第69話 妻?子?

 規則正しいリズムを刻みながら悠宇たちを乗せた漆黒の蒸気機関車は杜若へと向かってバックで走行中。

 今のところ全くトラブルなく。悠宇の作った線路上を走っている。

 そして、もともと出発時点からあまりピリピリしている雰囲気はなかったが。今はさらに時間が経過し車内。運転室内は和やかになっており。まるでピクニックにでも行くような雰囲気がそこにはあった。


「じゃあ、海楓たちはたまたま杜若に来たの?」

「そうそう、瞬間移動?って感じで」

「ふーん。私は行ったことないけど。確か何もなところって、でも緑が多くて人が少ないところなら――って、そもそも海楓たちはなんでそんなところに……コール。そもそもそんな能力ってあった?私瞬間移動とかの能力とか聞いたことないんだけど?」

「そりゃ――伝説の人とか。英雄と呼ばれる人ならできるかと思いますが。今はそのように英雄。伝説――と呼ばれる人は居ないですからね。まあそれに英雄なども歴史上。書物の中の人でもありますから。まあ世界は広いですから。そのような力を持っている人が居ないとは言い切れませんが――」

「だって、海楓。もしかすると――だけど、海楓たちは誰かの能力に巻きこまれて杜若に来ちゃった説もあるね」


 現在運転席内の悠宇の運転の邪魔にならない方。バックで走行しているため。いつもなら進行方向右側。というのだが。今は――反対なので進行方向左側?にて、海楓とシェアト、コールが周りの景色を見つつ雑談をしている。

 ちなみ悠宇は若干ひやひやとしつつ運転となっていた。

 なぜなら悠宇たちは一応別世界から来た。ということはもちろん伏せており。気が付いたら杜若に居たという設定だったのだが――海楓が1人でシェアトたちとの話に花を咲かせていたからだ。 

 海楓はいろいろと面白い方に事を進めたがる傾向がある。悠宇はそんなことを思っていたので、進行方向を見つつも耳は海楓たちの方へと向けていた。

 それができるのもこのシンプルな運転席のおかげでもある。速度調整もワンハンドル。難しい操作をしつつだと悠宇にはそんな器用なことはできなかっただろう。


 つんつん。


 運転と海楓の暴走を悠宇が気にしていると、悠宇のそばにちかがやってきて、悠宇の肩を突っついた。


「うん?どうした?ちか」


 悠宇が反応すると、ちかが口元を隠しつつ悠宇に話しかけた。


「――悠宇先輩。海楓先輩いいんですか?めっちゃ話してますが――変な事言うと……じゃないですか?」


 どうやらちかも海楓の事が気になり悠宇に話かけたらしい。

 ちかに声をかけられた悠宇はそっと海楓たちの方を見ると――3人は遠くの景色。ちょうど見晴らしの良い場所を走っていたため。悠宇とちかがコソコソ話しているのには気が付いていない様子だった。


「でも、海楓たちが居てくれたよかったー。あのままだと私まだ地下室のままだったかもしれないし」

「シェアト様。一応ですが今逃げているところですので。あまり顔は出さないように」

「別にいいじゃん。追手の気配もないんでしょ?それに久しぶりの外の空気なんだし」

「それはそうですが――って、一応外の空気が入るように天井に穴開けたんですが――」

「あんなのちょっとした光じゃん!」

「コールさん大丈夫ですよ。いざとなったら悠宇を生贄にしましょう『線路が作れる能力持ってます』って役立つ思いますよ」


 ふと、聞こえてくる海楓の声にガクッとなる悠宇。『勝手なこと言って――』と、言う表情をしていると。『まあまあ海楓先輩ですから』と、言う表情でちかが悠宇の肩を叩いた。


「そう言えば、悠宇の能力もぶっ飛んでいるわよね。ねえコール?線路作る能力それも英雄とか言われる人ならなの?」

「いやー。それこそ聞いたことない能力。普通は地道に作るか。いろいろな能力を持った人が協力して作るものですからね」

「なら悠宇には価値があると。うんうん」

「間違いなくあるわね。絶対味方なら話しちゃダメよね。ってことで、私と悠宇が婚約でOK?」

「そりゃ――」

「あの!丸聞こえというか。こっちに聞こえている事承知で話していると勝手に思っているけどさ。いろいろおかしい。あと、海楓勝手なこと話しすぎ。人を生贄とかいうな」

「えっ?聞こえてた?」


 嘘?という表情の海楓に悠宇がまたがっくりとする。

 そして悠宇はできれば学校モードの海楓で過ごしてほしかった――などと思っていたが。現在の海楓は完全にこちらでは素で良いと判断したのか。自宅での海楓となっていた。


「海楓。わざとやってるだろ」

「うん!」

「――素直すぎだろ……っか、テンション高いな」


 悠宇と海楓が話しているとシェアトが口を挟んだ。


「はいはーい」


 軽い感じで手をあげて発言を希望するシェアト。全員がシェアトの方を見る。悠宇はちゃんと前も気にしつつシェアトを見た。


「気になってたんだけど。悠宇ってどっちと付き合ってる?ってか、どっちが正室?側室?いうの?一応そういうの確認しておいた方がいいかなーって、あっ、もし私と婚約しても特に今の関係変えなくていいからねー。って、ホントどういう関係?」


 するとシェアトからそんな話題が出てきたため――。


「ぶはっ!?」


 ちか1人が大慌て。むせ返っている。

 なお、悠宇と海楓は何故慌てることがなかった。それは――単に予想していた。そもそも移動を開始する前からシェアトが適当なことを言いまくっていたこともあり。悠宇はそんな話題がそのうち――海楓も同じように頭の中で予想していたため。大した反応はしなかった。

 しかし、ちかは不意を突かれたように1人反応したため。シェアトの目に留まったのだった。

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