第59話 本当の光

 シェアトのわがままが始まりしばらく。

 結果として急にわがまま姫になったシェアトを止めれる人は居なかった。


「ってことで、わたしは悠宇たちに付いてドーナツ食べてくるわ」


 というかガチでドーナツが食べたいだけのシェアトだったりする。


「シェアトだかな」

「行くから」

「シェアト様――」


 シェアトが再度宣言する中。ガクやコールが何とか思いとどまらせようとするが――無理である。


 なお、先に言っておく。シェアトの決定を変えれる力のあるものはこの場にはいない。


「――ねえねえ悠宇。ドーナツ食べに行くことになっているってか――確か。もとは町の人が私たちにお礼の宴――に参加とかじゃなかった?あれ?違った?なんか悠宇が主人公になりそうな雰囲気になってて楽しんでたらちゃんと話聞いてなかったかも」

「何が起こっているのか俺にはわからん」

「あっ、悠宇が諦めた」

 

 シェアトたちが言い合っていると、海楓が悠宇に声をかけていた。

 悠宇たちはもう完全に巻き込まれており。本当は時間的にそろそろ自分たちの住んでいるところに帰りたいと思っていたのだが――それはまだしばらく無理そうだった。

 というかもし帰れる流れになってもそれにシェアトが付いてくる可能性が大変高く。悠宇たちはそれはそれでどうするべきか判断するときが近づいて――いや、判断する必要はないだろう。再度となるがシェアトの決定を変えれる力のあるものはこの場にはいない。シェアトが付いてくる前提で考える必要があるだろう。


「私以外の人は悠宇たちからドーナツもらったんだから私も欲しい。食べたい!」


 シェアトはもうドーナツに頼らないと悠宇たちと一緒に居ることができない。外に出ることができないと思っており必死だった。


 ドーナツ1つで本当に起きな事が起きようとしていた。

 まあそのきっかけを作ったのは……。


「ねえねえこの騒動ってさ。結局ちかちゃんがドーナツ持っていたことで始まったんだよね?」


 ……ちかになるのだろうか?うん?


「――はい?」


 とにかく。海楓がふとちかを見つつそんなことをつぶやいた。

 急に名前を出されたちかは少しあたふたしていた。

 どうやらちかはちかでシェアトの言動を見ていたので、悠宇たちの話は半分くらいしか聞いてなかったらしい。


「もちろんちかちゃんが悪い――ってことではないけどさ。もしかして、ちかちゃんが主人公説?」

「――へっ?」


 唐突な海楓のつぶやきにちかは間抜けな声を出した。

 その2人の話を聞いていた悠宇もため息をつく。


「はぁ……あのな海楓。お前めっちゃ今楽しんでるだろ?」

「イエス!」


 花の咲いたようないい笑顔の海楓。

 何故に今――だったりするが。基本素のときの海楓はこんな感じである。

 すでにこの場も慣れてきたということだ。


「――ちか、こういうやつは見捨てていいぞ」

「あ、はい」


 1人いつも通りになった海楓を軽く見捨てる悠宇とちか。これももういつも通りの流れである。


「酷い。2人が酷い」

「素の海楓が駄々洩れ――ってか、どっちかのキャラにしてくれよ」

「どっちも私だし」


 確かにそのとおりである。どっちも海楓である。


「何言ってるんだか。って、アホな事言ってないで、海楓も俺たちが帰れる口実考えてくれよ。これマジで時間がちゃんとわからないから何も言えないが。下手したら夜とか日付変わってるぞ?」

「それもあるけどさ。こんな経験そうできることじゃないというか。悠宇。ちかちゃん。楽しんだ者勝ちだよ」

「「……」」


 海楓が変なテンションになっている。

 いや、すでにずっとおかしかったか。と、悠宇とちかは顔を見つつ心の中でやり取り。海楓の相手をすればするほどおかしな方向に行きそうだったので――。


「やっぱ海楓の意見は無――」


 無視して、2人で考え何とかしよう。的なことを悠宇が言おうとすると。タタッと悠宇たちのところに足音が近づいてきた。


「悠宇。私の婚約者ってことでみんなの前で発表よ!」

「――――へっ?」


 急に近寄って来たシェアトが悠宇の腕に捕まる。どうやらガクたちと話していてもら埒が明かないと判断した様子だ。強硬策に出ようとしているらしい。


「シェアト。一度落ち着かんか」

「悠宇。私の命預けたわ」


 ガクがシェアトに声をかけるがシェアトは聞こえないふりをする。


「軽くそんな事言わないでくれますか!?」

「悠宇たちなら大丈夫と私の直感が言ってるわ」

「マジやめて!」


 悠宇のかなりガチな悲鳴――なのだが……。


「悠宇。楽しそう」


 海楓にはあまり伝っていなかった。


「海楓先輩。そんな事じゃなくて、私たちも止めに入らないとこれマジで大変なことになりそうな気がしますよ?それに――あれは――です」


 ちかも一応焦っているのだが。ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ。楽しくなってきていたりする。まあ悠宇に密着するシェアトという光景で考えがおかしくなりつつもあるのだが……というか、帰れないということより。悠宇にシェアトが近いことがちかを焦らせていた。。


「あっ。悠宇を取りあう関係が増えるって事?大丈夫だよ。だって悠宇ってそもそ――」

「そ、そうじゃなくてですね!?」


 すると、即余計なことは察する海楓がちかに話しかけたのだが。ちかは何ともない素振りをした――したが。まあバレバレである。が、とりあえず必死に海楓を止めるちかだが――。


「えっ?違うの?3人が悠宇の取り合いをしつつ冒険するって感じになるんじゃない?」


 もちろん海楓には効果なしだが。


「何を勝手に物語作ろうとしてるんですか。海楓先輩。って、本当に楽しんでますよね!?明らかに私たちあまり関わらない方がいい部外者ですよ?」

「――そうとも限らないと思うけどなー」

「いやいや――って、あれ?3人が悠宇先輩を取り合う?うん――?海楓先輩と悠宇先輩は姉弟――の噂……あれ?うん!?」


 すると海楓と話していたちかがふと。海楓の発言に引っかかりを覚えたが――。


「悠宇。行きましょう。私を連れだして!ほらっ」

「いやいやいや!待って!?」

「シェアト!待たんか」

「ちょ、シェアト様。本当にダメですよ!外はまだ何が起こるか!特に今は皆さん集まっている見たい――」

「あっ。ちかちゃん悠宇が攫われた」


 ちかがつぶやくと同時にシェアトが悠宇の腕を掴んだまま。ドアの方へと小走りで向かう。室内で引きこもっているような生活をしていたシェアトだったが。実はちゃんと身体を動かしていたため。少しくらい走るなど。全く問題なく。また服装がドレスだが。そんなのも関係なくシェアトは走った。


 シェアトの求めているのは連れ出してもらいたい――だったが。

 完全に今の光景はシェアトが悠宇を連れ出した――だが。とりあえずそれはいいらしい。

 ちなみにこの場に来てから基本ドアなどはすべてコールが開けたりしていたが。わがまま姫となったシェアトはそのままドアを自分で開け。悠宇を引っ張り。久しぶりに。ほんと久しぶりに狭い通路をかけていく。


「痛い。痛いんですけど!シェアトー」


 後ろからは悠宇の悲鳴。


「早く早く。連れ出す――うん?これだと駆け落ち?ってまあ、脱出?するときってこんなんじゃないの?」

「なんか違う――いや、なんかもうわからないですけど!とりあえずこの通路狭いから無理に引っ張らな――げふっ」

「あっ。ごめん。でも追いつかれてもだから」


 シェアトに引っ張られる悠宇。通路が狭いため引っ張られながら進む悠宇は何度か壁に身体をぶつけつつ――シェアトと共に通路を抜け――初めの部屋へ。そして何やら楽しそうな声が聞こえている外へと続くドアをシェアトが勢いよく開けた。


 バンッ!


「「「「「「「――?」」」」」」」

「――えっ?」

「――――うん?えっ――っと、な。なんだこれ――?」


 シェアトがドアを開けるとそこはもちろんだが実りの町の中。

 なので町の人が居てもおかしくない。

 誰かしら歩いていたりしても問題ない。シェアト自身も飛び出せばだれか数人くらいには姿を見られるだろう。でもそれくらいなら別になんとでも言えると思っていたが。

 今ドアを開け。久しぶりに。ほんと久しぶりに地上へと飛び出したシェアトの前に広がっていた光景は。多くの実りの町の人(お爺ちゃんお婆ちゃんばかり)が集まり宴の準備をしているところだった。

 簡易的な机といすを集めてきて、村にあるもので最大限のもてなし。お礼をしようと準備をしていた。

 そんな中で、シェアトがドアを開けた。 

 すると、寸前までは町の人が慌ただしく宴の準備をしていたのだが。突然開いたドアの音に皆がそちらを見て。さらにさらに、そのドアを開けて出てきたのが――この町では珍しい若い人。さらにドレスに着替えていたお姫様のような人が現れたらそれはそれは一気に嫌でも注目を集める。

 また悠宇もすでに顔が知られているため。その場に悠宇もいれば注目度はさらに増す。そして極めつけだったのは――。


「シェアト!なにしとるんだ!」


 追いかけてきたガクの声だった。


 昔から町の人に慕われていたシェアト。みんなの癒しだったシェアト。しかし大炎上が起き。国がバラバラになってしまった今では、この町には元国王とその側近だけが居て何とか町としてだけ維持出来ていた。

 大炎上以降シェアトがどうなったのか多くの人は知らなかった。

 そんな中でシェアトと叫ぶガクの声と――目の前に唐突に現れたドレスを着た美少女。

 そして、今のシェアトは悠宇たちに『ドーナツをもらう』ということで頭がいっぱいで、ドーナツのために逃走。勝手に脱出?駆け落ち?などと言い。それはそれは生き生きしており、輝かんばかりの良い笑顔をしていたので、町の人の昔の記憶を掘り起こすには十分だった。


「――シェアト様なのか?」

「「「「「「「「「「……おおおおおぉぉぉ!!!!!!」」」」」」」」」」


 どこかで1人の町の人がつぶやくと。沈黙のち。どこからとなく驚きの声があがりだしたその次の瞬間にはすぐ大歓声のような地響きが発生。

 町中の人がシェアトの前へと駆け寄り無事を喜ぶことになったのだった。

 ちなみに何度でも言うがこの町には高齢の人ばかりである。

 しかし今シェアトの目に集まりだした人々は、見た目高齢者だが。それはそれはライブに参加した若者のように大喜び。跳ねまわり。近くに居た者と抱き合ったり。または地面に崩れ大泣きする者と様々な感情を大爆発させているのだった。


 そんな光景を見たシェアト。まさかの事態に先ほどまでの悠宇を振り回していた活発さは完全になくなり。その場で呆然とするのだった。

 完全にシェアトの予想外の事が起きたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る