第45話 頭の回転が速い子

 悠宇たちが連れていかれた場所は、町の外れから移動し、町の中にあったボロの建物。そしてその建物はさらに奥があり。進むと――現在の場所へと至ったのだった。つまり隠し部屋のような場所。小さな会議室みたいなところにいる。

 外の外観からはあまり予想できないしっかりと作られた室内。ログハウスの中に居るというべきか。普通の家の中に居る感じで、木で作られた丸い机に椅子が置かれており。数人で話し合うときに使っている様子のところに通され。今は3人だけその椅子の一角に座り待機しているところである。


「で、悠宇がなんとなく聞いちゃったから。宴会の雰囲気が急に重大会議の緊迫した雰囲気になっちゃったと」


 海楓が悠宇に向かって話す。


「仕方ないだろ。なんとなく気になったんだから。そしたら――こんなことになるとは」


 現在の3人ということは、すでに移動していた海楓も悠宇とちかのところへと移動してきている。悠宇とちかが案内されてすぐに海楓はアクに案内されてやってきた。

 なお、海楓はすでに町の人とも打ち解けあったらしくアクとも談笑しつつやって来た。


「これ――なんかまずい感じじゃないですか?」

  

 しかし現状の雰囲気は談笑をしている雰囲気ではない。

 ちかの言う通り何か国家機密にでも触れてしまったような雰囲気である。室内の雰囲気からか悠宇たちしか今はいないがそれでも少しだけぴしっとした空気が張り詰めている。

 なお部屋の壁には何やらいろいろ決まり事のようなことが書かれていたり。何かの旗。紋章?のようなものが飾られている。


「見た目はボロボロ。でも中はまだ生きているというか――ここド田舎。農村地みたいに見ていたが。実は――違う?」


 あたりを見つつ悠宇がつぶやくと。先ほど悠宇とちかから何があったのかある程度聞いた海楓が顎に人差し指を当てつつ話し出した。


「つまり――悠宇がふと変な直感。主人公モードに入っちゃって」

「なんだよ主人公モードって」

「あれだよ。単なる1生徒がある日突然世界を助けることになりました――とか?」

「そんな事起こってほしくねー」


 実際そんなことはごくごく稀。いや、無いのが普通だろう。

 ――しかし、そのごくごく稀というのは0%ではないため。限りなく低い可能性ではあるが。起こってしまう人。巻き込まれてしまう人もいる。

 今この場に居る彼ら彼女らのように――。


「でも実際そんな雰囲気だし。多分悠宇とちかちゃんの聞いたシェアト?って人が重要人物なんだよ。間違いなくね。さっき私が町の人と話している時も『こんな美人さん久しぶりに見た――』とか言っていた人がボソッと『――姫さんが生きていれば姫さんもさらにお綺麗に――』とかぼそって言っているのが聞こえたから――なんていうのかな?実はこの今町に居るガクさんとかって、元王族――いや、王様で。今は身分を偽っている――?うんうん。初めに話している時もなんか今は1つだった国がバラバラでその町々で長がいるとか――だったけど。もしかして、その各地の長はもともと王様の側近で――分散というのか。固まっていると危ないからみんなが身分を偽ってバラバラ――それかもともと分業制?っていうのかな?日本だと国の重要機関がほとんど東京に集まっているでしょ?それがここでは国の中の各地にバラバラに配置されていて。日本で言えば――そうだね。北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州、沖縄って感じで北から南にまで点在って感じかな?そして大炎上だったよね。大炎上。悪夢?だっけ。その攻撃?が起きてすべてが分断されちゃったから、今は各地の様子はわからないけど。でももともと各地に長になれる人。王族?側近?の人かな?そういう人が各地に居て、国としては今はバラバラだけど町としてはかろうじて生きていて――反撃のチャンスをうかがっていたら。私たちが来たとか?そしたらベクさん?がうっかり――いや、わざとかもしれないけど、口を滑らせて、よそ者の私たちに重要事項を漏らしてしまった。知ったからには――生きて帰らせない。とかかな?」

「「……」」


 海楓が1人で語りだしたので悠宇とちかは大人しく海楓の考えを聞いていたが――最後の言葉で2人は固まった。


「い、生きて帰らせないとか――それはね」

「もしかして私たち処刑――」


 海楓の話を聞いていた2人は、そんなことはないだろうと思っていたが。でも海楓は一応今この中に居る3人の中では一番頭が回る。なのでもしかすると――と、思い。嫌な汗を流しつつ。2人はぎこちない動きでそれぞれ顔を見合わせてそんなことを言った。

 ちなみに海楓は冗談のつもりで最後はいったので、ケロっとした表情だ。そんな表情を海楓がしていることに悠宇とちかは気が付いていなかったが――そのためそれに気が付いた海楓がすぐにまた話し出した。


「ちょちょ、2人ともそんな深刻そうな表情しなくても。完全に拘束するなら今も縛り上げてるよ。柱とかにぐるぐる巻き――または声も出せないようにしてるだろうし」

「いや――っか、海楓の考えがすごいというか」

「ですです。先ほど、この国。町の現状とかを聞いた時もでしたが。海楓先輩の頭の中どうなっているんですか?」

「普通だよー。ってか、やっぱりその悠宇とちかちゃんの聞いたシェアトっていう名前の人――すごい偉い人なんじゃないかな?」

「いや、俺は何ともだが――」

「私もずっと何が今起きているのか混乱中ですよ」

「私は――お姫様。王女様だったりと思ったんだけど――今の雰囲気的にね」

「ま――」


 まさか。と、悠宇が言いかけた時だった。

 ガチャっと3人が待機していた部屋のドアが開いたのだった。

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