第163話 昔昔あるところに――転生者2 ◆

 転生者の魔王となってから――だったがすでに魔王の周辺がおかしなことになりつつあった。


「早く持ってこい。俺は魔王だぞ!待たせるな!役立たず!」

「なんでお前みたいな奴が居るんだよ。クビクビ。二度と俺の前に姿を現すな」

「あん?いつ攻めるだって?そんな事お前たちが勝手にすればいいだろ、いちいち聞くな考えるくらいしろよ。俺の周りは無能ばかりかよ。これなら昔の俺の方が有能じゃないか」

「魔族って言うんだから。もっと色気のあるやついないのかよ。くそ真面目ばかりじゃねぇか。こんなの全く興奮しねぇ。かわいい子探して来いや!俺は魔王だぞ!休みも大切なんだよ!わからないのか!」


 この転生者の魔王。中途半端に前世の記憶を残していたため。当たり散らかしていた。前世で何があったのかは誰にもわからないことだが。前世で何かあった。上手くいかないことが多々あったのだろう――あったのだろうが。ここでそれを言っても何もならないし。変わることのない過去の事。

 すでにこの世界の住人となっているのだから。ルイ・ノグモという魔王の記憶を頼りに生活していけばもう少しは長く魔王として生活できただろうに――。

  

 そして、転生者の魔王になって、1か月もしないうちにヒメルヴアールハイトの魔王城。ルイ・ノグモがずっと使っていたのは、自分が作ったヒメルヴアールハイトの魔王城だったのだが。そこはがらーんとした城。すでに一部手入れが行き届かず廃墟のようになっていた。

 このようなことになった理由は、もちろんある日突然まるでわがままなガキになったルイ・ノグモから人が離れたからである

 魔族の多くは自分が魔王になると野望を持っている者が多い。それをルイ・ノグモはほぼ完ぺきにまとめ上げていたのだが――ルイ・ノグモの記憶を持っているが。そんなの関係ない。自分がやりたいように転生者がやりだしたら――まああっという間に分裂である。

 そして、分裂。バラバラになったということは、各地で新しい魔王になろうとする輩が出てくるというのがいつもの流れなので――この時も転生者の魔王が知らないところで、着実にいろいろな準備が進んでいたりするのだが。この転生者の魔王が気が付くわけがなかった。


 転生者の魔王は自分の思うがまま。そもそもルイ・ノグモという一時期の最強の魔族。魔王の力を持っている転生者の魔王。それはそれはそのあとも自由に魔王という生活を最期の時まで続けるのだった。


 ちなみにこの転生者の魔王の終わりはもう1年を切っているのだが――そんな事知る由もなく。エーテル域がまた不安定な方向へと動こうとしている最中。転生者の魔王はというと。


「そうだな――俺は魔王なんだ。魔王になったんだ。つまり――子供をたくさん作らないとな!じゃないと俺で終わっちまうじゃないか。なんで誰もそういう提案ができないんだよ。馬鹿じゃないのか?俺が気が付かなきゃ途絶えてるじゃないか。こんないい生活はずっとしたいからな。さすが俺。賢い。未来のことも考えれる。そう。俺は未来もしっかり考えれたのに――あいつらは俺を無能とか言って――邪魔者に――見てろよ。魔王の俺がお前たちの人生もめちゃくちゃにしてやるからな。くそったれが――」


 壊れかけの王座に座りそんなことを言っているのだった。

 しかしこの時すでに彼の周りには誰もいなかった。

 誰もいなかったがゆえ、この転生者の魔王が最後にとんでもないことをして生涯を終えることになったのだった。

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