第72話 杜若到着

 悠宇たちを乗せた機関車が杜若に到着した。

 杜若は悠宇たちが出発したときのまま。綺麗な駅舎が悠宇たちを出迎えた。

 ちなみに人影は一切ない。何か物が増えた。物が動いている。人の痕跡があった。ということは一切なかった。大自然のど真ん中にある謎な建物。謎な駅のままだった。

 今は全員が運転席から杜若の駅のホームへと降りたのだが。


「「……」」


 シェアトとコールが目の前の光景を見て固まっていた。

 ど田舎、大自然の中に真新しい駅舎があったからだ。


「――コール。これは夢?もしかして私死んだ?」


 少ししてシェアトが独り言のよう小さな声でつぶやいた。


「杜若は今は何もないと何十年と言われていたはずの土地なのですが――」


 若干呆れ気味とも思えるような力のない声でコールが何とか答える。


「どう見ても新品の駅舎よ」

「それは――そうですが」

「あと、線路も一部除いて真新しいわよ。確かに大木?は朽ちているけど――それでもよ。これは何?」

「私に言われましても――」

「なら悠宇!」

「へっ?」


 すると、シェアトがキリっと。悠宇の方を見た。

 ちなみに悠宇は実りの町からずっと話ながらも機関車を動かしてきたので、同じ姿勢だったこともあり。背伸びをしているところだったので意表を突かれたような表情をしつつシェアトの声に反応した。


「これはどういうことなの?悠宇たちが作ったの?」

「えっと――」


 どっかの誰かさんが何も考えずにちょっとぽちっとしちゃったらこんなことになっています。ということを言うに言えなかった悠宇はとりあえず海楓の方を見ると。


「あっ私がちょっと」

「海楓あんた何者なの!?」


 意外とあっさり海楓が答えた。というか。ざっくりすぎるがいいのだろうか?と、悠宇が思っていると海楓が勝手に話しだした。どうやら隠す気はないらしい。


「ホントちょっとぽちっとしたら」

「いやいや、説明になってないから!」


 シェアトの意見ごもっともである。


「悠宇先輩」

「うん?なんだ?」


 悠宇が海楓とシェアトのやり取りを声がかけるにかけれない状況になったな。などと思いつつ見ていると。ちかがこそこそと話しかけてきた。


「ここまで来ちゃってから打ち合わせすることではないと思うんですが。スイッチ切っておいた方が――」

「スイッチ?あっ、部屋か」

 

 ちかの声かけで悠宇は自分の家と繋がったままの駅舎内のドアの存在を思い出した。


「です。もし駅舎内に入るとか――いや、なると思いますし。シェアトとコールさんは避難してきたようなもんですよね?」

「だな。そして俺たちが何者なのかは言っていない――」


 ということで、海楓とシェアト、コールが話しているところから少し離れたところで、悠宇とちかはこちらはこちらで現状の整理を始めた。

 今もし現実世界につながったままの駅舎内のドアをシェアトが開ければそれはそれは大事になる可能性が高い。

 ということで、まずさりげなく2人で駅舎内へ。そして即スイッチを切る。というか戻す。それからまだ外で何やら言い合っていた海楓とシェアトたちのところへと行き――。


「海楓。とりあえずシェアトと、コールさんも疲れているだろうから中で座ってもらった?まあ何もないところだけど」

「あっ、それもそうか」


 声をかけると、海楓も気が付いたようにシェアトとコールに声をかけてとりあえず2人を駅舎の中のベンチへと案内した。


「で、この場所に来ましたが。このあとどうするんですか?」


 悠宇はシェアトたちが座ったところで今後の確認を始めた。

 ちなみに悠宇が話している間にちかが他にもし何かあると――なので、周りのチェックをしている。


「まあ、とりあえずこんなところまで追いかけてくる人も居ないと思うわよ?」

「でも機関車があると来れないですか?線路繋がってますし」

「――それはそうだけど。コール。実りの町に機関車はないわよね?」

「あっ、はい。今は悠宇殿が敷いてくれた線路があるだけで。そりゃどこかから持ってくればでしょうが。そう簡単に機関車を持ってくることはできないでしょうし。そもそも実りの町とこことしか繋がっていないの誰かが機関車で来るということは――」

「ということで、悠宇。特に問題なさそうよ」

「そ、そうですか。って、でも見ての通りここは駅しかないですし――身体を休めるところは」

「でもここ悠宇たちが住んでいるのよね?私別にベッドしか嫌!とかないわよ?以前は馬車の中で何日も寝ることがあったし。地面でも多分寝れるわよ」

「――」


 この人本当にお姫様。王女様?身分の高い人には見えないな。などと悠宇が思いつつシェアトの話を聞いていると。見回りを終えたちかが戻って来て手を挙げた。

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