第56話 仲間外れ
「ねえねえガク。なんで私だけ仲間外れなわけ?」
悠宇たちが何とかしてそろそろ帰ろうとしていたが。どうも帰れない状況へと追い込まれていると。少し不満げな表情をしたシェアトが口を開いた。
先ほどまでの楽しそうな笑顔から、今はまるで拗ねている子供のように頬を膨らませてその場にいるみんなを見ていた。
何故なら、とある説明がガクからあったため。そのとあることというのは――。
「だから。シェアト」
「楽しそうな事してるじゃん。私も出たい!」
「いや――でもなシェアト。今外に出すわけにはの」
一応隠している存在のシェアトを町の人の前に出すことができないということだった。
なので、後でこの場でシェアトは――と、なったのだが。それにシェアトが納得しなかった。
「だって、悠宇たちが来ただけでなんか町の雰囲気明るくなった気がするし。今まではみんなも我慢して生活している感じだったから、私もここで1人の生活頑張って来たけど。明らかに今日は雰囲気違うじゃん。参加したいしたい!」
完全にシェアト。駄々っ子になっていた。
「シェアト様。さすがに今シェアト様が皆さんの前に出るのは――」
再度となるが。現状シェアトをみんなから隠している。居ないことにしているため。さすがに慌ててコールもシェアトを止めにかかるが。一度崩れた我慢は戻ることがなかった。
「わかったわ。なら私。悠宇たちと一緒にこの町出るわ!」
「「「「「「はい!?」」」」」
突然の宣言にその場にいた全員が驚き。シェアトを見る。シェアトはかなり真面目な表情をしてガクたちを見ている。
「そうよ。悠宇たちと動けばまたお菓子が食べれるじゃないの。コール。私行くわ」
「シェアト様何を勝手なことを。シェアト様にもし何かあったらそれこそ――」
「あの日以来私はずっとここに居た。でも今私たちの強力な仲間。悠宇。海楓。ちかがいる。なら今こそ私が出るべきでしょ」
勝手に事が大きくなっている。
ちなみに悠宇。海楓。ちかも何故シェアトに今日会ってそれも少し前にあってここまで信頼されたのかはわかっておらず。かなり戸惑っていたが何も言えず。その間も話は勝手に勝手に進んでいく。
「シェアト、悠宇殿たちはもちろん信用しておるが――」
「ガクが信用しているなら問題ないでしょう。そうよ。私ドーナツ食べたいから悠宇たちに付いていくわ!」
「ドーナツで付いてくるんかい!」
そして明かされる付いていきたい理由に悠宇がさすがに突っ込むと。シェアトが何故だかにやりとして悠宇に近寄っていく。
「えっ、えっ?」
戸惑う悠宇の目の前にシェアトが移動する。
「悠宇」
「は。はい?」
「ドーナツ持ってきてくれるお約束でしたよね?」
声にこたえるのは大変まずい気がした悠宇だが。笑顔の圧が悠宇を襲う。
「――えっと――すぐというか。一度帰って――ですね」
「ですよね。なら、また持ってきてもらうのも――ですから私が付いていきますわ」
「――はい?」
「こちらがお願いしているんですか。取りに行く。普通のことですよね。ガク?」
「いやいや、シェアト、何をもし今シェアトが生きていることが広まるとな」
「なら別人になりますわ。そうですね――ちょうどここに悠宇という素敵な男性が居ますから。悠宇と結婚しましょう。そして少し雰囲気を変えれば――」
「――」
悠宇。フリーズ。というか。下手に何か言うとどんどん状況が悪化すると直感で判断し。フリーズしたことにした――というか。実際思考が追いつかずフリーズしていた。
「ちょっとシェアトさんいきなり何を――」
「ちか、私のことはシェアト」
「いや――あー、その。シェアト。その結婚とかは――」
「ちょっとみんなをだますためにするだけよ。私が王女じゃなくなればどこ行っていいわよね?」
シェアトの発言に、かなり慌てた様子でちかが声を出したが。すぐにシェアトの流れに持って行かれた。
「シェアトわがままを言う出ない。そんな事いきなりできるわけないじゃろうが」
「確か――コールが持ってきてくれた本の中にとらわれのお姫様を王子様が助けてくれる話があったわね。そしてそれは実際にあった話を書かれていたわ。つまり――問題ないと思うわよ?ガク?」
ちなみにシェアトは。ガクはあまり物語など読まないだろうと、そこそこ適当なことを話していたが――この場に居る誰もがシェアトの話している物語について知らず。もしかして本当にある場合もあるため。キッパリと言うことができず。シェアトの思い通りに事が進んで言っていた。
「シェアト。そんな作り話――」
嘘かホントかがわからないガクの声も弱い。そんな様子を見たシェアトはどんどん自分の流れに持って行く。
「それに一度悠宇のところに私が行って、ガクたちが国を取り戻してくれたら。悠宇と私が戻ってくればいいんだわ。そうよ。そのあと悠宇が婿として――とかで何とかなるでしょ?形だけならなんとでもできるわ」
シェアトは何が何でも自分が外の世界に戻ろうと必死にいろいろな話を続ける。
それに対してガクとコールが何とかなだめようとするが――。
「ドーナツ食べたいわ!」
ドーナツの力――恐るべきである。いや、普通ドーナツにそんな力はないと思うのだが――今はあるらしい。
なかなかシェアトが折れる様子はなく。さらに時間が過ぎていく。
「ちょ、どうするんですか?これ」
小声でちかが悠宇と海楓に声をかける。
「どうするって言われてもな」
「だね。これは悠宇が本当に婿に後日行く流れで――今は結婚。うんうん」
「おい、海楓。お前楽しんでるな?」
「えー」
悠宇の言う通り海楓ちょっと今の状況を楽しんでいる。
「こういう時にふざけるな」
「そ、そうですよ。海楓先輩。このままだと、悠宇先輩戻れなくなりますよ?」
「まあでも――せっかく悠宇は主人公になれそうだから――こんな機会そうそうないというか。普通まずまずないと思うからね。こういう時は――」
「海楓」
「うん?」
「お黙り」
「えー」
悠宇はこのまま海楓に相談しても現状を海楓が楽しんでいるような様子だったため、話を聞くのをやめ。ちかの方を見た。
「とりあえず――ちか。なんか方法ないか?」
「なんで私に丸投げするんですか」
「いや、現状俺たちにできることが――ね。部外者だし」
「――まあそれは――って、まさかこんなことになっていくとは――」
実際今の悠宇たちには何もすることができない。
なんせ相手は王と、王女。その側近に囲まれているのだ。部外者。よそ者の悠宇たちが何か提案できる立場ではない。
「――」
悠宇たちが小声でコソコソしていると。その姿をシェアトがガクたちと話しながら見ていたが――悠宇たちはその視線に気が付くことはなかった。
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