第32話 こんなことが起きていた ◆
悠宇の線路を作るという能力は悠宇がいなくなった後もちゃんと正常に働いていた。
誰も線路を作っている人が居ないのに――その場に線路が生まれていく。
正確に言うと、バラスト。砂利と枕木。そして線路が着実に現れ。少しずつ全長を延ばしていた。
この悠宇の能力。ちゃんと障害物。樹木。岩。崖などはちゃんと避けており。どうしても渡らなければいけない場所。川。崖のところに関しては鉄橋までちゃんと作りながら進んでいた。
また今のところは一本道の線路。分岐点などはなく。杜若という場所から延びていた。そして途中の駅などもなく。また標識などもないため。本当に何もない草原に真新しい線路が生まれているという状況だった。
そのためそんな光景をもし見かけた人でもいれば――。
★
とあるところに、つるはしを担いだ男性が歩いていた。
町から数キロ歩き。山を目指していた。男性のお目当ては山で取れる鉱物である。自分の住んでいる町の近くの山の鉱物はすでに取りつくされてしまい。十分な量を確保できないため。わざわざ遠くの山へと定期的に出向いていた。
本当は馬車などがあれば移動も楽だが。男性の町はすでに廃町寸前。
そしてそんなところに若い人はすでにおらず。残っているのはほとんどが高齢の人々だけであり。また町に資源があるわけでもなく。近くの町ともつながりがなかったため財源。簡単に言えば物もお金もほとんどなかった。
それでも町は国に対して税を納めなければいけない。こんな辺鄙な場所でも取れるものは取りに毎年都市から人が来る。とくにあの出来事があってからさらに生活は厳しくなってた。なので今生きている人はこのように遠方の山へと出向く必要があったのだった。
ちなみにこの男性が今住んでいる町では若いほうになるため。鉱物を取りに向かっていた。
「――――――――なんじゃこりゃぁぁぁ!?!?!?!?!?!?」
そんな男性はいつも通り山へと向かっている途中――腰を抜かしていた。それはそれは全身ガクガクブルブルである。そして男性は見てはいけないものを見たような表情をしていた。
ちなみにこの国の人々。この男性たちもそれぞれ能力というのはある。
あるが――特別な能力を持っていれば国が欲しがるもの。
辺鄙なところに残された人の持っている能力は日常の生活でちょっと使えるような(小さな火を手元に起こしたりのレベル)平凡な能力だけである。
そんな国だが。線路を作る。ないものをその場に表せる。という能力は未知の能力。見たことのない能力だったりする。
そもそも線路は作ることができるだろう。鍛冶師の人などが時間をかければ作れる。枕木も大工の人が時間をかければ、木々を集めてきてたくさん作れる。
砂利に関しても大きな岩を爆破していけば作れるだろう。
しかし。その場にそのすべてをゆっくりでも表すことができるという能力はこの世界では普通はない能力だったりする。
また、余談だが物をお金に変換できる能力などもあるはずのない能力だったりする――。
ざっくり言えば、悠宇とちかの発見した自身の能力はバグっているのである。
そもそも何故2人がそんな能力を持っているのか――であるが。今はまだ誰もわからない事だ。
話を戻し。唐突に線路が生まれる瞬間を見た男性はと言うと、その後は這いつくばるように自身の町へと帰ったのだった。
そして男性が住む場所では、男性が悪夢でも見たかのような表情で帰ってきたことにより。大騒ぎになったのだった。
ちなみに、大騒ぎになった町は、杜若と言われる場所から南の方に数十キロ進んだところにあった小さな町。
そこは『実りの町』と呼ばれている超高齢化の進んだ元豊かな町だった。
その土地に悠宇の能力により線路が到達するまであと少し。
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