第5話 悠宇の元日常 帰宅後

 賑やかな学校生活の時間は過ぎ去り。現在は放課後。 

 終業のチャイムが鳴った後の悠宇は部活動をしていないため。グラウンドなどで部活動の準備をしている生徒を横目にいつもより少し急ぎ足で自宅へと向かっていた。


 現在の悠宇は――何度も言うことになるかもしれないが移動中ということで再度悠宇の現状を説明しておくと悠宇は1人暮らしである。

 少し前に祖父。悠宇曰くだと爺ちゃんが亡くなり。その際に遺言書があり『自宅とわしが作ったディオラマを尾頭悠宇に譲る――』的なことが記載されており。現在の悠宇は実家を出て――と言っても、自転車で数十分の距離にはあったので、ほぼ同じ土地で少しだけ生活拠点が移動しただけであるが。

 いや、移動したのは少しだが。小さいながらも家(いろいろ訳あり)を丸まる1つ管理することになったので、悠宇の生活は大きく変わったと言ってもいいだろう。

 とにかく。悠宇は爺ちゃんからの遺言書があり。さらに家を任せる。みたいなことまで書かれていたため。現在は遺言通りに爺ちゃんの家で生活をしていた。


 すこしだけ急ぎ足で学校から歩いてきた悠宇は自宅に到着した。

 目の前には平屋の小さなおんぼろな家がある。

 ここが現在の悠宇の家である。

 外観はかなり古く。壁などにヒビがあったり。瓦も昔修理したのだろう。明らかに修理したところだけ少し新しい瓦が乗っていたり。これでもかなりマシになったのだが。手入れが行き届いていない家の両脇。通りから見ると裏側になるのだが。そのようなところは草が生え放題となっている。

 周りに真新しい家があるとその差がわかりそうだったが。幸いにも、悠宇の家の周りには家がぽつぽつとあるだけで、さらにその周りの家も昔ながらの日本家屋ばかりだったため。あまり悠宇の家の古さなどはは目立ってはいない方だろう。家の小ささはかなり目立っていたが――。

 悠宇は昔ながらの鍵を取り出し。ガチャガチャと鍵穴に差し込みまわす。そしてガラガラ。と少し大きめの音をたてながらドアを開ける。ちなみに音はわざと悠宇が出している物ではなく。そういう仕様のドアである。ドアを開けると無駄ににぎやかなドアなのだ。


「――ただいまー。って1人だけどな」


 当たり前だが1人暮らしなので、返事はないが今までのいつも通り。悠宇は爺ちゃんに声をかけるように室内へと入る。

 誰もいないことが分かっている(むしろこれで返事があるとそれはそれで問題であるが……)ので、声かけは必要ないかもしれないが。少し前までの習慣がまだ抜けきっていない悠宇だった。


 ちなみに悠宇の使った鍵は、単なる棒みたいな鍵であり。先っぽに少し細工してあるだけなので「別にこの鍵じゃなくても開けることができるのではないだろうか?」などと悠宇はこの家に住むようになってから常日頃から思っていたりし。

 そして『防犯のためにも鍵は直さないといけないだろう』とも思っていたが。なかなかそこまで手が回っていなかった。

 理由は先ほどの家の周りの手入れが出来ていないことも同じく関係してくるが。悠宇が学生で基本学校が忙しいというのと――2


 1つ目の理由は――というより。これがほぼほぼ大きな理由。悠宇がなかなか家に居る際に他のことに手が回らない理由となる。

 玄関のドアを開けた悠宇が次に室内へのドアを開けると――それはある。というか広がっている。


 ぎぃぎぃーと、すこし滑りが悪く重たくなっている障子を開けると――目の前いっぱいに広がるのはミニチュアの世界。精巧に作られた鉄道模型の世界が広がっているのだ。

 観賞用の小さな模型の世界――そんなレベルではない。

 もちろん模型なのですべてが実物よりはるかに小さいのだが――その規模がおかしかった。

 もともと悠宇は爺ちゃんのお世話のために昔からこの家には来ていた。そのためすでにこの光景を見ても慣れているが。初めての人がこの光景を見るとまず固まる。間違いなく障子を開けたらその場で固まる。

 現に悠宇の家族。この家の元の持ち主。爺ちゃんの関係者。親族が来れば面白いように全員が同じ反応をした。もちろん郵便などを持ってきてくれる配達員の人や訪問者の人も。ちょっと玄関の中へと入り。その奥が見えるとその場に固まったとか。そして過去には感動して見させてほしいと言う人も居たりしたらしい。

 なお、昔の悠宇もはじめて見た時は驚きその場に固まり。キョロキョロ。しばらく何事かと驚いたような表情で目を大きく開き室内を彷徨っていたらしい。これは悠宇の爺ちゃん談である。


 話を現在に戻し。悠宇の今住んでいる家の室内には一面。いや、室内ほぼ全面にレイアウトが巡らされている。玄関のところからではレイアウトの全貌は見えない。そもそも現在居間に悠宇は入ったのだが。その居間だけにレイアウトは収まっていなかった。大雑把に言えば家の内のほとんど。廊下などすべて。多分だが家の9割が鉄道模型のレイアウトで埋め尽くされているのである。

 レイアウト上には、数えきれないくらいのたくさんの車両。

 リアルに作られた町。ちなみに電気も一部付くように作られている。

 その他にも当の水が溜まっているのではないかと思ってしまうようなリアルな海や川。断崖絶壁などが作り込まれている山もある。

 レイアウトをよく見ると各所に小さな人形。人の姿も再現されている。

 町なら多くの人が集まっていたり。海なら海水浴をしている人。山のところにも登山をしている人が居たりと隅々までが細かい。

 一部にはちょっと異国?の雰囲気を出している場所もある。

 人――ではない。生き物?の住んでいるような町や。見た目は人だが。よく見ると耳に特徴があったり。二足歩行をしている犬や猫。さらによく探してみると龍のような生き物もいたりと。不思議な世界が広がっている場所もある。


 とにかく。現在の悠宇の家は玄関から入って数歩でジオラマの世界が広がっているのだ。

 足の踏み場もほとんどない。鉄道模型以外の1割というのは水回り。台所、洗面所くらいだ。悠宇は玄関すぐの障子近くに何とか作った荷物置き場のスペースにとりあえず学校から持ってきたカバンなどを起き。廊下で着替える。

 何故廊下で着替えるのか。その説明はする必要がないかもしれないが。一応言っておくと、本当に場所がないのである。基本悠宇は廊下の死角。玄関からは見えないところの壁に制服など衣類をかけている。これも早く何とかしたいと思いつつも。そもそもこの家にはもう悠宇が使える場所が現状ないため。今のところは仮置き場ということにしている。


 これは余談となるが。悠宇が着替えている間に少し無駄話をする。

 爺ちゃん曰く『ディオラマ』という言い方をしていたが(そもそも癖のある言い方をしていたがそれは触れないでおく。一応ジオラマと同じ意味である――はず。この確認はすでにできない)悠宇は走らせることができるから。『レイアウト』じゃないのかな?と、昔爺ちゃんは話したことがあるが。『わからないからどっちでもいいじゃろ。ディオラマもレイアウトもおんなじじゃ』ということになっていたりする。

 そのため悠宇もこの鉄道模型の状態がジオラマ(爺ちゃん曰くディオラマ)なのかレイアウトというのが正しいのかは今現在も知らない。知らないが悠宇はずっと言っていたのでそのままレイアウトと表現をしている。

 あやふやなままでもよいのかもしれないが。誰か詳しい人が居たら悠宇まで連絡してあげてほしい。周りには言っていないがちょっとだけ悠宇が未だにもやもやしていることだったりする。本当に頭の隅で塵レベルのもやもやだが――。


 ということは置いておき。

 すこしして、着替えを終えた悠宇はラフな部屋着になった。

 そしていつもなら、学校から帰ってくるとまずレイアウトの中心へ――というべきなのか。とにかくこの広大なレイアウトの中で、唯一座れるところがあるので、そこに悠宇は移動し座ることが多い。

 座ると目の前にはいくつものコントローラー。ワンハンドタイプのものが複数並び。さらにその横にはさらにたくさんのレバー。ポイントを切り替える装置になるのだが。それがもう何が何だかわからないレベルで並んでいる(悠宇は今のところどのレバーがどのポイントか全くわかっていなかったりするが)。

 そんなものを前に悠宇は何をしようとしているかというと。爺ちゃんからの遺言の実行。鉄道模型の整備。メンテナンスである。

 そもそも鉄道に関してあまりわからず。特に好きでも嫌いでもなかった悠宇だが。今はこの大規模レイアウトの管理という使命というべきか。爺ちゃんからの遺言があるため。少しずつだが維持管理を真面目にちゃんとしていたのだ。


 悠宇は基本真面目である。

 やるべきこと。

 守るべきものはちゃんと守る。

 言われたことはやる子である。

 面倒と言いつつもやっちゃう子。

 それもあって、家族。親族一同から『面倒。あんな意味の分からないことをしている人の相手はできない』などと言われていた爺ちゃんの世話。様子見というのを長年出来ていたのかもしれない。

 ちなみに、悠宇は特に爺ちゃんの世話をいやいやしていたわけではない。

 そもそも悠宇は昔から爺ちゃんとは良い関係性を築いていた。

 それもあって爺ちゃん亡き今は爺ちゃんの代わりを。遺言の実行を行っていたのだった。少しずつだがちゃんと鉄道模型をいつでも動かせるように独学で少しずつ調べ。少しずつ各所の整備をいつもなら行っていた。

 いつもなら――でも、今日はレイアウトのことをするよりもやることができたため。着替えを終えた悠宇はすぐにカバンから貴重品だけを手に持ってまたが外出の準備を始めていた。


 行先は――加茂海楓の家である。

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