第10話 2人の関係は――?

「ちょっと悠宇先輩。聞いてますか?私チビじゃないですからね!今後また急激な成長をするんですから!」


 スーパーの通路で話している悠宇とちか。

 幸い海楓がまだ人集めをしているためだろう。通路で話していても他の買い物客の迷惑とはなっていなかった。それはそれで海楓の集客力が異次元すぎる気がするが――悠宇の周り。いや、この町では海楓はそんなレベルが普通である。


「十分聞こえてます。おチビちゃん」


 ちかの言葉に軽くお辞儀をする悠宇。もちろんちかの頬は膨らむ。


「――悠宇先輩。この後人気のないところ行きましょう」

「俺何されちゃう?」

「その口から何も言えないようにします!」


 明らかにちかの顔に怒りのマークが出ている。普通ならばすぐに謝罪した方がいい雰囲気になりつつあるのだが――しかし。そんなことくらいでは悠宇には全く効果がない。


「待て待て、ちかのファーストキス俺でいいのか?」


 むしろ話がややこしい方向へと向かっていき。反撃を食らうちかだった。


「ふぎゃっ!?そんな話してないんですけど!?!?あと何勝手なこと――って、なんで知ってる!じゃなくて――えっと――えっと――――」


 悠宇の反撃に1人頭を抱えてその場で混乱するちか。初めにあった優等生オーラはすでに消えている。

 ちか自身も外ではしっかり者――と、言う感じをいつも意識していたが。この場では悠宇とのいつも通りの会話で2人の時と同じような雰囲気。素があふれ出ていた。

 なお、そんなちかを見つつ悠宇はにこやかな表情をしていた。

 これが2人のいつものやり取り。

 さすがに学校や外ではここまでなることは少ないのだが――たまたま周りに人が居なかったからか。ちょっと今日は盛り上がっていた。


「悪い悪い。って、今日はちょっと無理だわ。海楓の世話必要だし。そのあたりであれがぶっ倒れていたとかあったら俺の命が危ないし」

「――海楓先輩世話――?あー、また海楓先輩のご両親。お留守ですか?」


 すると、少し慌てていたちかが話が変わり落ち着きを取り戻す。

 そして悠宇も海楓の名前を出したことで、現状を思いだし。落ち着いた。


「出張でしばらく留守なんだと。それを今の今まで隠していやがったが――」

「ありゃー、そりゃ海楓先輩飢え死にの危機ですね。そして海楓先輩にいじられる悠宇先輩うんうん。いつも通りですね」

「後半は納得したくないが――まあそういうことだ。こっちはこっちですることあるのに――」

「――悠宇先輩はお爺ちゃんの模型大切にしてますからね。あっ、また私も行きます。あれ見ているの楽しんですよ。ってか、私も今1人暮らしだから、そういうことなら混ぜてくださいよー」

「いやいや、ちかは何でも1人でできる子じゃん。俺そういう子好きだぞ?手がかからない子」


 ちかは両親が現在海外で仕事をしているため。基本こちらには今いない。

 ちかがまだ小さい頃は帰りがちょくちょく遅くなる程度だったと思うが。ちかが中学生になった頃に海外へと行くことが正式に決まり。本当はちかも海外へと一時期一緒に行く話があったらしいが。ちかの両親は自宅マンションもこちらに残しておきたいのと、ちかがこちらでの生活を強く望んだ。ということで現在のちかは、もともと両親と住んでいたマンションで1人暮らし中である。悠宇の爺ちゃんがよくちかを預かっていたのはそのためでもある。悠宇の爺ちゃんが一応保護者。という感じだった。

 また、悠宇の爺ちゃんが居ない今では海楓の家。加茂家もちかとの交流があったので、海楓の両親が何か行事があるとき。三者面談の時などは出動していたりする。実は悠宇自身も今現在両親との連絡がほとんどないため――(悠宇の家族親戚一同はがっぽり遺産で儲けて実は今どこに居るのか知らなかったりする)海楓の両親が代わりにというのがあったりするが――それはおいておこう。特に重要ではない話だ。


 そして、今現在よくよく考えると悠宇。海楓。ちかの3人は大人が近くに居ないのだが――そのことに気が付いているのは今のところ海楓だけである。

 海楓は気が付いているが。特に問題なしと思っているため口にすることはなかったのだ。

 そもそも尾頭家。海浜家の管理?見守り?をしている加茂家の両親も基本悠宇に任せればすべてOK。と、いう謎な絶大な信頼が悠宇にあったため。娘のこともちかのこともまず学校でそれぞれが話しているだろうということと。ちかのところに関しても、ちか自身がしっかりしていることと。週末、休日には悠宇がちかと過ごしていることを知っていたので今現在なんの心配もしていない。なので、もし何かあったらすぐに連絡――という感じになっていた。

 

 この3人ある意味両親に放置。周りの誰かが育児放棄しているのでは?などとボソッと言えば問題が起こりそうだったが。今のところそんな雰囲気は全くなく。むしろ家庭内のことまで詳しく知っている人は居ないため。それぞれ幸せな家庭があると思われているのだった。

 ちなみに今の悠宇とちかの会話をもし誰かが聞いていたら。あれ?ご両親不在?などという疑問。噂が生まれたかもしれないが――。

 未だに海楓が人だかりを作っているみたいで、悠宇とちかの会話はまだそのまま続いていた。


「だ、だから――もう、って、でも――平日とか1人だとやっぱり夜とか寂しいんですよ?」

「あー、まあそうか。でもちょっと待て土日にちかのところ――いや、海楓が居るとどうなる?いや、そこまでは気にしなくていいか。四六時中海楓を見ている必要はないからな。って、でもこのままだと本当に俺常にどっちかの世話にならないか?まあちかの方は世話って感じじゃないが……っか、寂しいとか言いつつ。そもそもちかが恥ずかしいから家は禁止!とか言ってなかったか?だからいつも狭い俺の家か外で土日は過ごす――だったはずだが。寂しい言われてもどうしろって――あっ、先に言っておくが海楓がなんかややこしいことになっても、もちろん今まで通りちゃんとちかとの時間は作るし削ることはないが――でも改めて考えるとなかなかだな。俺の身体大丈夫だろうか――?」


 実は悠宇。本当に学業以外で忙しい。

 というか、自身でも忙しいと言っていたが。本当なら悠宇がすべきことは3つあった。しかし悠宇はちかとの時間に関しては、休息タイムのように考えていたため。悠宇自身忙しい理由に週末などはちかと過ごす――というのは全く入っていなかったが。


「悠宇先輩。ほんと真面目というか。海楓先輩のことが大変でも私のこと忘れないところ好きですよ。あと、私の家はやっぱり禁止です。はい。今まで通り私が出向きます。そしてどこか行きましょう」


 1人でいろいろ呟きだした悠宇の言葉を聞いていたちかが嬉しそうに悠宇に声をかける。


「まあ俺は週に1回。ちかをいじらないと俺海楓に弟扱いされて死ぬかもだからな。だからちかが嫌がっても週1ではいじりに行く」

「――なんか私の使われ方が複雑――いやでも嬉しい――って、そもそも先輩の家が広かったら私が普通にお泊りで週末乗り込んでいるんですけどね」

「無理だな。生活スペースがマジでない」

「よく知ってます。ってか、先輩こそちゃんと寝れてます?実は私の家でのびのび寝たいとか思ってます?あっ、海楓先輩のところにそういうときは行きますよね。近いですし」

「まあ何とか横になるスペース1人分はあるからな。それに海楓のところで寝泊まりをしたらそれこそ俺は睡眠不足で死ぬ」

「いろいろ言っている割に海楓先輩のことも見捨てない悠宇先輩」

「そうそう、俺真面目だから」

「自分で言いますか」

「ちかたちがよく言ってくるから間違いではないんだろ?」

「いや、そうですが――って、悠宇先輩。家の増築をお勧めします。寝室だけでも庭に作ったらどうですか?ギリギリ土地ありませんでした?」

「ほんと金があったら作りたい。いや、時間さえあればもう自分で小屋マジで作りたいわ。ってか、最悪庭にテントもありかと考えている」

「やっぱりそういう考えはあったんですね。でも、模型は維持管理ちゃんとしないとですからね。真面目な悠宇先輩は忙しい――それに悠宇先輩のお爺ちゃんも365日24時間営業みたいに触っていましたよね?というか私もいろいろ見ているときに聞かされたので知っているというか。毎日触らないとダメになる――って言ってましたよね」

「ああ。爺ちゃんはホントいろいろ語りながら。というか、あの規模だと順番に手入れしているとほんとそんな生活になりそうなんだよな。ちょうど全部終わるとまた初めに手を付けたところをチェック――って、気を抜くとすぐに動かなくなったり。埃が溜まったりだから。まあここ最近マジで手入れのスピードが落ちているが――誰かさんたちのお世話で」

「――誰でしょうね?」

「1人は今話している」


 ワンテンポ遅れて返事をするちかの頭をポンポンと触りながら悠宇が言う。


「――」


 するとちかは黙り。悠宇から視線を外す――が、強制的に悠宇がちかの頭を動かして自分の方を向ける。


「ちかだちか。まあでもちかとの週末は好きだしな。それに関してはマジで負担でも何でもないし」

「――この先輩はほんと好きという言葉をサラッと言うんだから」

「いや、実際本当にちかと過ごすのは好きだし」

 

 悠宇に店内で捕まれているため照れているちかがさらに悠宇の言葉によってどんどん顔を赤くしていく。

 一方で悠宇は大変楽しそうな表情をしている。


「――ちょ、一度ストップ」

「ちかの反応も良いし。ほんとかわいいな」

「いじるなー!もうっ!」


 完全に店内の通路にバカップルが居る。と、誰かが見たら言いそうな状況となった時だった。


「あっ、居た居た――って、ちかちゃんだー」


 通路の先から海楓の声が聞こえて来たため、悠宇とちかは会話をやめて声の方を見たのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る