第55話 時間
ふと自分たちがこの町にやって来てから、そこそこの時間が経っていると思い出した悠宇たち。
今悠宇たちの前では、まだシェアトとコールがドーナツが来た際の分配について話しているが。そんな2人は置いておき。悠宇は呆れていたガクに声をかけた。
「あの――ガクさん?」
「――うん?ああなんじゃ」
多分シェアト。お姫様の様子に呆れていたであろうガクはワンテンポ遅れて悠宇の声に反応した。
ちなみにシェアトとコールは反応せずまだ話している。
「あの――今の時間とかってわかりますか?」
悠宇はガクに聞きながらこちらの人々が時計を持っている雰囲気がなく。そもそも今まで時計自体を見たことがなかったので、時間というものがあるのか少し気にはなったが確認をしてみる。
「時間か?うーんまあそろそろ夕方か?おい、コール。今昼か?夕方か?」
するとガクは唯一1つだけある窓を見つつ考え。そしてコールにも確認をした。どうやら何時何分というのはなさそうだ。と、悠宇が思いつつ返事を待っていると。
「やっぱり、朝昼晩って感じの大雑把な感じしかなさそうだね」
「私も時計がないなー。とは思っていたんですよ」
海楓とちかも悠宇と同じことを考えていたらしく。悠宇の背中で2人の話し声が聞こえて来た。
「そう言えば……もう夕方かと思います」
「すっかり話し込んじまったな。ってことで、悠宇殿夕方じゃな」
ガクから悠宇にざっくりとした返事が返っていた。
ちなみに悠宇たちの体感もお腹があまり空いていなかったので、あまりピンとは来ていなかったが杜若から蒸気機関車で移動してきて、そのあとこの町でいろいろと話を聞き移動をして――と、かなりの時間が過ぎていたのはわかっていたので、まだ夕方と聞き。それなら今から帰ればいいと少し安心していたのだが――。
「あっ、なら今日は久しぶりにみんなで食事しましょうよ!」
ふと、シェアトの楽しそうな声が室内に響き。悠宇たちがシェアトの方を見ると、それはそれは嬉しそうな。輝かんばかりの笑顔をシェアトが向けており――。
悠宇たちは全く帰れる雰囲気がなかった。
何故ならあの笑顔を壊したとき。何が起こるのか心配になるくらいの笑顔だった。
「そうじゃな。まず悠宇殿たちへのお礼もせんとだからの」
「あっ、いや、お礼なんて」
「そうです。私たちがいきなり来たので」
ガクも何やら悠宇たちにお礼と言い出したところで、帰れる雰囲気はないが悠宇が遠慮をしようと声を発すると。それに続くように海楓も声を出してくれたが……。
「遠慮せんでよいよい。そこまでこの町も廃れておらん。3人くらいのもてなしはできるわい」
ガクには悠宇たちの声は届かず。さらに――。
「し、失礼します。シェアト様。お久しぶりです。ベクです」
シェアトの部屋の前でベクの声が聞こえて来た。
「あら。ベク。どうしたの入っていいわよ。コール。ドアを」
「はい」
コールがシェアトに言われすぐに動きドアを開けると、少し息をきらしたベクが立っていた。ちなみにさすがに大量の汗はもうかいていなかった。
「ありがとうございます。悠宇殿たちがこちらに居るとアクに聞きまして。あの――町の人が。ドーナツのお礼をしたいと。中心部で宴の準備を勝手にしておりまして――どういたしましょうか?」
「おうおう、皆勝手に。まあ良い。悠宇殿。海楓殿。ちか殿。ぜひとも参加してやってくれ」
ベクの報告を聞くとガクも再度悠宇たちに声をかける。どうやらこの場所に悠宇たちがいる間に外では宴の準備が行われていたらしい。
「「「――」」」
ということで、3人は全く帰れる雰囲気がなかった。それぞれ顔を見合わせ『どうするのこれ?』と言った感じで無言のやり取りをするのだった。もちろんいい解決方法などすぐに浮かぶことはなかった。
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