第11話 美少女2人

 スーパーの店内で話し続けていた悠宇とちかを止めたのは、スーパーに着くや否や多くの地域の人達に捕まっていた海楓。

 海楓は特に疲れた様子なく。悠宇たちのところへと気持ち小走りでやってくる。もう人に囲まれるのは慣れっこになっている様子だ。


「あっ、海楓先輩。こんにちは」


 海楓が悠宇たちのところへと来るとまずちかが挨拶をした。


「少しぶりだね。ちかちゃん」

「はい。海楓先輩は悠宇先輩と買い物なんですよね」


 ちなみにちかは今の海楓の姿が偽。ということを一応は知っている。というか悠宇が普通に話している。バラしているのだが――海楓が他人の前では完璧すぎるため。今のところちかは本来の海楓の姿という話を知ってはいるが。実際に海楓のぐーたらは見たことがなかったりする。

 なのでちかは海楓と接するときは基本何も知らない他の友人たちと同じポジションで今のところ話している。

 もちろん悠宇から話を聞いた時は、海楓の本来の姿がどんな感じか興味があり。何とかして本当の海楓を見ようとすることも一時期はあったが。どうしても海楓の完璧な守りを崩すことができなかった。

 また悠宇が海楓の写真を撮るという作戦もしたことがあるが。だらけていても写真写りの良い海楓だったりする。

 確かにラフな姿をしている写真が取れても、そこから何故かぐーたらしているようには見えないなど。とにかく海楓の素の姿を見れるのは今のところ悠宇のみである。

 なお、先ほどまでバカップルのようなやり取りをしていた悠宇とちかは、さすがに海楓の前では一応自重している――というより。ちかが居るという時点で海楓が外出時モードになるため自然と2人の背筋も伸びてしまうのだった。ふざけようにも何故かふざけられない雰囲気を外出時海楓は持っていた。

 

「そうそう、食料調達をね。お父さんもお母さんも忙しくて。ちかちゃんも買い物だよね?」


 海楓はいつも通り。自分がお姉ちゃんを頑張っています。という設定の流れでちかと話す。


「はい。私はここ最近1人なんで空き時間に買っておかないと何もないってことが起きちゃいますからね」


 ちかの方も海楓の話に合わせて話を続ける。

 ちなみにだが。ちかと交流がある海楓は現在のちかの家庭状況もしっかりと知っている。


「ちかちゃんはホントすごいよね。何でも1人でしてて。学校もあるのに家のこと全部しているんだもんね」

「いやいや、週末は悠宇先輩頼みで楽してますから。平日を乗り切れば――です。それに家事とか嫌いではないですし。いい気分転換になるので」

「あっ、そうか。悠宇は週末はちかちゃんところだよね。そうかそうか――」


 海楓とちかが話していると。週末、休みは悠宇が海楓と一緒に居ることも知っている海楓はそのことを思い出し。少しその場で考え――少しだけ口元を緩めた海楓だった。

 たまたま海楓のその口元を緩めた瞬間に気が付いてしまった悠宇はと言うと――とっても嫌な予感が頭をよぎったのだった。

 そしてそれはすぐに答え合わせが行われ。正解と言われることになるのだった。

 簡単に言うと。今までは重なりそうで重なっていなかった学校以外で3人が常に集まる。という状況が生まれようとしていたのだった。

 しかし、嫌な予感を感じ取ったのに――悠宇はまだそのことを予想できていなかった。


「ちかちゃんちかちゃん。この後私の家来ない?あっ、帰りはちゃんと悠宇が送るから」


 悠宇が嫌な予感を感じていると、海楓が再度ちかに声をかけた。


「えっ――あー、はい大丈夫ですよ。今日は生ものは買わないので。あっ、なら重たいものを買って悠宇先輩に運んでもらいます」

「それがいいと思うよ。悠宇は優しいからね。何でも持ってくれるよ」

「……サラッと俺無視していろいろ決めるなよ」

「あっ、ちかちゃん。せっかくだしご飯も食べていってよ」

「えっ――えっと――ご飯までいいんですか?」


 するとちょっと予想外のことを提案されたちかが驚いた表情をした。

 今までもちかが海楓の家に行くということはちょくちょくあった。しかし、自宅で食事を一緒にするというのは、ほぼほぼないことだった。もちろん全くないというわけではない。しかし今までに自宅で食事というのは基本海楓の両親がいる時ばかりだったからだ。

 今のちかはすでに悠宇から海楓の両親が不在のことを聞いている。

 そして一応ちかは海楓が1人の時悠宇に頼りっぱなしということを知っているが――このままの流れでことが進むと悠宇が料理をすることを自分に教えることになるのでは?と、今までならなかったことになると気が付き。返事をしつつ悠宇を見た。


「うん。ちょっとちかちゃんに話したいこともあるから」

「……話したい事?ですか」


 しかし、悠宇の方を見ると同時くらいにすぐに海楓が話しかけてきたため。ちかはちらっとだけ。同じように少し驚いた表情の悠宇を見た後すぐにまた海楓の方を見ることになった。


「悠宇。今日はちかちゃんも一緒にご飯食べていくからみんなで食べれるのにしようか」

 

 海楓はちかはに話した後。今度は少し会話から外れていた悠宇の方に声をかけた。


「――いや、えっと、だから勝手にいろいろ……」


 なお、海楓の考えがわからない悠宇も少し戸惑いつつの返事となっていた。


「ちかちゃん何か食べたいものある?」

「えっ、えっと――私は何でも――」


 再度ちかが海楓の問いに答えつつ。悠宇の方に状況確認の視線を送ると、今度はちゃんと悠宇と目があった。

 

「――何をするつもりだ……こいつ」

 

 もちろん悠宇も3人しかいない状況で食事ということは、自分が作ることが確定。しかしそれは今での海楓が隠してきたことをちかには見せるということになると気が付いていたので、悠宇も戸惑いつつつぶやくだけだった。

 唐突な海楓の提案の後。戸惑う2人を置いて、その後は海楓主導で買い物が始まった。


「――悠宇先輩。何が起こってるんですか?このパターン初ですけど」

「全くわからん」


 買い物中。海楓が商品を選んでいるタイミングでちかが悠宇にコソコソと戸惑いつつ声をかけてきた。


「この流れだと、海楓先輩。家でのことを私にバラすというか。話してくれる?っていうかまさか海楓先輩が作る――?」

「まあなるだろうな。今のところまるで自分が作るみたいに買い物かごに物は入れているが――って、後者になりそうになったら全力で止めた方がいいな」


 海楓の秘密に関して、ちかには別に話してもいいだろうと悠宇はもともと前から思っていた。それにちかはちかですでに悠宇から聞いていたので、ある程度知っているが。何故このタイミングで――ということが気になる2人。

 ちなみに今のところ海楓は自分が何か作るような素振りを見せながら買い物をしている。

 それはもちろんあちらこちらで再度お店の人に声をかけられているので、外出モードとなっているためだと思うが――その行動の中でもさらに2人が気になることが増えていた。というか、海楓が何かをしようとしていることより。今現在何を海楓が作るつもりで買い物をしているのか全く分からない方も気になりだしていた。


「ちなみにですが。何が作られるんでしょうか……?」

「こちらも全くわからん」


 今は悠宇が海楓とちかの買い物かごをそれぞれカートに乗せて押している。

 上の段が海楓の買い物。下の段がちかの買い物で、ちかの方はペットボトルの飲み物や。乾物など長期保存ができる物などが中心にかごの中に入れている。

 一方上の段は一応夕食の材料。または明日以降の食料が買われているはずなのだが――。


「こんにゃく――ソース。柿」

「牛乳……レバー。チョコレート」

「確かかごの底の方には――じゃがいもと……きゅうり」

「あと、玉ねぎとキノコとかも入れてたな。あっ唐辛子も買っていたか?」

「――何作るんですか?先輩全くわからないんですが」

「いや、俺も全くわからないんだが――」


 買い物かごの中を見ながら考える2人。その間も海楓はスーパーの人や地域の知り合いの人と話しつつ商品をかごに追加していく。


「あっ、そうそう、カレー粉買わないとね。肝心なもの忘れてたよ」

「「――えっ」」


 ぐるっと店内を一周する間。結局何を作るつもりで海楓が買い物をしていたのかは悠宇もちかもわからないままレジへと向かったところで、海楓が手をポンと合わせてそんなことを言った。

 その言葉を聞いた際。悠宇とちかは目をぱっちりと開けて再度上段のかごの中を見た。その後は悠宇とちかが何とも言えない表情で顔を見合わせた。


「――悠宇先輩。私……急用ができたとか言っていいですかね?」

「なし」

「なら――今見た眼からの情報により休養が必要になったとうことで――」

「なし」

「悠宇?ちかちゃん?何か言った?」

「「全く」」

「うん?どうしたの?2人ともコソコソして――?」


 それから悠宇とちかを不思議そうに見つつ。『ちょっとカレー粉持ってくる』と海楓は2人に声をかけてカレー粉を取りに行き。海楓が戻ってくると3人は会計をとりあえずしてお店を出たのだった。

 本当なら店内で会計をする前にいろいろ言いたかった悠宇とちかだが。会計は海楓が中心で行っていたので何も言えずに帰路へと付くことになってしまった。


 そして帰り道は海楓とちかが買ったものを悠宇が持って歩き。その悠宇の前を雑談をしながら海楓とちかが帰ったため。買った食材に関して確認するのは海楓の家でとなった。

 なお、悠宇は後ろから、海楓と話しているちかが何とも言えない表情になっていることにもちろん気が付いていた。

 そして悠宇も『カレーの材料……?』と、自身が持つ袋の中身を思い出しつつ考えるのだった。

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