第21話 能力わかりません!
「本物――みたいですけど。ハンドルが確かにないと動かないですよねー」
「でも悠宇が言うようにこれが絶対何かあるよね。普通ならこんなのあるのがおかしいだろうし」
「だろ?でも動かせないんだよ。警笛は鳴らせるが」
突如として、別世界?(未だにどこに居るのかわからない場所)へとやって来た悠宇。海楓。ちかの3人。
元の場所。悠宇の家へと戻るすべがわからないまま時間は過ぎていた。
今は3人でもくもくと煙を出している蒸気機関車を見ているところである。
悠宇は一度見て動かせないことをわかっていたが。もしかすると2人が改めて見ると何かわかるかもしれないと思ったのだが――今のところ何も新しい発見はなかった。
「悠宇。これもう後ろから押してみたら?」
すると唐突に海楓が少し笑いつつそんな提案をしたが――もちろん無茶なことである。たとえ3人で押したところでびくともしないだろう。
「あのな。明らかに無理」
「いやいや、もしかしたら悠宇の能力ーって、そうか。もしかしたら悠宇にその線路を作る能力があるなら――私とちかちゃんにも何かあるってこと?」
「あっ、その可能性は――って、どうやってそれを知るんですか?」
「さあ?とりあえず――こういう時は……ステータスオープン!とか?」
ちかと話しながら海楓がそんなことを言ってみるとが――何も起こらない。
「――何もないと恥ずかしいね」
あはは、と苦笑いをしつつつぶやく海楓。
「でもまあ、確かに海楓の言う通りいろいろ試すのはありだな。ってか、俺的には、翻訳能力?みたいなのもある気がするんだけどな」
「翻訳能力?」
悠宇がつぶやくと。ちかが聞き返した。
「いや、だってここどこかわからないのによ。俺たち唯一の文字ってか。そこの駅舎?の文字読めるじゃん」
「あー、確かに」
「まあそれは一理あるね。もしかするとここが日本のどこか――ってことはあるけどね」
悠宇とちかが話していると頷きながら海楓も話に入って来た。
「まあ海楓の言うことも一理――って、この時代に瞬間移動させるような技術あるか?」
「どうだろうね?あるかもしれないけど――ここ70年くらいだっけ?失われた時代?だっけ?裏ではそんなこと言われてる時代だからね。昔も今も大して変わっていないこの時代にそんなものあるかな?」
「あれですよね。本当はもっといろいろ技術が発展して、空飛ぶ車――とかとか言われてどんどん社会。経済が発展していく――だったのに平成に入っての20年。30年と停滞?みたいな感じで40年に突入――ってところで、印象が悪いとか思った政府が失われた――とかの言い方を消しちゃって今はあまり言われないあれですよね?」
「そうそう、さすがちかちゃん」
「いやー、悠宇先輩のお爺ちゃんが良く言ってましたから『この国はまるで発展してない』『線路を繋ぐだけで繋がりの宝というのに――』でしたっけ?そんなこと言ってまして。変に記憶に残ってました」
「あー、言ってたな。爺ちゃん。『わしが若い頃は――とかだろ』」
「ですです。模型をいじりながらよく言ってましたよね――同じことを」
「それは悪いってか。爺ちゃんは基本親戚一同から変人扱い。勝手に妄想の世界に入っているとか言われていたからな」
「そこまで――だとは思いますが。でも確かにいろいろぶっ飛んだこと言ってることありましたよね」
「私が行ったときも言ってたかなー。って、まあ実際。今の社会は私たちが生まれる数十年前からほとんど変わってないってことだからね。いつだっけ?平成――30年?前後くらいと今の生活は殆ど変わってない。発展してない。世界から大きく後れを――って、言っている学者さんいるんだよね」
「らしいね。でもそんな事はない。常に日本は発展しているとかお偉いさんが言ってて――」
「不都合なことは隠す。消す国に――」
「まあでもそこまで不便には感じないけどね」
「確かに」
「ですね。連絡手段とか移動手段。今あるので十分ですよね。急ぎすぎて安全性が――とか。新しく作るから自然破壊に――っていう問題もあったみたいですし」
「そういえば昔は温暖化―とかがめっちゃ騒がれていたとか習ったな」
「でも経済が停滞したらそれ以上悪化せずに。さらに地球自身の修復能力のすごさが発見されたんだよねー」
「あれはあれで不思議な話だったよな。急に日本の周りだけ変わったというか――それこそ変な能力が使われた――はもちろんないだろうが――って、俺たちは何を話してるんだ?」
無駄なことをいろいろと知らぬ土地で話していた3人。
ふと悠宇が現状を思い出し話を戻した。
ちなみに今悠宇たちが話していたこと今現在悠宇たちが住んでいたところでの話しであるが。今の現状には関係ないと思われることなので、この話はまた機会があれば。である。
「悠宇のお爺ちゃんがぶっ飛んでいた。だね」
悠宇が話を戻したところ海楓も話を戻そうと?答えた。
「サラッと爺ちゃんの責任にする海楓――と。まあ間違いではないと思うが」
「最近の海楓先輩暴走しているところしか見ていないような――いや、学校では別人ですが――」
「2人がすごくひどい事言ってる――って、能力だっけ?」
「そうそう、そんな話俺たちはしていた」
「わたしとちかちゃんの能力を考える――って、悠宇はたまたま見つけたんでしょ?」
「まあだな。たまたま叫んだら――だな」
「それだともし私たちも何か能力持っていても気が付けないでしょ。何?私とちかちゃんもいろいろ叫べって?」
「そうなる――またはもしかしたら俺もふと思ったことを口にしたから。何か持っている能力に関しては気が付けるように何かある――いや、それはないか」
「はいはーい」
悠宇と海楓が唸りながら話しているとちかが挙手した。
「例えば――ですが。悠宇先輩はここから移動しようとして線路を――でしたよね」
「まあそんな感じというか。でもたまたまだぞ?」
「でも、ふとその時思ったことがもしかしてそのまま能力となっているとかないんですかね?」
「どういうことだ?」
「悠宇先輩は移動したかった。だからSLを使って移動できる能力を得た」
「いや――」
「でも文字もそうかもしれませんよ?私たち全員が読めるなら。全員がまず唯一の文字。書かれている物を読みたいと思ったからそのまま能力を得た――とか」
「うーん。なんかちかの言いたいことはわからなくもないが――じゃあもしかして俺が今腹減った。水ほしいとか思ったらそういう能力を得られるとか?」
「かもですよ?」
「まさか」
「でも悠宇。ちかちゃんの言うようにいろいろ試さないとだよ」
「まあそうか――じゃあ。『水よ現れよ』」
…………。
悠宇がちかたちに言われるがままそんなことを言ってみたが――何も起こらない。
ちかの提案でちょっと盛り上がりつつあったテンションが下がっていく。
「――なんか悲しいな。って、2人もしろよ」
「えっと――『水よ現れろ』」
「『水よ。私に力を――』」
「なんか海楓だけ攻撃してきそうな事言ってないか?」
とまあそんな感じでそのあと3人は蒸気機関車の前で、水やら衣類やら食料。火。などなど思いつくことをいろいろ口に出してみたが――。
「なんも起こらないじゃないですか!」
「だね」
「びくともだな」
何も起こることはなく。ただ時間だけが過ぎていた。
なお、後半はほとんどやけくそ。単にストレス発散のように叫ぶ3人だったりする。
「じゃあ――次は――あっ。もしかして動け!とかでSL動きますかね」
「あっ。それは試してない」
するとちかそんなことを言い。蒸気機関車の運転席へと再度上ろうとして――ふと足を梯子にかけた瞬間止め。悠宇の方を再度見た。
「ちょ、悠宇先輩。見上げないでください。私スカートですから」
真後ろにいた悠宇に少し恥ずかしそうにちかが言う。
「あー、悪い悪い」
「ちなみにさっき私はちかちゃんのパンツ見たけどね」
すると、悠宇の後ろからひょっこり顔を出して余計なことを言う海楓。
「海楓先輩!?」
「えへへー」
もちろんちかは梯子を上るのをやめて悠宇に猛抗議を開始した。
「悠宇先輩!この海楓先輩偽物ですよね!?学校ではこんな姿絶対ないですよ!?」
「――残念ながらこの変態おっさんが家モードでもある」
「変態おっさんって、ひどすぎでしょ」
「だからさっきも言っただろうが。家でもだらけているって。成人して酒飲みだしたらそれこそおっさん」
「――やばいです。さっきの悠宇先輩の話を聞いていたからか。想像が出来てしまいます」
「だろ?数年後はおっさん海――」
バシッ。
「痛っ!?海楓。暴力反対」
少し悠宇が調子に乗ったからだろう。ささっと悠宇に近寄った海楓が悠宇の背中を攻撃した。多分悠宇の背中には海楓の手形が出来た。
なお今の様子をクラスの男性陣が見ていたら――『俺も!』などと行列が出来ていたことであろうが。今はそんなことはもちろん起こらなかった。
「だって、悠宇が秘密ばらすからでしょうが」
「秘密ってか。事実と認めているような――って、とりあえずちか。やってみよう」
「あっ。運転席でしたね」
「ああ、俺が先に上るから」
それから悠宇が先に運転席に上り。そのあと何故か。すでに悠宇は後ろに居ないがスカートを押さえつつちかが上り――海楓も上がった。
「でわ、えっとSL?でいいですかね?」
「まあなんでもいいんじゃないか?SLでも蒸気機関車でも。炭水車付き蒸気機関車でも」
「いっぱい言い方が――って、私はSLというので――『SL動けー』」
そしてちかが運転席に座り蒸気機関車に対して願ってみたが――。
「「「……」」」
やはり煙は出ているが動くことはなかった。
その後悠宇と海楓も試してみたが――全く動く気配はなかった。
「もうどうなってるんですかー。ってか、私たち本当にこの後どうするんですか?」
「何とも」
「うーん。まあ一人じゃないからまだいいけど――だね」
ちょくちょく希望の光が見えそうで――消えていく状況。
見知らぬ土地で完全に手詰まりの3人だった。
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