こるのか――それすらわかりませんし」

「じゃ、こういう時は3人でレバーを下げようか」


 一応海楓も考えてはいる様子。しかし他の2人よりかは楽観的なのか。はたまた単に楽しんでいるだけなのか。すぐにそんな提案をした。


「――それに意味があるのか」

「あるんじゃない?わかんないけど」

「おいおい」

「でも悠宇。試せることはしないと。明らかに隠されていたんだから」

「まあ――じゃあやってみるか」

「ちょちょ」


 海楓の提案に悠宇が乗るとすぐに挙手をしてちかが2人にアピールをする。


「どうした?」

「あっ、いや、一緒に下げるというのは賛成なんですが――」

「なんですが?」


 何やら言いにくそうにするちか。悠宇は始めちかが何を思っているのかわからなかったが――すぐにピンときた。


 今悠宇たちが見ていたレバー。実はそこそこ高い場所にある。悠宇の身長ならまあ問題ない高さだが。海楓の身長で背伸びをして――という高さ。つまり海楓より背の低いちか。背伸びしても届かない。そしてこの場には踏み台などはない。


「あー、そうか。ちかはかわいいからな」

「――チビと言わなかっただけマシなんですが――なんか馬鹿にされているような――」

「いやいや、小さくてかわいいって言っているだけだ」

「言った!チビ言った!」

「小さくて――って言ったんだが」

「同じです!」

「えー」

「悠宇はロリコンの疑い――いや、確定してるかー」


 悠宇とちかのやり取りを聞きながらくすくすと笑う海楓。


「おいこら。海楓。勝手に人の評価を下げるような事言うな」

「今自分で小さい子好き言ったじゃん」

「小さくてかわいいって、ちかを褒めたんだが!?」

「それ誉め言葉じゃないですから!」


 突如として両サイドから攻撃?を受ける悠宇。

 場的には――和んでいると言っていいだろう。見知らぬ土地に居てもやはりいつも通りの3人である。


「はいはい。じゃあちか、背中乗れそれで届くだろ」

「あっ。はい」


 すると悠宇が面倒な話になって来たのを断ち切るためにちかの前にしゃがむ。するとちかはとくに戸惑うことなく。悠宇の肩に手をあってそのまま悠宇の背中に乗った。ちかが乗ると悠宇が立ち上がる。これでちかも一応レバーには届くようになった。


「サラッといちゃつく。悠宇とちかちゃんだったとさ」

「海楓。変なまとめ方をするなあと、とっととレバー下げるぞ」

「はいはーい」


 悠宇とちかがレバーに手を触れるとすぐに海楓もレバーに触れる。


「じゅあ。さくっと下ろそうか」

「ちょ」

「海楓先――」


 するとそれと同時に海楓が手に力を入れたのか。悠宇とちかは殆どレバーに触れているだけで『ガチャン』と、レバーが下に下りたのだった。

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