第18話 即バレた
「はい!悠宇の家到着」
軽くジャンプして悠宇の家の玄関前へとやって来たのは海楓である。
「――ほんと、今まで見ていた海楓先輩は偽物だった……」
少し驚いたようにつぶやいているのはちかである。
「偽物って。どっちもほんとだ。使い分けのプロだね」
「確かにオンオフの切り替えはすごいと思いますが――疲れませんか?学校とか」
「慣れたかな?ってか、学校とかで『みんなにバラしてやりてー』みたいな顔をしてる悠宇見るの面白いし」
「――ほんと悠宇先輩。お疲れ様です」
ちかは今はこの場に居ない先輩に対してつぶやく。
「まあ悠宇はね。真面目ってか、優しいからね。ちょっと脅せば何も言わない」
「いや、それは何と言いますか。真面目や優しいとかではなくて――海楓先輩が怖いと言いますか」
「あっ。ちかちゃんも公言禁止ね。言ったら――まあ悠宇が大変なことになるかな」
「明らかに脅しですね。って、もちろんいろいろ怖いので言いませんが。悠宇先輩の家の前でこの話をしているのは――どうなんでしょうか?もしかするとすでに悠宇先輩に聞こえているような気もしますが――」
「じゃ、インターホン」
悠宇の家で少しちかと雑談をした海楓は小さなインターホンを押す。長年使われているもので、押している間『ビィー』と鳴るインターホンである。
海楓はそれを慣れた様子で『ビッビッビー』と鳴らす。
「こうするとね。悠宇は私が来たって気が付くんだよ」
「――今に関しては家に居たらもう十分声が聞こえていると思いますが――って、基本悠宇先輩の家玄関付近しか居る場所ないですからね」
自慢げに話す海楓。なお実際は特に海楓のインターホンの鳴らし方に悠宇が気が付いていることはないのだが――でも、そもそもこの家を訪れる人が少ないのと。ちかが今言ったように悠宇の室内での居場所が玄関に近いため。声でも聞こえればすぐに誰が来たかわかるのだった。
「そうそう、9割以上模型だからね。まあたまに遊ばしてもらうのは楽しいからいい場所だけどー泊まれないのがね。長居ができないから」
「まあ台所と洗面所だけ狭いなりに普通なのが救いですかね」
「そうそう。って、悠宇ー」
インターホンを押しても室内から反応がなかったため。海楓が室内へと声をかけながらドンドンとドアを叩く。
「「――」」
しかし、室内からは物音1つしない。
「留守ですかね?」
玄関の左右を見に行くちか。
「悠宇が模型いじってないとかありえないんだけどなー。悠宇ーお姉ちゃんだよー。ちかちゃんも居るよー」
ちかがうろうろしている間再度ドアを叩く海楓。
しかし室内からの反応はない。無音だ。
「裏もいつも通り模型に陽が当たらないようにカーテンが閉めてあるので室内は不明ですね」
裏の様子を見て来たらしいちかが海楓に報告する。すると海楓は持っていた学校のカバンに手を伸ばす。
「何しているんですか?海楓先輩」
「ちかちゃん。ちょっと壁になって」
「はい?」
「壁」
「壁?」
「そう、私の後ろ立ってて」
「はい?」
海楓の行動がわからないちかが少しおろおろしていると、海楓は玄関のドアの前にしゃがむ。
海楓のしゃがんだ場所のちょうど目の前には――鍵穴がある。
そしてカバンの中からクリップを取り出した海楓はそのクリップを解体。まっすぐに伸ばしていく。その姿を後ろから見たちかは、海楓が何をしようとしているのかすぐに理解した。
「ちょちょ、海楓先輩何するつもりですか!?」
「一度してみたかったんだよねー。ピッキング」
ちかの問いに決め顔で答える海楓。
「ダメですよ。犯罪になりますよ」
「大丈夫大丈夫。お姉ちゃんだから。もう家族みたいなもんだよ」
「いやいや、ダメです。お姉ちゃんとか全く関係ないです」
そんな海楓の行動を一応止めようとするちかだったが――。
「とりあえず悠宇のところだから大丈――」
ガラガラ。
「「――――あれ?」」
海楓の肩をちかが触った際に海楓が自分の身体を支えるためになんとなく玄関のドアに触れた。
すると――軽い力で玄関のドアは開いたのだった。
「あれ?悠宇居るの?って、靴あるじゃん」
玄関内を見た海楓がつぶやき。海楓の声で視線を落としたちかも悠宇の靴を確認する。
「――お手洗いですかね?」
「あー、なるほどタイミングが悪かったと。じゃ、お邪魔します」
勝手にいろいろと判断した海楓が室内へと入ってく。
「いやいや、普通に入るんですか」
そんな海楓を追いかけるようにちかも室内へ入る。
玄関のドアをちかが閉めている間に海楓は靴を脱いで室内へと足を踏み入れる。
「悠宇ー。お店閉まってたから来――えっ」
「ちょっと、海楓先輩。さすがに勝手に入るのは――って、どうかしました?」
すると、先に室内へと入っていった海楓の声が途中で途切れた。
海楓の後ろに居たちかは海楓の見ている光景がわからなかったので、急に固まった海楓を不思議に思いつつ。靴を脱いで揃え。『お邪魔します』と、小声で言いながら海楓の横に行くと――。
「なっ!?なんですかこれ!?」
「――ついに悠宇……嫌になった?悠宇が荒れちゃった?荒れ狂っちゃった?」
「いやいや、悠宇先輩は模型を大切にしてましたからこんなことするはずが――」
悠宇の家を訪れた2人が見た光景は、ボロボロになった鉄道模型のレイアウト。
よくよく見ていた光景はもうなく。多くの車両が横転し。破壊されていたり。無残にも崩れ落ちた町。各所で折れている線路。そして大きく崩れた山。奥の方では真っ黒になっている場所もある。
家自体に何か起こっているということは見える範囲ではないが。鉄道模型のレイアウトだけが。無残な姿になっていた。
以前は各所で綺麗に作り込まれた風景があったがその姿は見る影もない。
「悠宇!どうしたの?悠宇!いないの?」
さすがに異常事態と感じた海楓が手に持っていた荷物を床に置くと、少し慌てた様子で室内の動ける範囲。廊下。台所、洗面所などの方を見に行く。
「悠宇先輩。どこですか?大丈夫ですか?」
ちかの方は鉄道模型のレイアウトの内部。一応コントローラーなどがあるところ以外にも鉄道模型のレイアウトの中心部へと行けるように狭い通路が作られていることを知っていたため。スマホのライトを起動させてコントローラーのあるところの真下の狭い空間を覗きながら声をかける。
しかし、レイアウトの下のところには誰かいるということはなかった。
そもそも悠宇が点検をしている時は潜るところが開いており。中も電気が付いているはずなので、あまり期待はしていなかったが――その後ちかは無残な姿になったレイアウトの確認をする。
「酷い――なんでこんなことに、もしかし泥棒?あれ?でも悠宇先輩の靴はあった……って、これ――燃えてる?って、この模型。本物の土とか使っていたの?えっ?って、なんかこれ――なんて言ったらいいんだろう。まるで本物の土地というか――」
模型を確認したちかも悠宇と一緒にちょくちょくレイアウトを見ていただけあって、悠宇と同じようにこの模型の違和感を感じ出した時。海楓が『こっちにはいなかった』と、戻って来た。
「あっ海楓先輩。模型の下とかにも潜ってなかったです。って、海楓先輩。この模型って、本物の土とか使っていたって知ってました?」
「えっ?そうなの?」
「これ見てくださいよ」
ちかに言われると海楓もレイアウトに近寄り近くで見て確認をする。
「――ほんとだ。悠宇のおじいちゃんほんとリアルに作り込んでいたんだね」
海楓もつぶやきながらちかと同じようにまじまじと模型を観察する。
「ここまで忠実だったとは――って、そもそも悠宇先輩はどこ?」
「あっ、そうだ。って、あそこだけ何も起きてない?」
「えっ?」
すると。キョロキョロと模型を見回した海楓が一番コントローラーに近いところだけ異様に綺麗。その他のところは無茶苦茶に壊れているのにそこだけ何も起こっていないことに気が付いた。
「あそこあそこ」
「あそこ――あっほんとだ」
海楓に言われてちかも気が付くと2人はコントローラーのある場所へと近寄った。
その場所は唯一壊れていないところ。町とかがあるわけではないが。コントローラーの近くということで、車両をそこから線路上へと悠宇が乗せていた場所。ちなみにそれは昔悠宇の爺ちゃんがしていたことでもある。
その場所だけが無傷。そして――他の車両は無残な姿になっていたが。唯一。綺麗なまま線路上に乗っている漆黒の蒸気機関車がある。
「ここだけ――無傷?」
「なんか気になりますね。ここだけって」
2人がジーっと蒸気機関車を見る。
明らかにその場所だけが目立っていた。というか。怪しい。という言葉しか思い浮かばないような状況だった。
「うん。それにまるでこの車両を触ってくれって言ってる見たい」
「そういえば――このSL?って、悠宇先輩のお爺ちゃんが大切にしていて、悠宇先輩ですら触らせてもらえなかったものだったような――?」
少し考えながらちかがつぶやく。
「そんな車両あったんだ」
「はい。ちらっと聞いたような――」
「なら、悠宇は――この車両を無断で触って――消されちゃったとか?」
「海楓先輩。ふざけている場合では――って、でも悠宇先輩が居るなら室内のはずなんですがね」
「そうだよね――」
再度あたりを見回す海楓とちか。しかし悠宇の姿はもちろんない。
「ちかちゃん。ちょっと触ってみてよ」
「えっ?」
すると、海楓がちかの手を持って蒸気機関車の方へと軽く引っ張りだす。
「嫌な予感がするからね――」
「いやいや、嫌な予感がするもの人に触らせないで――って、海楓先輩の力が強い!」
「私これでもスポーツもオール5だからね。体力測定とかも平均以上だよ」
「忘れてたー。見た目から予想できないほど馬鹿力持っているって悠宇先輩言ってた!」
「――悠宇そんなことを――って、とりあえずハイタッチ」
「ちょ」
ちかが少し油断した瞬間。ちかの指先が蒸気機関車に触れ――そうになった。次の瞬間だった。
少しだけにぎやかとなっていた悠宇の家の室内はまた静寂が訪れたのだった。
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