第47話 ボソッとは注意
突如として命の危機が訪れる悠宇たち3人だった――が。ガクが剣を抜くことはなかった。
「――まあ、それは冗談じゃがな」
ガクはすぐに殺気を消しており。
ガクの横でアクが笑いをこらえてたので周りをちゃんと見ていれば、今のが演技だというのはすぐに分かったのだ――いや、ガクたちの隣に居るベクも悠宇たちと同じく固まりがくがくブルブルしていたので、周りを見ていてもわからなかったかもしれないが……。
とりあえずそれくらいガクの殺気はすごかったということにしておき。
こういう時は、ずでー。と悠宇たちがなることもあるかもしれないが。今の悠宇たちにはそんな余裕はなく。悠宇たちはと言うとガクの発言からワンテンポ遅れてやっと息を吐いたのだった。
「いやー、ガクも衰えたな」
すると笑いをこらえていたアクが愉快そうに話しだした。
「何を。まだまだ現役じゃ。馬鹿にするなや」
アクの言葉にガクが反応しアクの方を見る。
「いやいや年には勝てんな。昔はもっとオーラがあったな。相手をチビらすくらいにはな」
「そもそもお前さんに言われたくないな。お前さんも昔は馬鹿みたいに三日三晩釘打っていたが。今じゃ徹夜もできんくせに」
「できるわい。単にガクの維持している町がチビすけじゃからな。とっとと仕事しちまうとすることがなくなるんじゃ。体力ありあまっとるわ」
「ほうほう、ならとっとと悠宇殿が敷いてくれた線路にふさわしい駅を作れや。反撃の拠点になるんだぞ?それはそれは立派な拠点ができるんじゃろうなー楽しみだ。できんだら。次は町の人らの税はすべてアクが払うんじゃな。というかこの場でサボっておっていいのかの?」
「この爺。ガクが呼び出したから今はいるんだろうが。ってかな。俺1人で町全員とか。こんな貧しい町でよ。何とかしろよガク。トップが町の事考えろや」
「しとるわ。シェアトも守らなあかんし。わがままも聞いてやらないとでな。大変なんだよ。お前もなんか知恵出せ知恵。トンカントンカン釘ばかり打ってねーで」
「おいおいおいガクが言ってきた事俺はしてるんだぞ。それにな。俺は釘打ちやろうじゃねーよ。何でもしてるわ」
悠宇たちの心臓がまだドキドキしている間。その正面ではガクとアクがそんないつも通りのやり取り。言い合いをしていたのだが。悠宇たちの耳にはほとんど届いていなかった。息を整えるのに必死だったからだ。そもそもこの町。ガク、アクたちの日常をまだ知らない悠宇たちはもし落ち着いていても、何が起こっている――と、見るしかなかっただろうが。
「まあとりあえずじゃ。悠宇殿」
「へっ、あっ、は、はい!」
「あっ、話変えやがったよ」
名前を呼ばれた悠宇は慌てて背筋を伸ばし返事をした。
それにつられるように海楓とちかも再度ガクの方を見る。
海楓はすでに落ち着きを取り戻していたが。ちかはまだそわそわしていた。話を変えられたアクは少し不満そうな表情をしていたが。すぐに『まあ今は仕方ねか』と、つぶやいた。
「我々はシェアト様を守りたい。そして助けたいのじゃ。それに悠宇殿たちの協力が欲しい。礼は後日となるがもちろんする。それはそれはどんな要求でものもう。頼む――今悠宇殿の力を我々に――」
「えっ――えっと……突然そんなことを言われましても――」
「頼む!」
ここで断れば命の危機――かもしれない。でも受けたら受けたでそれは敵に立ち向かうことになるかもしれず。現状どちらにしても命の危機では?と、悠宇が拘束で頭を回転させて返事を考えていると。
「ねえねえ悠宇。もうやっちゃえば?主人公やっちゃいなよ」
変に気が緩んだのが原因か。ガクの言葉に海楓がそんなことをサラッと言ったのだった。すると――。
「よ、よいのか!海楓殿!感謝する!ベク!準備だ」
「は。はっ――ぬわっ!?」
「あっ、ちょ……」
「海楓殿感謝するぞ!」
「――」
ガクはチャンスと見たのか。もう逃がさない。言い訳はさせないという感じで海楓の方に食いついた。その途中命令を受けたベクが大慌てで立ち上がり――ズッコケていたが。誰も触れなかった。というかそれどころではなかった。
「あー、悠宇。なんか断れなくなった?」
「……」
海楓はというと。軽く返事をしただけなのだが。ガクのあまりの必死さ。即行動に若干引きながら悠宇の方を再度見つつ小声で確認。
悠宇はというと場の雰囲気からこれはもう海楓の言葉でもう自分たちの協力は決定した。と、悠宇は事が勝手に進んだことにより。脳内の考えが追いつかず放心状態だったりする。
ちかは目をぱちぱちさせながら周りを見て戸惑っていた。
ということで、なんやかんやと悠宇たちは面倒ごとに巻き込まれることになったのだった。
なお悠宇は数十秒してやっと再起動したが――もちろんもう断れる雰囲気は一切なかった。何故ならガクが満面の笑みで悠宇を見ていたから。
そして先ほどガクに指示を受けたベクがすでに部屋を出たところだったからだ。
その直後悠宇はガクと目が合うのだが。それがまた次のサインになったらしく。目が合うと同時に悠宇には何も言わせない。もう決定したことだ。と言わんばかりに、ガクは頷きつつ。新たな方向を見た。
「――コール。聞いているだろ。こっちに来い」
そして《壁》に向かって声をかけたのだった。
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