第66話 意外と迅速

「なんじゃと!?」


 アクの声を聞いたあっけに取られていたガクが慌てて意識を取り戻りアクの方を見た。


「止めようとしたが。この騒ぎで止めれなくてな。多分ガクや俺。ベクの姿が見えなかったから自分たちが――とか思ったのかは知らんが。唯一の馬車使って出て行ったと。あと何人かも馬に乗っていった。多分――あの馬じゃたどり着けないとは思うが……」

「何をしておるんじゃ!周りの町まで行ければ――そりゃ……じゃが。って、そうじゃなくてだな。今シェアトが生きていることがもしあやつらにも伝わったら――」

「間違いなく。総攻撃がこの町に――」

「なんとしてでも止めろ!!止めるんじゃ!!」


 町の人も大騒ぎ。しかしガクたちはガクで大騒ぎになりつつあった。

 そんな騒ぎに挟まれている悠宇たち4人。何もできずに左を見て――右を見て――を繰り返していた。


「皆の者!落ち着かんか!」

「ひゃっほー!」

「シェアト様!」

「生きててよかった!」

「げほっげっほ」

「シェアト様!!」

「話を聞け!」


 ガクが町の人を止めようとするが。シェアトが生きていたというのが本当にうれしかったのだろう。町の人は本当に踊ったり。自身の能力を使い水を噴水のように出している者や火を手元に出している人など――はっきり言って荒れていた。

 もう一度言っておくが。今この町に居るのはほとんど、いや、ほぼ高齢者である。その高齢のお爺ちゃんお婆ちゃんが子供のようにはしゃいでお祝い――?をしている。


「やべーな。みんな活気付いてやがる」

「これは早くシェアト様を安全なところへと案内しないと――本当に居場所がバレる可能性が――」

「――」


 ガクの後ろではアクとコールが話しており。その後ろではベクが周りを見て固まっていた。


「ベク!皆をまとめろ!」

「――む。無理です」

「せんか!!なんとかせい!!」


 そんなベクにガクがいつも通り町の人をまとめるように命令を出したが――この騒ぎ方を1人でまとめるのはなかなか。本当になかなか大変なことだった。というか。ベクは逃げたそうな表情をしている。


「仕方ない。静まらん者は――切る!」

「いやいや、ガクそれはダメだろ」


 すると、ガクが強硬策。剣に手を――というところで、さすがにアクも入り止めるが。どんちゃん騒ぎをしている町の人はそんな騒ぎにすら気が付いていない。


「あー静まらんか!馬鹿もんが!」


 ガクがまた騒ぐが――効果なし。ガクの声は全く町の人には届いていない。


「――あー、こうなったら仕方あるまい。コール」

「あ、はい」

「シェアトを守れ」

「へっ?」

「今から何があってもシェアトを守れ。この地を離れて」

「ここがまだ一番安全かと――」

「馬鹿もん。これだけ馬鹿が騒いでいれば目立ち狙われる。そうなれば地下室は攻められたら終わり。早く他に身を」

「しかし」


 ガクとコールの話はまとまる雰囲気がない――と、思われたそんな時だった。


「おいおい。ならよ。悠宇殿に杜若?だったよな。あそこにかくまってもらったらどうだ?」

「「なるほど」」

「いやなるほどじゃないです」


 アクの提案にガクとコールがすぐに乗った。というか。打ち合わせでもしたのか?というようにすんなり話を悠宇たちの方へと持ってきた。

 もちろん悠宇はそんなことに巻き込まれたら――なのでさすがにすぐに反応した。


「先輩。ダメです。これ受けたら最後、私たち帰れない可能性大です」

「わかってる」

「でも悠宇。このままだと危ないのは確かじゃない?」

「いやでも海楓。あの杜若も安全か――」

「あっ。杜若――杜若。あっ、そこなら私の能力使えるかも」

「「「……へっ?」」」


 ちかも悠宇と同じくすぐさま嫌な予感を感じて悠宇に助言をしたが――そのあとすぐに杜若という地にシェアトが反応し――それから数分後の事。


 ★


 悠宇たちは実りの町の外れに止めていた蒸気機関車のところへと移動していた。

 ちなみに町の人たちのことはアクとベクが何とかしているが――今のところどんちゃん騒ぎが続き。シェアトたちが居なくなったことすらまだ気が付かれていない様子だ。


「いいか。コール。何があってもシェアトを守れ。こっちが安全とわかったら使いを出す」

「わかりました」

「悠宇殿。海楓殿。ちか殿すまんが頼む」

「えっと――なんか無理矢理――」

「先輩諦めましょう」

「悠宇。早く出た方がいいと思うよ」

「マジかよ。何この謎展開」

「悠宇発車発車」

 

 ヴォォォォォォォ。


 汽笛を鳴らし。そしてガクの見送りを受けつつ蒸気機関車が後ろ向きでゆっくりと発車をする。

 そう、今悠宇たちは蒸気機関車に乗っている。行きよりも2人ほど人は増えている。

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