第44話 シェアト ◆
実りの町のとあるかやぶき屋根の家の中の奥。そのさらに奥の奥。すごく奥にある一室。
窓が高い位置に1つだけある部屋で、そこから太陽の光が部屋の中心に差し込んでいる。他の窓はなく。あるのはドア1つだけ。そのドアもしっかりとした作りで厳重に室内を守っているようである。
建物の外はかやぶき屋根でドアなども暖簾――ではないが。それに近い簡易的なものだったのに、ここだけ世界が少し違うような作りだった。
そんな部屋の室内はあまりものがなく。机とベッド。小さな棚があるだけで、広々とした感じである。
なお、何故かここだけ洋風――に近い雰囲気があった。
またものは少ないが殺風景ということはなく。床にはマットが敷かれベッドにはかわいらしいぬいぐるみが置かれていたり。棚には綺麗な装飾が施された小箱などが置かれ。さらにその棚の横にはシンプルながら上等な生地が使われているのが見ただけでわかるドレスが数着かけられている。サイズは大人用ではなく子供用。ちかあたりのサイズとぴったり合いそうなサイズである。
また部屋は窓が1つしかないがそれでも太陽の光が十分室内を照らしており。さらに壁にも明かりが付けられているので薄暗い感じは一切ない。この部屋はまるでどこかの御姫様の秘密基地のような場所で――外のかやぶき屋根の建物からは全く想像できない別空間だった。
「――はぁ」
そんな部屋の中につまらなさそうなため息が漏れた。
声の主はシェアトという少女。
年齢は15歳。まだ少し幼さの残る顔。そして小柄な身体の女の子である。
そんな女の子が綺麗な金髪のボブカットの髪と両足を揺らしながらベッドに腰かけ退屈そうにしている。
服装は肌着のみで綺麗な手足をさらけ出してるが。基本この部屋は女の子。彼女しか日中は立ち入らないためここ数か月ほどはずっと室内で過ごしている時はこんな感じで気が緩みまくっている。
以前はちゃんと服を着て過ごしていたのだが。今ではかなり気が緩んでいた。
というより。この場から出ることがないため半ば自暴自棄――まではいっていないが。適当に過ごすようになっていたところである。
年齢的にも活発に動きまわりそうな年齢だが。何故彼女はつまらなさそうに部屋に居るのか。それは自由に外を出歩くことができない状況だからである。
実はこの彼女。王女様だった人である。
実際まだ王女様なのだが今の国の現状からして彼女が王女のままで過ごすというのは難しかった。というか彼女の存在は外にバレてはいけない。今現在外では彼女は所在不明。すでに死亡しているという噂もあるくらいの扱いになっている。
何故彼女はこんな隠れるような生活になっているのか。それは大炎上が関わっている。彼女が幼き日。大炎上が発生し。彼女はこの地へと逃げるように数名の従者とのみやって来たからだ。
『この希望の光を消してはいけない』
何も世界のことなどまだ知らなかった幼き日のシェアトはいつも笑顔で周りの者を幸せにしていた。
そしてシェアトには特別な能力もあり。いずれは女王になり平穏な国。世界を作っていってくれる子。と皆が思っていた。
思っていたが――調子よく事は進まなかった。
大炎上により。国は大被害。崩壊寸前。もう制御もできないような状態になった。そして王女というのはまず命を狙われた。まだ何も知らない幼き子でも。
敵には関係なかった。そのためシェアトはすぐに隠された。そして――多くの犠牲がありつつも皆で何とか守り抜き。今ここにシェアトは生きている。
――と、言うのを知っているのは、もうごくごく一部の人のみで、今現在はその一部の人が必死に彼女の存在を隠している状況だったりする。
しかし、つい先ほどそんな重大事項をうっかりバラしてしまった者がおり――でも、そのおかげで彼女を外の世界へと戻す。助けてくれる。言わばシェアトの王子様がやって来るまであと数時間だったりする。
なお、その王子様。自分がこんなことに巻き込まれるとか今は夢にも思っていないが――。
シェアトの王子様は現在はシェアトを守っている1人の家の奥。さらに奥というところで話し合い中だ。
「――ここは精霊もいないから退屈――でも。出してもらえないし。はぁ――暇!!あと甘いもの欲しい!!」
いつもこの部屋で過ごすシェアト。少しだけ持ち込まれている私物の本などもう何百回と読み。シェアトの脳内には物語や知識が刻み込まれている。本を見ずとも内容を語れるレベルである。なので今現在はもう何かをするということがほとんどない。少し室内で身体を動かすくらいだ。
ちなみにシェアトは今はこんな引きこもりのような状態だが以前は無邪気に走り回ったり。誰とでも仲良くなることができるコミュニケーション能力などを持ってるため。今の生活はかなり窮屈である。一応シェアトは周りがはっきりと何があったのか今のところ聞いてはいないが。自分の置かれている状況は周りの様子から何かがあったことはすでにある程度把握している。
しかし周りが自分に話さないのは理由がある。または優しさ――などと感じており。基本シェアトは何も知らないふりをして何不自由なく過ごしているように他の人の前では振舞っていた。
なお、今のシェアトの楽しみと言えば、時たまシェアトの警護から届く新しい本や小物が楽しみだったりする。
年頃の彼女にはあまりにもつまらない日常。そんな外に出ることをここ何年と許されていないシェアト。今は窓からの光を浴びるだけだが――彼女が太陽の下に立つまで――。
「――こちらになります」
すると、シェアトの部屋の外で声が聞こえて来た。
いつもならシェアトの護衛。コールのみ。または一緒に居てガク。ベクくらいだが――というかここ数日は何かあったのかコール以外の人はこの場に来ていなかったが。
しかし、今日は足音が多く。シェアトはベッドに座ったままドアの方を注目したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます