第31話 第2回。触ってみる

 悠宇たち3人が不思議な経験をしてからまた数日。

 今日は学校が休みのため悠宇の家に、朝からちかと海楓がやって来ていた。


「――お早いことで」


 訂正。寝ていた悠宇を起こしにちかと海楓がやって来たのだった。

 今悠宇は寝起きの姿で玄関の前に立っていた2人に挨拶をしたところである。

 また、現在朝の7時前だったりする。


「おはようございます」

「おはよー。悠宇まだ寝てたの?今日は行くって言ったじゃん」

「なんで休みの日に早く起きないとなんだよ――普通もう少し遅い時間と思うだろ」


 首を回したりしつつ答える悠宇はまだ眠そうである。

 ちなみに昨日の悠宇は帰宅した後ずっと夜中まで鉄道模型の修理。主に状況確認をまずしていた。

 直すにしても何が必要なのかなどなどまずは確認しないとだったためだ。

 そして被害は相当大きかったことが分かったのと――でももしかすると、。ということがわかり。その後寝たのだった。


「どのくらい時間がかかるかわからないからね。早く行動しないと」

「そうですよ。先輩。またどこかに飛ばされたら――ですから」

「心配しているのか楽しみなのか――ってか、2人ともがなんか旅行でも行くみたいな雰囲気なのは気のせいか?」

 

 寝ぼけながら2人の姿を確認する悠宇。今日のちかと海楓はそれぞれ長袖長ズボン。おしゃれと言うより動きやすいに舵をきっている服装だ。山登りの服装というとわかりやすいかもしれない。そして両手が使えるようになのか。それぞれが小さめのリュックで悠宇の家に来ていた。


「何があるかわかりませんからね」

「まあいいか。とりあえず着替えたいから――ちょっと待っててくれ。洗面所にでも行ってくる」


 いつものことだが悠宇の家で客人が待機する部屋はない。あると言えば玄関だけ。なお、ちかと海楓に関しては悠宇の家は慣れているので、悠宇が待っていてくれと言えば普通に靴を脱いで鉄道模型が広がっている部屋へと入っていく。

 ささっと悠宇が着替えてくると、もうちかと海楓は準備万端だった。


「じゃ、悠宇行こうか」

「行きましょう。悠宇先輩」


 ちかと海楓はあれ以来ずっとそのまま同じ場所に置かれている漆黒の蒸気機関車のところでスタンバイしていた。


 ちなみに悠宇はこの漆黒の蒸気機関車。爺ちゃんのお気に入りの車両は触るとどこかにぶっ飛ばされる可能性がかなり高いためここ数日は触れていなかった。

 本当なら鉄道模型はコントローラーで線路にさえ乗っていれば動かすことができるが。現在悠宇たちの目の前に広がっている鉄道模型のジオラマは一部を除いてボロボロ。荒れ果てた――戦いでも起きたような状態のため。どこかで電気の線もやられているのだろう。電源が入らないのだ。そのためすべてがあの日のまま――。


「あー、そうそう、その前に2人とも気が付いたことないか?」

「はい?」

「うん?何に?」


 悠宇は危うく忘れかけていたことを2人に近寄る際に思い出し。鉄道模型のレイアウトの方を見つつ2人に聞いた。

 悠宇に声をかけられたちかと海楓はそれぞれレイアウトの方を見る。しかし2人は首を傾げるだけだった。


「まあわからないか」

「悠宇先輩。もったいぶってないで言ってください。なんですか?」

「いやさ、これ勝手に模型が直っているんだよ」

「「――はっ?」」

「お前は何言ってるんだ。みたいな表情でこっち見るな」


 実際今のちかと海楓は『何言ってるの?』という表情で悠宇を見ている。


「いや、どう見てもボロボロのまま――」

「――あっ、もしかしてここ?」


 ちかの方は『何をおかしなことを言っているんですか』という感じでレイアウトを再度見た。すると、同じく再度レイアウトを見た海楓は気が付いた。そしてちょうど蒸気機関車が止まっている線路の先を指さした。


「そうそう、少しだけでよ。なんか勝手に線路が直ってる。というか。線路と共に周りの光景も」

「なんで?」

「さあ?」

「えっ?ちょ、どれ?どこですか?私わからないんですけど――」

「おチビちゃんにはわからないか」

「そこ!」


 いつもの通り悠宇がちかをいじるとちかのパンチが悠宇に向かうが――簡単に悠宇はそのパンチを捕まえる。そして、海楓の方を見て話しを続けた。


「とりあえず理由はわからんが――もしかすると」

「あっ、もしかして悠宇の向こうでのスキル?能力であの世界で線路を延ばしているのがこれにも反映されているって事?」


 悠宇が考えていたことを話そうとしていると、さすがというべきなのだろう。海楓が悠宇の言いたかったことを言って見せたのだった。

 現状、よく見ないと確かにわからない程度であるが。でも悠宇たちの目の前に広がっている鉄道模型。少しだけ直っている。

 何故直った方は――わからない。でも悠宇も海楓が思ったことを同じことを思っていた。


「ちょっと。離してー先輩」

 

 ちなみにちかは捕まっており。話には入らず。逃げようと――しているのかは謎だったが。とりあえず『離してー』と言いつつもあまり逃げる素振りは見せていなかった。逃げたいなら悠宇を蹴とばすやらやら行動はできるはずだが――。


「まあはっきりとはわからないが。もしもう1回行けたらまず線路を確認しようと思う」

「了解ー」


 結局ちかはそのまま2人の会話には入らないまま話は決まり――蒸気機関車の方へと悠宇に捕まったまま向かって行くのだった。

 そして悠宇と海楓が蒸気機関車に触れようとしたとき。何とか悠宇に捕まったままのちかも手を伸ばし――3人の姿はまた消えたのだった。


 ★


「やっぱり来れたな」


 蒸気機関車に触れようとした次の瞬間。悠宇の目の前の光景は少し前に見たどこかわからない土地の杜若という駅の前だった。どうやら蒸気機関車に触れようとすると、毎回同じこの杜若の駅前に飛ばされるで確定らしい。


「だねー。私は3回目」


 1回目悠宇の家に帰った際。再度手を近づけた海楓に関しては3回目。そして海楓の話からも毎回同じところに飛ばされることがわかる。


「そういや海楓は勝手に2回目行っていたな」

「一瞬だけね」

「なんか知らないうちにというか先輩に捕まっていたら杜若――?でしたっけ?また来ましたよ」


 ちかに関しては出発前話に入れていなかったが。何とか自分の状況を理解したという感じだった。ちなみにまだ悠宇に捕まっている。


「線路は――延びたな」


 駅の方を見た悠宇は次に線路の方を見たが――この前は線路がうまれているところが見えたが。今はもう全くわからない。

 しかし線路はかなり延びているみたいで終わりは今のところ見えない。高いところに登れば見えるかもしれないが。このあたりには高いところがないため。現在線路がどこまで延びているかはわからない。


「すごいね。悠宇がいなくても伸び続けるのは確定だね」

「ほんとだよ。っか、これ――よくよく考えたら歩いて行かないとだめなのか?」

「うわー、ダルそう」

「行ったら行ったでここまで帰って来ないとだからな」

「あのー。悠宇先輩」

「あっ。ちかのこと忘れてた」

「腕掴んどいて忘れないでくださいよ」

「ちかはもう俺の身体の一部となったらしい」

「変な事言ってないで――って、悠宇先輩の一部――って、それはおいておいて、SLもう1回見てみてはどうですか?もしかすると線路が延びたら使えるとか――?」

「あー。なるほど何か条件で動くとかか。まあ――いつでも動けますと、今日も煙は出ているが――」

「ですね」

「そういえば前も煙は出ていたよね。動かないけど」

「ハンドルとかあればな。試せるのに――まあとりあえず見に行くか」

「ちょ。なんで私まだ捕まってるんですか?」

「なんとなく迷子にならないように?」

「子ども扱いするな!」


 あーだこーだ言いながら悠宇とちかが歩き出す。


「――模型と同じ機関車――ね」


 その2人の後ろでは何やらつぶやく海楓だった。

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