第3話 遺言書 ★
鉄道模型のレイアウトに囲まれつつ。1人の高齢の男性が筆を走らせていた。
◆ ◆
遺言書。
わし。
この世界では大したものは残せないが。わしの預金。数億くらいあるはずじゃから。尾頭悠宇以外の全員で均等に分けてくれ。
多分生前整理?だったか。売れる物はすでに売っておいた。変な土地とか物とかはなんもないはずじゃ。
そして、自宅とわしが作ったディオラマを尾頭悠宇に譲る。今後維持管理を任せる(壊したりすると災いが起こるからな。注意しろよ)。
以上じゃ。
平成――年――月――日
三重県○×市○×町――
遺言者 尾頭
◆ ◆
すべてを書き終えた後。高齢の男性は名字の横にポンと自作のハンコを押した。
ハンコには雄と仁と虎の3文字を崩した形の文字が彫られている。
「我ながら完璧じゃろ。どうじゃ。思うがままに書いたがこんな感じでいいんじゃないか?さすがわしじゃ」
高齢の男性は今書いたものを掲げつつつぶやいた。
なお、現在高齢の男性は室内に1人である。答えてくれる者はいない。
しかし高齢の男性の独り言はいつものことであり。その後も男性は1人の部屋で話し続けた。
「とりあえずディオラマは悠宇に任せておけば――まあいいじゃろう。なんかあっても悠宇ならなんとかするだろ。にしてもこっちではこんなに年を取ると身体が思うように動かんとは――ほんと不便じゃ。早く向こうの世界に呼んでくれや。こういう場合は誰だ?誰に頼みやぁいいんだ?あっ、自分でいいか。すっかり忘れておった。自分ですればいいじゃったな。あっ――遺言にあいつの事を書かなかったが――。まあもう出て行っておるからな。いいかの。って、わしが死んだら火葬はするなと書くの忘れたじゃないか。紙どこじゃ紙――燃やされたら終わりじゃないか!あっ、わし名前書いてないぞ。いや、ハンコ押したからいいか?いや――これは書き直した方がいいのか?いやでもの――今のなかなかいい感じにかけたんじゃないか?ダメか?ダメなのか!?」
今彼の姿を見た人は、こんなにも元気でハキハキしている老人はまだあと数年。数十年生きるのではないだろうか?国内最高齢の記録更新をするだろう。などと、口をそろえて言っただろう。
現に新しい紙を探して、室内を動き回ったり飛びはねたりしている。こんな99歳はそうはいないだろう。
ちなみに腰も曲がっていない。記憶力も問題なし。というか行動すべてが99歳のものとは見えなかった。
しかし、それから数日後。
すべてをやり遂げたとでもいうような表情をしつつ。最期は静かに家族に見送られこの世を去ったのだった。
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