第68話 避難……?

 現在の悠宇たちは悪いことをしていないはずなのに――何故か逃げるように移動中。

 何故ならとにかくシェアトを再度隠すという理由でシェアトとコールを杜若まで連れて行くことになったから。というかなんか巻き込まれたのである。


 なお、杜若に行ってどうなのかということについては、今はまだはっきりと悠宇たちは聞いていないが。でも、シェアト曰く『杜若の土地では自分の能力を使えると思う。あそこは雰囲気がいいと思うから。ここ以上に――』らしく。それを聞いたコールもそれなら何とかなるかもしれないと何故か。とんとん拍子に事が進み今に至る。悠宇たちは『いや、雰囲気って――』という感じだったが。スルーである。

 はっきり言っておくが。現在悠宇たちの意見は全く入っていない。単にあれよこれよという間に今の状況となった。巻き込まれた。である。


 ちなみに現在は蒸気機関車が後ろ向きに走っている。運転席に座る悠宇は身体をひねりながらの運転となっている。

 何故後ろ向きなのかというのは、単純に機関車の向きが変えることができなかったからだ。実りの町に転車台などがない。悠宇の能力を使えば作ることができたかもしれないが。今はそんな時間はなく。とにかく発車となったため。向きを変えることが出来ず。バック走行となっている。

 しかしこの蒸気機関車。操作はワンハンドルで大変簡単。なんやかんやとわたわたしながら操作する必要はない。燃料の補給も今のところ必要なさそうであり。そもそもそれに関しては他の人でもできる。それもあり。難なく悠宇はバックでも蒸気機関車を走らせていた。


 なお、今車内はちょっと混み合っている。もちろんぎゅうぎゅうではないが。行きより2人多いからだ。

 そもそもこの機関車は客車を持っていない。そして実りの町に今客車となるようなものはなく。そもそもあったとしても連結ができるかわからず。どっちにしろ急いでいたので、この状況にはなっていただろう。

 ちなみに、客車がないから誰かを炭水車の方に――と。出発前に悠宇はちらっと思っていたが。さすがに汚くはないといってもどう考えても身分の高い方に対して、それはできず。口にする前に自身の脳内で却下。シェアトとコールを含め現在は全員で運転席に乗っているのが現状だ。なのでちょっと運転席は行きより賑やかではある。

 

「この線路すごく揺れが少なくて寝れそう。これも悠宇が作ったの?」

「まあ悠宇の能力だね。謎な」

「謎は余計だろ。まあ実際謎だが」

「自分で言ってるじゃん」

「海楓は何か能力あるの?」

「あー、私だけまだわかんないんだよ」

「私だけ――?」


 今避難中のシェアトは少し身体を隠しつつも久しぶりの外に興味津々で遠くを見つつ。海楓と話している。途中海楓が悠宇のことを答えていたため少し悠宇も口を挟んでいたが。とにかく今シェアトは海楓と話しつつ移動中だ。

 なお、なんか海楓がシェアトに余計なことを話しそうと悠宇はちょっとひやひやしていたが――。


「悠宇先輩。特に誰か来ていることはないです」


 すると悠宇とは反対の方向。実りの町があった方を見ていたちかが悠宇に声をかけた。


「ありがとう。ちか」

「いえいえ」


 現在のちかは悠宇に頼まれたこと『一応周りの警戒を――』ということをしっかり行っていた。

 もしかするとちかが今一番周りに警戒しているかもしれない。

 シェアトや海楓の会話には入らず。キョロキョロとちかは周りを見ていた。

 

 あれ?でもそういう周りの見回りって。シェアトの護衛。御付きがしそうなもんじゃない?と、思った人。多分それが正解だ。でも今シェアトの御付き。コールが何をしているかと言えば――。


「いやー、この機関車すごいですね。こんな性能の機関車はなかなかないですよ。あと、シェアト様の言う通り揺れが少ない。これならいろいろな物が運びやすくなるでしょう。あと操作がこんなに簡単な機関車があったとは――」


 悠宇たちの乗って来た機関車に感動してシェアトとは真逆というのだろうか?シェアトは外を見て感動だったが。コールは内側を見て感動していたので、周りのことはちかがしていたりする。というか。周りの警戒のお願いは実はコールから出ていないのだが――悠宇が勝手にして、ちかに頼んだのである。

 まあちかに関しては悠宇に頼られてニコニコで行っていたのだが――そんなことには周りの者は誰も気が付いていなかった。


 とにかく狭いところにいるが。新たに加わった2人は狭いなど全く気にしていない様子だ。むしろ避難――のはずがそれぞれ現状を楽しんでおり。シェアトに関してはどんどん海楓と仲良くなってる様子で、会話に花が咲いている。

 コールに関しても、今は無駄に悠宇の近くで悠宇の操作を見学していた。

 現状全く逃げている。避難している雰囲気はない運転席内だった。


 余談となるが。一応この国世界にも機関車はある。あるのだが。悠宇たちが乗って来たのは別物とコールが少し前に言ってた。

 もちろん見た目がそこまで違うわけではないが。コール曰く『こんなシンプルなつくりの運転席は見たことがない』と、乗るならすぐ驚いていた。

 もちろんそれに関しては悠宇たちも思っていたことだが。どうやらこの国の機関車も通常は操作が複雑なのが一般的らしく悠宇たちの乗って来た機関車は別物。見た目は機関車だが。と、いう感じだった。


 悠宇たちを乗せた機関車。順調に杜若へと向かっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る