第73話 ライバル

「えっと――あの――」

「どうした?ちか」


 杜若の駅舎周辺を再確認し終えたちかが戻って来て悠宇たちの会話に入っていた。


「その、実りの町?を出るときに少し食べ物は持ってきましたよね?」

「ええ。少しだけど持ってきたわ。数日は大丈夫と思うけど――あっ。そうよね。食料。悠宇このあたりは何があるのかしら?」

「――えっと、見ての通り大自然ですので――時と場合。運になるかと」


 実際悠宇たちはこの場所でまだ食料になりそうなものを見ていない。というか。バタバタがあってちゃんと食事をしていないことに話しながら気が付いた。

しかし今のところ悠宇たちの中でそこまで空腹の者はいなかった。

 シェアトとコールはちょっとお腹が空いていたが。それは顔にも言葉にもしていなかった。


「そういえば悠宇たちも来たばかりだったのよね――そうね。食料は大切よね。わかったわ」

「へっ?」


 何がわかったのでしょうか?と、思いつつ。シェアトの方を悠宇たちが見ると。


「悠宇。コールに機関車の動かし方――って、コール知っていたわよね。悠宇から機関車を借りて、実りの町へと食料を追加でもらいに言ってちょうだい。私はここで待つわ」

「はい!?って、シェアト様を1人にできませんよ。なんで私が付いてきたか」

「命令よ。私が空腹で倒れていいの?」

「それなら今ある食材が減ってから」

「どれだけ避難するかわからないのでしょ?」

「それは――」

「ということで、悠宇。コールに機関車を貸していただけないかしら?もちろん。後日報酬も出すわ。まあ今はいろいろあるからたくさんは出せないけど」

「あっ、いや、機関車を貸すのはいいのですが――えっと。なんというか。俺1人でどうこうはできないので――」


 勝手に物事が進みそうになっていたので、悠宇が海楓やちかの方へと視線を送り助けを求める。


「あー、私は戦えないですよ?弱っちいですよ?」


 悠宇の視線に気が付いたちかがまず答えた。

 確かにその通り。今のところは隠しているが。ちかの能力はどう考えてもお金。戦うではない。というか悠宇もちかに危険なことはしてほしくなかった。なんせ悠宇の安定剤はちかだから。とか悠宇が思っていると。


「――悠宇先輩。今失礼な事考えました?」


 余計なことを悠宇が考えてるとしっかりとちかにバレるのだった。


「――いや」

「ほんとですかね?」

「何も。って、海楓もだよな?」

「あっ、話変えた。って、まあ、今は良いとしましょう。ってか、この土地何が危険なんですか?そういうのあまりわからないんですが……」

「まあ人ね」

「人ですね」


 ちかの質問に即、シェアトとコールが答えた。


「――ここも同じか」


 ふと現実世界でもなんやかんやとするのは人だな――と、悠宇が話を聞きつつつぶやくと。


「悠宇殿たちのところも戦いが?」


 コールに聞こえたらしく。聞き返してきた。


「あっ。まあ戦い――ありますね」


 こちらの世界を見れば戦争をしているところもある。それは人と人がしている。なので敵は人というのか――同じ生き物なのになどなど悠宇が思っていると今度はシェアトが口を開いた。


「どこも不安定なのね。って、とりあえずコール私は生きていない設定の方がいいのよね?ということで、私は今から悠宇にかくまってもらうわ。ここから出ないからコール町と行き来して」

「いやいやいや、だからシェアト様」

「それに。悠宇は私の婚約者。跡継ぎも――ですからね。コールが居ると常に監視されていそうですし」

「ちょちょ、シェアト。悠宇先輩はー」


 シェアトの話にちかが慌てて口を挟む。しかし、そこで海楓も口を挟んできたので――。


「まあでも悠宇は獣だからね。全員と――ってことにもなるかも」

「おい、海楓。お前もう慣れたな。というか。余計なことを言うな。というか。勝手なことを言うな」

「悠宇が強く言っても全然怖くないよねー、あっ、シェアト悠宇こんなんだけど、優しいから」

「いや、ちょ、マジで勝手にいろいろいうな」

「悠宇。私は大丈夫よ。どんなタイプも悠宇ならOKよ」

「シェアトもちょっと黙ろうか?」

「おお、悠宇がお姫様に対して強気ー」

「海楓。別にお姫様って。私堅苦しいの嫌なんだって。雑に扱ってくれていいから」


 ちかの声はあっさりと3人の会話の声で消えていった。ちかは今もぼそぼそ言っているが。どうやらシェアトの発言でいろいろ想像?しているらしく。顔を赤くしてうつむいているだけだったので、気が付けば話の輪から外れていたのだった。


「マジで1回落ち着いてくれ」

「悠宇。これからよろしくね」

「いや、シェアトも軽いというか。もっと俺たちの事怪しんでも――」

「いや、だって、手にかけるならもうとっくにしてるでしょ。機会は一杯あったと思うし。今もだし」

「あー、なんでこんなことに」

「とりあえず、コール。1回実りの町へ戻る。私が無事に匿われた――いや、死んだって言って帰って来なくていいわ。そしたら悠宇たちとのんびり暮らせるもん」

「シェアト様!?」


 すっとんきょんな発言に振り回されるコールは少し大変そうだが。いつもの事なのか。投げ出すことなく今のところはシェアトとちゃんと話すのだった。

 でもそれがいつまで続くかは――不明である。


 またそんなシェアトとコールのやり取りを見つつ。悠宇は薄々というか。ほぼほぼ気が付いていたが。とんでもない姫さんに捕まった。目を付けられたと再確認するのだった。

 そしてそして時を同じくして、ぶつぶつと言っていたちかはちかで――『急に現れた最大の敵――』などとつぶやきつつ改めてとんでもない人と悠宇を合わせてしまったと再確認していたのだった。

 海楓に関しては――『面白くなってきた』などと楽観視していた。 

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